第21話:撮影の裏で流れる“噂の真実”

三日後。

昼休みの社内チャットが、ざわついていた。


「BRIDGEのメイキング動画、もう出た!?」

「公式公開まだでしょ? なんか“流出”ってタグついてる」

「あの“距離ゼロ”のカット、ネットに上がってたぞ!」


(え……“流出”?)


真由の心臓が跳ねた。

スマホを開くと、見覚えのある光景。

白い背景、隣に立つ柊。

そして――


『誠さん、それ台本にないです!』

『恒例だろ?』

『やめてください、ナチュラルに照れるので!』


……その瞬間の笑顔。


(これ……編集前の映像!?)


コメント欄には、

“本気の笑顔だ”“これはもうリアルだろ”

“理想の上司シリーズ、恋愛ドラマ化希望!”


(やばい、完全に“恋愛モード”にされてる……!)



午後。

広報部の会議室。


「……で、これはどういうこと?」

美咲が腕を組む。

画面には、バズり続ける“未公開動画”のサムネ。


「外部の編集会社からデータが漏れたらしい。

 拡散スピードが想定外だ」

柊が静かに言う。


「削除要請は?」

「申請中だが、まとめ動画が次々上がっている」


真由が口を開いた。

「……私のせいです。

 あの時、笑いすぎて、撮り直し止めちゃったから」

「それは関係ない」

「でも――」

「俺があの言葉を言わなければ、バズることもなかった」


(……課長、違う。あなたの言葉があったから、みんな動いたんです)


美咲が肩をすくめる。

「とはいえ、この熱量、悪くないわね」

「え?」

「“炎上”じゃなくて、“羨望”のバズよ。

 “こんな職場で働きたい”ってコメントがほとんど」


成田「そりゃそうだろ、あんなに距離ゼロで目合わせてりゃ!」

「な、成田さん!」

「でもマジで、“仕事を通じて人を信じる”ってテーマが伝わってる。

 これ、プロモーション的には成功じゃね?」


(……本当は、そんな軽い話じゃないのに)


柊が小さく息をつく。

「真由」

「はい」

「君は何も悪くない」

「でも」

「俺は“隣にいる”と宣言した。

 その結果が、これだ。後悔はしていない」


(この人……やっぱり、真っ直ぐすぎる)



夕方。

会議室を出て、廊下。

真由は小声でつぶやいた。


「……どうして、そんなふうに言えるんですか」

「ん?」

「普通なら、立場とか、会社の目とか……怖くないんですか?」

「怖いよ」

「え……」

「でも、怖くても“隣にいたい”と思える人がいるなら、

 その気持ちは間違いじゃない」


(……っ)

「そういうの、反則です」

「また言われた」

「そりゃ言いますよ!」

「でも、もう何回目だ?」

「数えきれないです!」


二人の笑い声が、静かな廊下に響いた。



夜。

スマホの通知がまた鳴る。


《@WORK_LIFE_BALANCE》

「“距離”を測るのは、周りじゃない。

 心の温度で決めるものだ。」


《@mayu_worklife》

「じゃあ、私たちの“温度”は、今きっと同じです。」


コメント欄がざわつく。

“もう隠してない”“理想を超えた現実”

“この二人、物語すぎる”


(もう、誰にも止められない流れになってる)



翌朝。

出社してすぐ、社内の掲示板に通知が貼られていた。


【社長メッセージ】

『人の心を動かすプロジェクトとは、

 “信頼”と“誠実さ”が伝わるもの。

 BRIDGEチームの行動に敬意を。』


(……社長が、認めた?)


美咲「つまり、社内公認ってことね」

成田「リアル理想の上司カップル誕生ってか!」

「ち、違いますっ!」

柊「……いや、間違ってはいないかもしれない」

「課長!?」

「仕事も“恋”も、隠す時代じゃない」


(また、堂々とそんなこと言う……!)

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