転生したらサキュバスでインキュバスだった件
@bananataberungo
第1話 初めてのTS化
「ここは、森……? 僕は……」
光が
体を起こした瞬間だった。背中に奇妙な違和感があった。硬くて柔らかいものが
「……羽……?」
そこにあったのは、
思わず息を飲んだ。けれど次の瞬間、あまりにも大きな衝撃が襲ってきた。
「っ……!? な、なんだこれ!?」
体が軽すぎる。そしてあるべき場所にあるべきものが、一切ない。下腹部に手を伸ばすが、指は何の抵抗もなく滑っていく。
そこには陰部という
「なんで……
恥ずかしさと絶望で叫び声が出そうになるのを
「……落ち着いてくださいませ、私の主人」
振り返れば、そこにいたのは黒髪の青年だった。彼の名はノクス。リリスと呼ばれる悪魔が僕の転生を
しかし――その姿は記憶にあるものとは少し異なっていた。
「補佐役」とは言い難い
「……あの……ノクスさん? その
「申し訳ありません。服という概念が『非合理』と判定されたようで」
「非合理って……! 僕のこの状態も非合理判定ですか!? 体とか全部!?」
「はい。肉体の方は不必要なので新しく再構築されました」
ノクスは
「あなた様が得たのは、淫魔の素体です。ご安心ください。すぐに慣れましょう。快楽とともに」
ノクスが僕の体を値踏みするように上から下まで眺めた。その視線に含まれるのは好奇心や研究熱心さのような純粋なものだけではない。獲物を
「まずご自分を知るべきでしょう」
ノクスは
「今のあなたの体は男でも女でもなく……言ってみれば最も原始的な型。最も
「美味って……あのさ」
「
「……よく分かんないですけど」
会話を続けているうちに、突然鋭い頭痛が走った。
その光の中に、断片的な映像が浮かび上がる。学校の教室。両親の笑顔。そして――最後に見た赤い
「あ……ああ……!」
記憶の扉が勢いよく開く。
「俺の名前……
ノクスが頷きを深くした。
「そうです。ミカゲ様。魂の核が呼び覚まされましたね。あなたの命は現世において終わりを迎えましたが――ここに至る
「どういうことだ?」
「あなたの中には、"もう一つの魂"が共生していました。双子の妹君の魂です。それがあなたを
「妹……の?」
「あなたが生まれる直前……あるいは産声をあげる寸前まで生きながらえなかった存在。その魂があなたと共に新しい生を得ようとしました」
ノクスの口調が変わらないのが逆に怖かった。まるで昨日の天気予報を告げるような気軽さで告げられる
「結果としてあなたは……完全両性具有体質となったのです」
「なんだよそれ……」
「通常の
「冗談じゃないぞ……! 変形ヒーローじゃないんだから!」
「お気に召しませぬか? 私は好みですが」
ノクスが
恥ずかしさと恐怖で鳥肌が立った。
「……ところでノクス。君も……もしかしてそれ?」
「私ですか?」
「だって……その……変なところが膨らんでいるじゃないか!」
「失礼。私はインキュバスですので」
ノクスは恥ずかしげもなく宣言して見せた。その股間部には明らかに熱を持った存在がそそり立っている。布切れの端からはみ出しかけており、それが脈打っているのが見て取れた。僕は思わず目を
「……そういうことは人前で平気なんだな……」
「当然のことです。
「ああもう! 頭がおかしくなりそうだ! とにかく今はここを離れたい。こんな姿じゃ誰かに見つかったら……!」
そう言いかけた時だった。突如として大地が揺れた。重く地響きを伴う
「……まずいですね」
「来る……!」
「どうやらこの森の主のお出迎えのようです」
ノクスの顔から余裕の笑みが消えたわけではないが、警戒の色が濃くなったのを感じた。僕たちは
その矢先だった。
身の丈は優に二メートルを超えている。頭部は狼とドーベルマンを掛け合わせたかのような凶暴な
何よりも異様なのは、その片手に握られた巨大な両剣だった。山刀とも斧ともつかない
「何奴だ貴様らァ!」
「……サキュバス……? 否。インキュバスか?」
獣人の目が僕とノクスを交互に捉える。特に僕の背中の
一方ノクスは
マントの
「これはこれは獣人殿。我らのような
「黙れ
「ノクス! なんで挑発してるんだよ馬鹿か!?」
獣人が
爆風のような風圧。空間そのものを
次の瞬間には僕たちの首を
――だが。
「主。ご覧あれ」
ノクスの右手が静かに
指先から
瞬く間に形成されていく紋様。
「《魅了の檻》」
時間そのものが
獣人の動きがピタリと停止する。まるで空間ごと凍結したかのような異様な光景だった。両足は空中で固定され、凶器の切っ先すら寸前で停止している。しかし当の本人は全く自由を奪われたことに気付いていない。それどころか
「なんだ……この香りは……? む……うぅ……」
「お喜びいただき光栄です。獣人殿」
ノクスが滑るように獣人に近づく。汗に濡れた相手の胸板に触れ、
「ん……っ…く! おい! 貴様何を……やめろ!」
制止の声は弱々しい。明らかな性感への
獣人の
「さあ、主。この機をお見逃しなきよう」
ノクスが僕を呼んだ。僕は恐怖に
「僕に何ができるっていうんだ……」
「簡単です。彼に
ノクスの助言に
「やめ……ろ…
「……ごめん。本当にごめん」
謝罪の言葉と共に僕は獣人に飛び付いた。
――唇に温もりと硬さと熱。互いの
思考はそこで途絶えた。
熱が
視界が急激に色彩を失いモノクロームへと反転し始める。背景の緑や
「これが……僕の能力……?」
無意識のうちにそう呟いていた。
肉体の境界線が
「んぁあっ!?」
絶叫と共に獣人の体が大きく跳ね上がった。肉塊が破裂する音に似た鈍い振動が大気を震わせる。
同時に僕の体内から何かが噴出する感触があった。
「……終わった……のか……?」
「主。順調でした」
いつの間にか背後にいたノクスが僕の耳元で囁いた。吐息がくすぐったい。
「いま、あなたはこの獣人の"精気"と"
「与えた……って?」
獣人の肉体が小刻みに
顔立ち自体は元のイケメン狼顔を残しているものの、
「はあ……はあ……! な……なにが……起き……て…」
ハスキーながらも明らかに女性的な声音だった。本人も混乱しているようで胸元に手を当てるとその質量に驚愕し悲鳴を上げていた。
彼は――否、彼女は
「主。あなたの中にある"妹君"の遺志が働いたのでしょう。"女"として再生する……
「うそ……だろ……こんなことして……僕…!」
「ですがお忘れなく。これは正当防衛ですし……成果は極上の
ノクスの
獣人は
僕は
その瞬間だった。下腹部に久しぶりの感覚が
「……っ! なんだ……これ……」
ノクスは興味深そうに僕の股間を凝視していた。指で輪を作ってサイズを計測するようなポーズを取りながら楽しげに
「素晴らしい。あなたの中で『雄』の本能が目覚めたのですね。さっきまで完全なるニュートラル体であったのに……
「最低だ……最低すぎる……!」
「褒めているのですが……まあ良いでしょう」
「そんな問題じゃ――」
ノクスは再び僕に密着してきた。腕を回し
「主。その
「な……なにを馬鹿なことを……!」
「冗談ではございません。私が最も適任でございます。いかなる欲望にも応じられる自信があります。この身すべてを捧げるのが私の使命ゆえ……」
ノクスの声色が一段階甘く柔らかくなった。誘惑の匂いが濃厚に
「ふざけるな……まだ会ったばかりだぞ……! それにお前は男だ! 第一こんなの犯罪だ!」
「現世の法律など
「それでも嫌だ!」
僕は全力でノクスを突き飛ばした。予想外に簡単に離れた彼の体は数歩後方に跳ねる。しかし怒るどころか嬉しそうに目を細めていた。まるで抵抗されるのを楽しんでいるかのようだ。
「なるほど。なかなか
獣人がようやく立ち上がる。胸部装甲が外れてしまい、たわわな乳房がほとんど
「お前ら……一体何者だ……?」
「……えっと……通りすがりの転生者です。本当に偶然で……!」
「この姿……どうしてくれるつもりだ……! 戻せ……!」
「ごめんなさい! 全部事故みたいなもので……!」
獣人の顔が歪む。
「ふざけるなよ……! 俺は……あたしは……ずっと守護者だったんだぞ……村の英雄だったんだぞ……! こんな……こんな姿になって……同族になんて言えばいいんだ……!」
「ごめんなさい……僕もどうすればいいか分からなくて……!」
「くそっ……!」
ノクスが僕の
「主。申し開きもできませぬが……まずは謝罪を尽くしてください。その後の善後策は誠意を見せなければ始まりません」
わかってるよ。
僕は意を決して獣人に向き直った。真正面から
「本当に申し訳ありませんでした。許されることじゃないと思います。でも
「……」
長い沈黙が訪れた。風が木々を揺らす音だけが響く。やがて彼女は溜息をつくと額に手を当てた。
「……馬鹿馬鹿しいくらいに真面目だなお前。詐欺師の割には下手すぎる」
「え?」
「
「本当なんです! 心の底から反省してます!」
彼女は苦笑いを浮かべると顔を上げた。涙の
「……ついてこい。村に案内してやる。ここで喧嘩しても
意外な提案だった。僕は顔を上げ彼女の顔を見る。口調は厳しいが怒りや
「ありがとうございます……!」
「感謝するのは早い。村ではもっと大事になるかもしれんぞ。特に
「覚悟しています」
「ああそうか……ならいい」
彼女は
ノクスが僕の耳元で
「上手くいきましたね。初日としては上出来でしょう」
「何が上出来だよ……これから
「まあまあ。不幸中の幸いではありませんか。あなたには他者を
「……余計なお世話だ」
「それに……」
ノクスの指が僕の腰を
「
「バカ! どさくさに紛れて変なこと
ノクスは愉快そうに喉を鳴らして笑った。彼の笑声が森に響き渡る。その声はどこか悪魔的で魅力的だった。
「主。先程吸収した精気のおかげであなたの体は男性機能が強く表出しております。もし
「言うなああああっ!!」
僕の悲鳴は
こうして異世界での生活は幕を開けたのである。
転生したらサキュバスでインキュバスだった件 @bananataberungo
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