「おかえり」を聞きたくて

蒼のシレンティウム

崩れて終わる日

雨の日。嫌いな音。全部がひっくり返ってしまったことを思い出してしまう。

どうしたって戻らないのに、まだ自分はそこにいるような。夢と現の合間に落ちている。


「――もう、終わりにしよう」


あの時の自分はどんな顔だっただろう?

笑っていた?怒っていた?悲しんでいた?

もう思い出せない。過ぎた時間だけは思い出せるのに。


「何度も喧嘩したけど、何度も繰り返されて……一緒にいて辛いよ」

続けて彼女は言う。

ああ……とうとうこの時が来たのだと分かった。分かったはずなのに何も言う事ができなくて、ただ沈黙することしかできなかった。

心の何処かで望んでいたのかもしれないのに、いざその時が来た時、これは自分が招いてしまった絶望だったと強制的に理解させられた。

二人の間に流れる沈黙。雨の音だけが聞こえていた。


ピピピ……ピピピ……


朝。寝起きの頭でふと目をやると、窓を雨が叩いていた。

「だからか……」

何度目みたかわからない夢の終わりで目覚めたとおるは一人呟いた。

【あの日】から何も変わらない日常を消化していく透の一日は窓の外を見るところから始まる。

木が二本。いつもそこにあって、季節を繰り返している。

一緒に見ていた朝とコーヒーの香りをふと思い出していた。

顔を洗った鏡に映る透自身を見て、ひどい表情をしていると思った。

「うーん……あかりになにか言われるかな……」

そんな自分を確認して、ため息を吐いた。

この後久しぶりに会う幼馴染はお節介だ。きっと曇った表情をしていたら心配してくる。

「まぁ、なんとかなるか」


独りごちて待ち合わせまで余裕があるうちに透は家を出た。

駅へ向かう途中、すれ違う学生達が笑っていた。コンビニにはおでんののぼり。ほのかに漂う香りが季節の針を進めているような気がした。

いつも通っている道なのに、あの日から別の世界の出来事のように感じてしまう。

ちゃんと時間は過ぎているのに、自分だけが取り残されているような感覚。

そんなことを考えながら駅の改札を抜け、ちょうど到着した電車に乗り込む。

久しぶりに会う幼馴染と。恋人だった彼女。懐かしい高校の頃を思い出していた。

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