あの頃と今

「ね、いい子でしょ?」

高校の頃、灯に出来た友達を紹介してくれた。

凪沙なぎさはね、いい子なの。私と趣味が合うの珍しくってね」

嬉しそうに灯は続ける。

「だからね、透とも仲良くできると思うの」

そう言ってニコニコしてとても楽しそうだった。

その隣にいる凪沙も笑っていて、それがとても眩しくて、透も笑いながら視線を外した。

外したはずなのに、その笑顔が頭の中から消えなくて……


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三人の趣味――とあるマイナーバンドのファンであること。同じ趣味の貴重な仲間。今思い返してもこの出会いは特別だったと思う。

趣味を通した同じ時間を重ねて、高校を卒業する頃に凪沙と付き合い始めたことを思い出す。


気がついたら目的地の駅だった。慌てて電車を降りて、待ち合わせ場所へ向かう。

夕暮れに照らされた幼馴染の姿は前よりも幾分か大人びて見えた。

その変化を感じて少し胸がチクリとする。そんなことを感じた瞬間に灯が声をかけてきた。

「や、久しぶり」

そう言った、あの頃と変わらない灯に軽く笑みがこぼれた。

灯がジロジロとこちらを伺ってくる。

「痩せた?ちゃんと食べてる?」

……すぐ気が付かれてしまった。1年ぶりに会う幼馴染にはすぐわかってしまうようだ。

思えば、人の変化には目ざとい方だった。あの時も……


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「ねぇ、るーくん。凪沙と付き合い始めたでしょ?」

大学の帰り道で、ばったり会った灯は突然言い放った。幼馴染しか呼ばない愛称で呼んでくる時はだいたいとんでもなく鋭いことを聞いてくるが、まさかこんな問とは。

「あ、いや、うん」

ちょっとドギマギしながら答える。 どうやって気づいたのだろう?凪沙に聞いたのかな。……いやきっと自分のなにかから感じ取ったのだろう、昔からそうだった。

「え、どっちから?いつから?なんで教えてくれなかったの?」

矢継ぎ早な質問が続く。こういうところも変わらない。

「あー……っと。卒業したあたりだよ。俺からだよ、さすがに。なんでって……それはなぁ……」

期待のこもった視線を感じる。あ、全部聞いてくるつもりだ。

「二人で話してさ、そうしようって」


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「ねぇ?大丈夫?」

灯の声で、はっとした。俺達の間を風が駆け抜けた。もう冬を感じさせるような冷たい空気が頭の中まで冷やすようだ。

「大丈夫だよ。なんとかやってるって」

掠れた声で答える。ふぅん?という顔で灯は歩き始める。

「まぁ、久しぶりだしゆっくり話は聞かせてもらおうかな」

隣に並んだ俺にそう言ってくる。何を話せばいいんだろうか?いや、そもそもどういう話を?

そんな答えのない問いを考えていたらお目当ての店に着いていた。

「ここも久しぶりよね、楽しみ」

「そうだな。俺も楽しみだよ」


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始めに感じたのは、自分への怒りだったのかもしれない。

「――もう、終わりにしよう」

言葉を聞いた時に、受け入れることを全身で拒んで、受け入れず、黙ったままの自分に凪沙は続けた。

「何度も喧嘩したけど、何度も繰り返されて……一緒にいて辛いよ」

そう。何度も喧嘩をした。そのたびに修復したつもりでいた。だけど、何も変われなかった、そんな自分への激しい怒りと彼女への負い目。

奥歯を噛んだ音が頭の中でギリリと鳴った。


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「で?何度も喧嘩してなんにも改善しなかったってこと?」

「…………」

「そりゃあ振られるわ……」


絞り出すような声を聞いていた灯が呆れて、ため息を吐く。

「それで一年間も何もこっちに連絡しないで、まだ落ち込んでるの?るーくん、引きずりすぎじゃない?」

「…………」

遠慮ない幼馴染の言葉をどこか遠く聞きながら、また別のことを思い出していた。


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「透くん、あそこ見てみて?ペンギンが喧嘩してる」

凪沙がこちらの袖を引っ張って指出す。ふふって笑う顔が見えた。

ああ、こうやって楽しいこともあったのに、どうして自分は……


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「元気出せとは言わないけどさ、ちゃんと強くならなきゃダメだよ?」

食事を終えて外に出た灯が言う。強く?どういうことだろう?

「抱えても、なんにも終わらないし始まらないんだから……」

「……灯、ありがとう」

やっと喉から出た声は少し震えていたような気がする。この明るい幼馴染に心配をかけすぎないようにしよう。そう思ってまた街へ歩き出していった。


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