#9
「おかえりなさい啓夢さん」
学園から帰宅。
自宅の扉の前には佳奈ちゃんが立っていた。その手にはエコバッグが握られており、ひょこっと長ネギが顔を出している。
「えっ、ただいま⋯⋯なんで佳奈ちゃんが俺ん家に?」
「あらあら啓夢さんは朝の約束したことをもう忘れちゃったんですかー?」
「朝の約束⋯⋯あっ、もしかしてゴハン作りに来てくれたってこと?」
「はーい。そういうことですー」
そういう事らしい。
どうやら佳奈ちゃんは俺の飯を作りにわざわざ家まで来てくれたようである。御足労いただき痛み入ります!
飯作ってくれると言ってくれたのはいいけど、どうするのかと思えば、普通にウチまで来て料理してくれるとは至れり尽くせりかな!
ん?
でも、待って⋯⋯。
俺⋯⋯佳奈ちゃんに住んでるとこの住所を教えたっけ?
うーむ。
まあ!別に気にすることじゃないか!佳奈ちゃんに住んでるとこバレて何か不都合があるわけでもないし!
「立ち話もなんだしあがってあがって」
「お邪魔しますー」
俺はすんなり佳奈ちゃんを自宅に招き入れる。
アパートの一室。1LDKの狭い部屋。
部屋の中は片付いて、掃除も行き届いており、わりと綺麗。散らかすとよく遊びにくる彩火が片付けてくれるのだ。「僕が汚い部屋ですごすのが嫌だから掃除してあげるよ」ってな具合に。
「それではさっそくゴハン作っちゃいますのでキッチンお借りしますね」
「好きに使って!」
「はーい」
調理開始。
佳奈ちゃんは戸棚や引出しを開けて調理器具などを取り出す。
その動きに一切の迷いは無い。
まるで何処に何が置いてあるのか?それを初めから全て把握しているようだった。
んー⋯⋯?
「啓夢さん」
「⋯⋯⋯⋯」
「啓夢さーん」
「⋯⋯ん?あっ、はい⋯⋯!」
「ボーッとしてどうかしましたかー?」
「あっ⋯⋯いや⋯⋯ちょっと考え事⋯⋯かな?」
「あらあら、やっぱり何処かお体の具合が悪いんじゃないでしょーか?」
「だ、大丈夫!どこも悪くないよ?」
いかんいかん。
しっかりしないと。
変に佳奈ちゃんに心配をかけてしまう。
「それで佳奈ちゃん。何か用?」
「啓夢さんはお夕食のリクエストはありますかー?」
「リクエストか」
そこでふと脳裏によぎる俺肉シチューが入った鍋を恍惚の表情で掻き混ぜる佳奈ちゃんの姿。
背筋に冷たいものが走る。
夢だから。それは夢だから。ここで急に「今日のお夕食は啓夢さんですー!」なんて展開あるわけが無い!
「野菜!なんか野菜がいいかな!肉はあんまり食べたくないかも!」
「お野菜ですかー。わかりましたー」
◇
俺は夢の中に居た。周囲には無数の扉が浮遊している。
あれ⋯⋯?
俺、いつ寝たんだろ⋯⋯。
えーっと⋯⋯確か、佳奈ちゃんが家まで来てくれて、それで夕食を作ってくれて、それを食べたところまでは覚えているんだけど、そこからの記憶が無い。すっぽり抜け落ちている。
寝落ちでもしちゃったのかな?
⋯⋯⋯⋯。
まあ、いいか。
さて、この扉の夢を見るのも3回目か。
昨日、一昨日と散々な夢を見てしまっている。
なんか今日あたりは平和な夢を見たいなー、なんて。
さて、どうしたもんか⋯⋯。
とりあえず最初は彩火とホモ■■■■してる扉を確認してみるか。
今日はまた別の展開になってることを祈って。
彩火の扉に近づいていき、ドアノブに手をかける。
⋯⋯ガチャリ。
「おっ、おっ、おっ⋯⋯!んぉほっ⋯⋯!おおおおおっっっ!!!」
「はぁ!はぁ!啓夢っ!啓夢はホントに悪い子だね!僕というモノがありながら他の子とも仲良くするなんて!そんな悪い子にはたっぷりとお仕置をしてあげないとイケないね!オラッ!オラッ!」
バタンッ!
俺は力の限り扉を閉めた。
ふぅーーー⋯⋯⋯⋯。
いやー、今日も元気にハッスルしてるねぇ!
よし、見なかったことにしよー!
さて、お次は佳奈ちゃんのお料理部屋の扉の中も見てみるか。
正直、衝撃スプラッター調理場を覗き見るのは非常に精神衛生上によろしくないが⋯⋯アレだよ。怖いもの見たさ?みたいなことろある。
佳奈ちゃんの扉に近づいてドアノブに手をかける。
⋯⋯ん?
ガチャガチャ。
あれ⋯⋯開かない?
これは鍵が閉まってるのか?
ふむ。
こういうパターンもあるのか。
開かないのは仕方がない。素直に諦める。
扉はこれの他にも別にまだまだあるし。
別の扉を開けてみるか。
そうだな。
彩火と佳奈ちゃんの扉は初期位置(?)のすぐ近くにあった扉だった。
その2つの扉の他には俺のすぐ近くにもう2つほど扉が浮遊している。
しかし扉はそれだけではない。
他にも俺から離れて、かなり遠くの方まで扉がポツリポツリと浮遊しているのが見える。
これはアレか。ちょっと遠くまで行って扉を開けてみるのもいいかもしれないな。
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