残滓
灯を駅まで送って、一人で街を歩く。
……正直、全部話すことになるとは思わなかった。
(いつも通りなのが逆にありがたいか……)
もう夜なのに、人の数は多い。避けながら、この先どうしよう。
強さって、なんだろう。必要なんだろうか。
このまま、帰って寝ようか。街灯の明かりがそこにいるはずのない人を照らしたような気がした。
自分の目にはあの日の、袖を引っ張ってきた凪沙がいる。笑顔の。いるはずがないのに。
気が付いたら影を追っていた。いつもと違う道、いつもと似たような道。普段は入らないような路地に明るすぎる繁華街。
気が付いたら最後の別れに追いついた駅の前にいた。連れて来られたんだろうか?
当たり前だと、この先もずっと続いていくんだと思っていた日常が崩れた日に心が戻ったような気がした。
あの時本当は自分を、自分の弱い心を守りたくて、凪沙の言葉を受け止められなかった自分を自分で罵倒し続けてきた。そんな自己矛盾に満ちたこの1年間。満ち足りていた数年間を全部壊した自分自身を許せない自分を。
認める時が来たのかもしれない。
今の自分は、どんな顔をしてるだろう?あの時と同じだろうか?
心が痛い。痛みを自覚してしまった瞬間、立つ感覚がふっと消えた。
うずくまって涙が溢れてきた。止めようがなかった。
「ごっっめ……」
声にならない声が漏れた。最初に出てきた言葉は誰に向けてなのか自分でもわからないまま、ただ泣いていた。
泣きながら思い出したことがある。
「これから二人とも就職したらさ、透くんはどんなことがしたい?」
「そうだなぁ……長期間の聖地巡礼か、海外旅行かな」
「いいねぇ!一緒に行こうね」
そんな他愛のない幸せな会話
「どうして、いつも休みの日もお仕事してるの?約束してたのに……」
「先輩が……」「会社がさ……」
凪沙をおざなりにし続けた結末は、わかりきっていた。
――気がついたら雨は止んでいた。もっと前には上がっていたのかもしれない。どうやら変化にすら気がつかないくらいに鈍感を極めていた。
風が抜けていった。熱くなった頭を優しく冷やしてくれた。
感情って、溜めすぎると溢れるものなのか。
今まで知らなかった自分を一つ知って、家へと歩を向けた。
心の中に今、ある思い出と一緒に。
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