第22話 新たなアドバイザー
次にこちらで先輩と遭うことになれば、それは十中八九、敵としてになるだろう。雫は市がなりふり構わないことを見越していないではなかったけれど、金華が二度と迷宮巣のこちら側へ来ないことを望んでいた。
しかし、雫の儚い願いは砕かれたらしい。
小型の土人形端末に視覚を再現して、迷宮巣近くに張り付かせている。実行部隊にも今のところ気づかれていないものだ。
「……あの男は?」
隣にいる知らない顔の青年、左の耳介に紫紺の結晶片を埋めている。
(先輩がこっち側に来たとしたら、市からの要請を断れなかったと考えるべきだ。
コウたちが全員同行しているのも、意外だな。ひとりぐらい離脱してもおかしくないのに)
やがて目線が――
「こちらに、気づいた?」
(精霊の力を使っているのに、あの男――いったい)
ナイアスが傍らで尋ねる。
「なにかございましたか」
「いや、今はいい。
いずれにせよ額縁市が本気で俺を潰しにきたのは、間違いない」
コウたちはナノマシンの存在を知らされてはいなかった。
「教官、辞めるんじゃありませんでしたか」
「――、そのつもりじゃあったけどね」
コウは足抜けできなかった金華を嘲弄する口ぶりだったが、その前にひとりの青年が薄笑いしながら、立ちはだかる。
「あんたは?」
「口の利き方がなっていないなぁ、僕の前任にもこんな感じだったん、天知教官」
「それは」
「まぁ『アドバイザー』だのという名目宙ぶらりんな地位をあてがって、脱走されることになるなんて、額縁市も無様な話だよね。
……とはいえ、この
「新しい、アドバイザーですか」
コウの声が固くなった。水瀬は彼を見下ろして、にこりと笑う。
「はじめまして、僕が切原水瀬だ、よろしくね隊長さん。
だけれど、上官相手においたが過ぎるかな」
「――」
「天知教官、池緒隊長、あとで話がある」
水瀬はさっきから、ノートパソコンのキーを延々と叩いている。
「飴川雫、落とし仔としての彼の能力についてだ。
その正体は精霊のモノだけれど、表立って大まかには土を用いた工作活動。
ヤシャと呼ばれたモノは、ケラティオンを素体とした
彼は土人形によるナノマシンの排出や外部化といった、随分器用なことをやって、それまで市の監視下にあったのを逃れているね。
素人には到底できない芸当だ、僕らが知らないだけで、相当後ろ暗い汚れ仕事なんかをたび重ねてやらされていた節があるし、過去には彼を被験者として多くの耐久テストがやられている、内容から察するに、人間なら到底耐えられないだろう拷問まがいなものだ。だけど市は、彼を殺すには至らなかった。
彼の精霊としての資質が、まだ求められている」
そこまで一気に語ってから、彼はコウへ振り返る。
「きみ、なにを怯えているんだい。
これからどうせ、彼を殺さなくてはならないのに、そも彼を妹の治療費目当てに売ったのは、ほかならぬきみだったと聞いたが。
喋らないのならまぁいい、どのみち我々の目的は、飴川雫と接触することにあるんだから。そうしないことには、なにも始まらないだろう?
やるからには全力でやらないと。
質問があるなら、受け付けるよ」
金華が前に出た。
「切原さん、あなたの人形は」
「テセウスのこと?
まぁちょっと悪目立ちしちゃうけど、いちおう愛機なんでね。
もとの操縦系は旧式のケラティオンだけど、あれは色々あって、今は僕にしか使えないんだ。試したければ、どうぞお好きに」
「いえ、試しませんけど」「そっかぁ」
左の半身が紫色の結晶に覆われた、異形――ケラティオンたちと並んで駐機させられている。
「ここからは実行部隊と連携して、作戦を展開する。秋津さんにも声を掛けないとね」
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