美しい君に

 俺の名前は高竹光立。あだ名はタケミツ。


 想い人、野々宮夜昼さん、ヨルさんから「あんた気持ち悪いのよ」と言われた高校二年生だ。


 今は彼女に相応しい男になるべく日々努力しているんだ。


 皆はヨルさんの魅力について聞きたいかな?聞きたいよね?聞け。


 ヨルさんの魅力それは語れば名前の通り夜昼超えて未来になるんだけど今回は1つだけにするね。


 ヨルさんは顔がいい。結局見た目で判断してるのかって?まあ聞いてよ。


 切れ長の目、つんとした鼻、潤みのある唇、まさに初恋って感じだ。


 例えるなら、そう。絵画みたいに何度でもいつまででも眺めていたい顔ってやつさ。


 彼女の顔について話していたら気がついた。


 俺は絵画に詳しくないと。


 俺は鏡子と美術館を巡り似顔絵の勉強をし絵画を書くためにイタリアに飛んだ。


 裸婦画を描くためにモデルのミーナにポーズをとってもらっているときに本来の目的を思い出して傑作を仕上げた。


 すまない、勢い余って顔だけヨルさんにしてしまった。


「これが私……。なんて美しいの」


 ミーナが俺の絵を見て感動している。


 すまない。別人を書いてしまって本当にすまない。


 だが安心してほしい。君はそのままでも十分美しい。君という存在が芸術なんだと俺は思うね。


 気まずさを感じた俺は片付けをして部屋を出ようとした。


 そのとき彼女がこう言った。


「また私を描いてくれる? あなたなら……」


 彼女のその依頼を俺は断った。


 すまない、俺はもう君を描くことはできない。なぜなら君の美しさは俺の瞳だけ映っていれば十分だからさ。


 もっと君を抽象的に描いてくれる画家に出会ってほしい。きっといい絵ができる。


 その絵を見るのを楽しみにしているよ。


 あと服は来たほうがいいよ。


 ツアー旅行で来ていた格闘技のライバルとバトルしてから俺は帰宅した。




 絵画について学び人の顔の造形について考えているときに俺は気がついた。


 俺もメイクをすべきだと。


 俺は100均一でメイク道具を揃えコスメティックアドバイザーとして百貨店で活動しメイクの歴史を知るために民族歴史の研究に着手した。


 平安時代のメイクが白黒紅で構成されていると知ったとき本来の目的を思い出してその雅な美意識に思いを馳せた。


 すまない、俺は今までこれほどの歴史を知らなかったんだな。己の無知を恥じるばかりだ。


 一緒に勉強していたスメラギさんも同じ様に感動してくれた。


 彼女はコスメティックアドバイザーをしていたときの同僚でメイク初心者だった俺に親切丁寧に教えてくれた。


 これほどの経験をしたのだ。彼女とはいい友達としてやっていけるだろう。


 俺がそう思い席を立とうとしたとき彼女が俺の手を掴んだ。


「今日はまだ帰りたくない」


 俺は瞳に涙を浮かべた彼女の手を優しく振りほどいた。


 すまない、君の涙でメイクが崩れるところを見たくないんだ。


 いつでも完璧なメイクをしてる君のことを俺は尊敬しているんだ。


 だからこそ君には触れられない。


 だが安心してほしい。いつか君に触れられる優しい男性がきっと現れるはずさ。


 俺は彼女の顔を見ないようにしてその場をあとにした。


 白い羽の君と野良ディベーダーが戻ってきていたので一緒に牛丼を食べてから帰宅した。




 俺は家で鏡を見ているときに気がついた。


 俺は俺を見つめ直すべきではないかと。


 俺は瞑想をし内なる自分を倒し神の領域へと心を導いた。


 神々の座で新しい一柱の神になるべく鎮座しているときに本来の目的を思い出して開眼した。


 俺は俺のことを理解した。案外お茶目なようだ。


 自分の新しい一面に気づけた俺は家に戻ろうとした。


 そのとき女性でも男性でもない性別を超越した存在、つまり彼女から声をかけられた。


「汝、世を見捨てるか?」


 すまない、俺は世には詳しくないんだ。ただの高校生だからね。


 もっと世について勉強したらまたここに戻ってくるよ。


 もっともそのときにはもっと神に相応しい人が先に神になっているかもしれないけど。ただの高校生の俺が来れたんだ。もっと相応しい人がきっといるはずさ。


 すまない、神に対して不敬だった。


 俺はお辞儀をした。身体は無かったので気持ちだけ。


 白い羽根の君が来ていたので俺は彼女の背に乗って帰宅した。




 絵画の美を知り、メイクの美を知り、自らの新しい一面を知った俺はヨルさんに会いに行くことにした。


 今日はヨルさんおいいところをいっぱい語ろう、俺がどれだけヨルさんのことを好きかわかってもらうんだ。


 彼女はどんな反応をするだろうか。


 待ち合わせ場所に来ていたヨルさんに俺は声をかけた。


「君のいいところを知っているのは俺だけさ」


「丁度良かった。あんた私のどこがそんなに好きなの?」


「えっと……顔?」


「気持ち悪い」





今のは俺が悪い。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る