珈琲を君に

 俺の名前は高竹光立。あだ名はタケミツ。


 想い人、野々宮夜昼さん、ヨルさんから「あんた気持ち悪いのよ」と言われた高校二年生だ。


 今は彼女に相応しい男になるべく日々努力しているんだ。


 ちょっと聞いてほしい。


 ヨルさんについて考えていたら眠れなくなってしまったんだ。


 こんな経験は今まで無かった。


 毎晩ヨルさんの夢は見ていたんだけど彼女の新しい一面を見つけたときにそれがぼやけてしまった。


 ぼやけた夢について考えているときに気がついた。


 珈琲を飲めば目が冴えるのではと。


 俺は豆を厳選し挽き方に拘り豆を育成するためにエチオピアに飛んだ。


 干ばつを解消するために治水作業を行っているときに本来の目的を思い出して湧き水を掘り当てた。


 すまない、軽い気持ちで来ていい場所では無かった。


 そしてありがとう、君たちがいるから世界中で珈琲を楽しむことができるんだね。


 俺はこの感謝の気持ちを忘れないよ。


 だがもう1つ謝らなければならないことがある。


 すまない、どうやら俺は紅茶派みたいだ。


 この苦みを楽しむことができない。


 だが安心してほしい。世界中で珈琲は親しまれている。


 俺はポラリスドイテルのお土産に珈琲豆を買ってから帰宅した。





 俺は自分が珈琲よりも紅茶派なのだと気がついた。


 俺は茶葉を厳選しお茶の入れ方を学び茶道の道に進んだ。


 千利休の七則について学んでいるときに本来の目的を思い出してお茶会を開いた。


 招いたのは親父と野良ディベーダーと格闘技のライバル、男だけの気兼ねない会だ。


 しかしやってきたのは闇の王の秘書アン、白い羽の君。男がお茶会なんて気が引けるという理由で代理になったそうだ。なんてことだ。


 そのとき彼女がやってきた。


 格闘技のライバルの妹ニャン。


 彼女は俺の顔を見るなり襲いかかってきたので足を払って押さえつけた。


「兄の仇!」


 そう叫ぶ彼女に俺は言った。


「迷惑なやつだ」


 実際迷惑だ。仇とはいうが毎回襲いかかってくるのはあいつのほうなんだが。


 兄も兄なら妹も妹だなまったく。


 全員が着席したところでポラリスドイテルが焼いてくれたケーキと俺が入れた紅茶を振る舞った。


 概ね好評だったがニャンが言った。


「私は珈琲のほうが好き」


 すまない、殴ってもいいかなこの子。


 俺は震える拳を抑えた、千利休の言っている「相客に心せよ」と。


 俺は心を沈め珈琲を入れてやった。


「ちょっと酸味が強いわね」


 すまない、もう殴ってもいいよね?


 俺が拳を固め奥義を繰り出そうとしたところで格闘技のライバルが間に入ってきたのでぶちかました。


 ニャンは倒れる格闘技のライバルを抱えて言った。


「必ず貴様を倒す!」


 二人はそのまま去っていった。


 もう来なくていい。


 俺は落ち着くために紅茶を一口啜った。





 お茶会で闇の王の秘書アンが言った。


 最近、光の国が格闘技界を侵攻していると。


 光の国ってなんだよ。そもそも闇の王でさえ意味がわからないんだからな。


 俺はアンとともに光の国に旅立ち赤い光が影で暗躍しているという話を聞き赤い影の前にたどり着いた。


「待っていたぞ闇の王、貴様を倒し世界を正常化する」


 赤い影は勇者みたいに俺にそう言った。


 すまない、俺は闇の王ではないし君も勇者ではないんだ。


 暴力で何かを解決しようと思っているのがそもそも間違っている。


 俺達には言葉がある、きっと何か誤解しているだけなんだ。


 平和的な解決方法を見つけようじゃないか。


 俺の足元に倒れ伏す赤い影にそう説いた。


「俺を倒しても第二第三の勇者が……」


 格闘技をやっているやつは皆このセリフが言いたいのだろうか。


 赤い影の口を封じて光の国の支配権をアンに委ねて俺は帰宅した。





 珈琲を学びお茶の入れ方を覚え光の国を制圧した俺はヨルさんに会いにいくことにした。


 ヨルさんは珈琲派だろうか紅茶派だろうか。


 どっちも持ってきたから安心。


 今日はちょっと早めに来た。


 千利休の教えに「刻限は早めに」とあったので待ち合わせの六時間前に着いた。


 流石に早すぎただろうか、ちょっと寒いな。


 でも大丈夫、俺の心の中にはヨルさんがいる。彼女のことを思えば心は温まるのさ。


 俺は震えながら彼女を待ち続けた。


 待ち合わせの時刻を少し過ぎてからヨルさんがやってくる。


 そういえば彼女は遅刻魔だった。


 俺は寒さで震える唇でこう言った。


「ここここ、珈琲でもどどどどうかな?」


「何震えてんのよ、気持ち悪い。帰って温まりな」


 ヨルさんはそう言って使いかけのカイロを俺に渡して去っていった。


 やさしい。


 やっぱり僕の初恋は最高だ!


 珈琲と紅茶は渡しそこねたけどまあいいや。

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