第6話 もっと大勢

 エルフの部隊長が魔力枯渇の虫の息で担ぎ込まれると、郷は一気に慌ただしくなった。


「何かあったようだね」

「悠長なこと言っている場合ですか、アドバイザー!」

「何事!?」


 金華が慌ただしく出てきて、状況を問い質す。


「返り討ちにあったようですよ。

 弱点は教えてやったのに、彼らには記録という概念がないらしい」

「――、シズくん」

「なんでしょう」

「なにが、気に入らないの」「はい?」


 金華の言葉は窘めるようでもありながら、彼の真意を静かに問い質そうとしている。かたや雫は、ずっとポーカーフェイスだった。


「ま、まぁ額縁市が被害を受けるんじゃなければ、いいじゃありませんか。

 我々も撤収の準備をしときましょう。百七十人の部隊が壊滅とか、うちらだけじゃどうせ手に負えませんよ。じきに池緒隊長たちも戻ってくるはずです」

「影縞くん、これは飴川指南役と私の問題です。口を挟まないで」

「すいません……」


 雫はというと、やれやれと自分の額に手を置いている。


「彼らは彼らの現状もっとも手堅い若者たちを行かせて、死に散らかしたわけですよ。こうなると武装もなかった僕らが生きている方が不思議なくらいだ。

 で、ですよ、天知教官――僕らは誰を護りたいんでしょうね。

 保身か、あるいはなにを考えてるかだって定かでない、エルフたちか」

「それは……」

「僕だって、無力なのはうんざりですよ。

 ヤシャとやら、万全に相対するなら、やはり情報が欲しいです。

 無駄に死なせたくはない――それだけです」

「だったら彼らとの話、行ってきてくれる?」

「仕方ありませんね」


 彼は肩を竦めてから、慌ただしくするエルフたちへ駆け寄っていく。

 ノイは傍からふたりを見ていたが、雫がなにを考えているのか。


(さっぱりわからない。憎まれ口を叩きたいだけではないし、悲観的だけど絶望もしていない)


「影縞くん」「あぁ浮橋さん」

「大丈夫?」「いや、僕は――あのふたり、ぶつかることってあるんだな」

「私も正直、驚いた。

 アドバイザーの憎まれ口は今に始まったことじゃないけど、言い分はもっともに聞こえる」

「おそらくは相当、頭の切れるひとなのかもな」

「でもすげぇ、めんどくさい。

 あの人、天知先輩の性格に甘えてなんとかなってるだけじゃない……?」

「だとして、あんま聞かれないようにしとこうな」


 拗れるともっと面倒くさいのは察するに余りある。



 コウが戻ってきたら、あいつはまたどんな顔をするんだろう。

 そんなことを、ふと考える。


「……なぁコウ、お前が思いださないと、きっともっと大勢がいなくなる」


 まぁ個人的には、そのほうが望ましいのが自分だが。

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