#8
放課後。
家の用事があるとかで彩火は急ぎ足で先に帰ってしまった。たまにあるヤツ。
「おい啓夢。オマエ暇だろう?少し付き合え」
どうしたもんかと暇を持て余していると委員長から声をかけられた。
「暇は暇だけどーー」
「それならさっさとついて来いノロマ」
「あ、はい」
俺の承諾を得る前に委員長は歩き出す。なるほどね拒否権は無いわけね。おーけー把握した。
ここで逃げ出してバックれる選択肢もあるにはあるが、それを委員長相手にすると後が怖すぎるので、ここは潔くついていくのが吉。
俺は慌てて委員長の背中を追った。
◇
「このプリントをまとめてホチキスでとめろ。いくら低脳無能のオマエでもこれぐらいなら出来るだろう?」
「できらぁ!」
会議室Bにて俺は委員長から命じられた雑用に興じる。プリントをまとめてホチキスするだけの簡単なお仕事ーーゆえに面倒臭いヤツ。
次の生徒会の時に使う資料だそうだ。委員長は我がクラスの委員長でありながら生徒会にも席を置いている。
「ダラダラするな。こんな簡単な仕事は日が暮れる前にさっさと済ませろ」
「毎回、思うけど口悪すぎない?俺、もっと優しくしてもらった方がやる気出るんだけどなぁ」
「五月蝿いぞ啓夢。私語は慎んで、寝言は寝てから言え。オマエのような馬鹿には優しくするだけ無駄だ。これぐらいが丁度いい」
「委員長さぁ⋯⋯めちゃくちゃ美人なのにそんなんじゃ彼氏とか出来なくない?」
「オマエのようなゴミ虫にそのような事を心配される言われはない。いいから黙って手を動かせボンクラが」
委員長は心底見下した目で俺を見る。その表情はピクリとも変わることは無い。まさに鉄面皮。
よく言えばクールビューティーという奴であろうか。
キツイ性格だが逆にこのキツイ性格が良い!という人も居そう。
かく言う俺は委員長のことかなり嫌いではない。何だかんだで喋ることは多い。毎回だいたい罵倒されるんだけども。
「委員長様!これを手伝ったお礼とかご褒美とかあると思うんですけど!期待していいですか!?」
「そんなものあるわけが無いだろう馬鹿が。むしろ、手伝わせてやっているのだから、手伝わせてやった代金を請求してやりたいところだ」
「もうそれ罰ゲームの範疇を越えてない?なんでお手伝いした挙句にお金まで強奪されるの⋯⋯」
「オマエが金を持っていたところで、ろくでもないことに使うのが目に見えている。ならば募金でもした方が世のため人の為になるというものだ。分かったのならさっさと財布を出せ」
「もうそれシンプルにカツアゲになってんだよなぁ!委員長も悪だねっ!」
「あまりふざけたことを言うと殺すぞ」
「ポッと出る殺害予告!怖すぎるんですけど!?」
最終的に委員長が俺を見る目は生ゴミを見るかのようなソレであった。
◇
「ーーんじゃ!お疲れっしたー!」
「さっさと帰れボンクラが」
仕事を終えて会議室を後にする彼の背中を私は見送った。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
行ったか?
扉に駆け寄りそろりと開けて顔だけ出して外の様子を伺った。
右ーー人影無し、ヨシ。
左ーー人影無し、ヨシ。。
どうやらちゃんと帰ったようだ。
扉を閉めて、ついでに鍵を閉めたところで私は大きく息を吐きながらその場に崩れ落ちた。
「あ”あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ッ!!!放課後に啓夢様と2人っきりの密室で愛の共同作業しちゃったぁぁああ!!!これってもう完全に新婚生活だよねっ!?もう無理ぃぃぃぃいいいい!!!しぬぅぅうううううう!!!!」
絶叫。
なんとか押さえ込んでいた激重感情を口か垂れ流しながら、私はその場でのたうち回った。
「はぁ⋯⋯!はぁ⋯⋯!啓夢様が今日も超絶カッコよすぎて見てるだけで胸が苦しくなっちゃうよォ⋯⋯!ホント勇気出して放課後デートに誘ってホント良かったホント⋯⋯!今日は昨日よりも635文字も多く喋れちゃった⋯⋯!頑張ったね、私!よくやったよ!こんな私といっぱいお喋りしてくれる啓夢様はマジで神ッ!ありがとうございますっ⋯⋯!ありがとうございますぅー!」
私の頭の中は啓夢様でいっぱいだ。啓夢様以外のことを考える脳のリソースが勿体無くて仕方ない。寝ても醒めても夢の中でもずっと啓夢様のことを考えていたい。もう世界は私と啓夢様の2人だけになればいいのに⋯⋯なんてことを何度も夢想した。
私の啓夢様。
私だけの啓夢様。
ああ。
啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様啓夢様ーー。
この世の誰よりも何よりも私が愛しています。
あっ、これさっきまで啓夢様が座ってた椅子⋯⋯。
「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯。ちょっと⋯⋯ちょっとだけ⋯⋯!」
椅子に顔面を擦り付けて啓夢様の残り香を堪能する。
「あっーーーーーーーー⋯⋯⋯⋯きくぅーーーーーーーーー⋯⋯⋯⋯!」
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