#3
「実は⋯⋯夢を、見たんだ」
「⋯⋯夢?」
「そう。夢」
「へぇー⋯⋯それはどんな夢だったのかな?」
「いや、それが、その⋯⋯聞いてもひいたりしない?」
「どうかな。内容によってはちょっとひいちゃうかも知れないけど⋯⋯でも大丈夫だよ!僕が啓夢の事を嫌いになることは絶対に何があっても有り得ないからね!」
「そ、そうか⋯⋯?」
「で、どんな夢だったの?」
「えっと⋯⋯実は⋯⋯」
「実は?」
「その、アレだ⋯⋯俺がな」
「啓夢が?」
「オマエに⋯⋯」
「僕に?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯掘られてた」
「ふーん⋯⋯⋯⋯⋯⋯で。掘られてた、ってナニを?」
「いやうん。相当気色悪いことを言ってるってのはあるんだけどあくまで夢!夢の話だからな!」
「うん。それで掘られてたってどういうことかな?ねえ?」
「みなまで言わせんなよ⋯⋯」
「いや。ダメだね。そこはハッキリ言ってもらわないと、お互いに齟齬があっていけないよね?それで意見の食い違いなんてあってはならないことだと僕は思うんだ。ちゃんとナニがどうしてこうしたのかはしっかりと啓夢の口から聞かないと僕は理解できないよ」
「ぐっ、ぐぬぬっ⋯⋯!」
「もうここまで言ったんだから、もう一息だよ?ほら、ねえ。啓夢。ちゃんと言いなよ。ねえねえ」
「だ、だから⋯⋯その⋯⋯俺のケツをだな⋯⋯」
「うん」
「掘ってたんだよ⋯⋯オマエが!」
「ふーん⋯⋯⋯⋯掘ってたんだ。ナニで?」
「ナニでだよ!」
言ってしまった。
改めて考えるとべらぼうに気色悪い。
親友とホモ■■■■してた夢なんて!それを当の本人に打ち明けるなんて!
あああああっ。こんなんドン引かれて叱るべし!
夢とはいえ流石にこれないわ!
恥ずかしいというか居た堪れなさすぎるというか!もう穴があったら入りたいんですけど!いや穴に入ったのは彩火のナニなんだけども!ぐぉわぁああっ!!!もういっそ殺せぇえ!!!
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
スッ、と。
彩火は組んでいた肩を離して、俺と少し距離をとる。
”無”
無表情。
彩火は何も言わず、無表情で見つめてくる。
あー⋯⋯。これやっぱり引かれてるじゃん!
「⋯⋯啓夢」
しばらくの沈黙の後⋯⋯彩火はボソリと呟やいた。
「お、おう⋯⋯」
「僕は⋯⋯啓夢の気持ち。ちゃんと理解したよ」
「⋯⋯はい?」
理解した?
あー、はいはい。
俺がなんで彩火相手に隠し事をしようとしたのか?その気持ちを理解してくれたってことか⋯⋯?
そうか⋯⋯理解してくれたか。
うん。それなら話はここで終わりにしてもらいたいなぁ⋯⋯なんて。
「やっぱり何も心配する必要なんてなかったんだね」
そう言って彩火はーー。
ーーにちゃり⋯⋯と。口元を歪める。
「そうだよね。やっぱり。やっぱりね。そうなんだよね。わかっていたことだったよ?でもやっぱり僕としても少し不安な部分はあったよ?でもそれってやっぱり結局のところ杞憂にすぎなかったんだよね。うん。そうだね。そうだそうだ。僕と啓夢は親友で、何者にも分かつことの出来ない固い友情というなの絆で結ばれているんだ。だから何も心配する必要はなかったわけで、心配すること自体が失礼にあたるところだったんだ。あーあー。ホントしょうもなっ。無駄なことで労力を使っちゃってたな。これはあれかな。やっぱり僕も少し覚悟が足りてなかったのかなってそう思ったよ。啓夢もそう思わない?」
「えっ、あっ、お、おう⋯⋯それもそうだな?」
脳の理解が追いつかなかった。
啓夢は捲し立てるように早口で、独り言のようにブツブツと呟く。
言葉の意味を咀嚼する前に問われて俺は反射的に頷いていた。
「やっぱり啓夢もそう思うよね。やっぱりね」
「お、おお⋯⋯?」
「でももう大丈夫。僕は嬉しいよ。啓夢の覚悟と気持ちを改めて聞けて。だからもう大丈夫。僕はもう迷ったりしないから」
「そ、そう⋯⋯?それなら、よかった⋯⋯?」
「うん。よかった。とてもよかった」
うんうんと彩火は一人で頷く。
「でも。ごめんね啓夢」
なにが?
この彩火の「ごめんね」は何に対しての謝罪なんだ?
「今は、まだ、無理なんだ」
「そ、そうなのか⋯⋯?」
「うん。だからホントに申し訳ないんだけど待たせることになっちゃう。でも、だけど、安心してよ。絶対に、必ず、何があっても、約束はちゃんと果たすから」
⋯⋯やくそく?
約束?
約束か。
何の話?
俺、彩火となんか約束してたっけ?
あれぇ?
「夢はきっと叶えるよ」
◇
暮林彩火は生物学上的には”女性”である。
訳あって男装し、男性として振舞ってはいるが、彩火は紛うことなき女性であった。
勿論、下半身にイチモツは付いてはいない。
だが、しかし。
暮林彩火のその心ーー魂は”男性”だった。
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