【散文詩】夢の記憶 ──風の吹かない道──
夢を見た。
真っ直ぐな一本道、左右には色とりどりのガラスで作られた、無数の風鈴が飾られている。
ただ風が、全く吹かない。
だから、風鈴の音が鳴らない。
夏の陽に焼かれた光にガラスが反射し、眩しさだけがある。
その眩しさにも目が慣れ、ふと前を見ると、1人の女性が歩いてくる。
彼女だ。
声も無く、ただゆっくりとこちらに近づいてくる。
私は、何も言葉が出せなかった。
いや、出なかった。
ただ、喉だけがひりついた。
互いに目も合わさず、見知らぬ者同士の様にすれ違った。ひょっとすると、彼女には私が見えていないのかも知れない。
──夢の中だから。
そう思う様にした、それだけの事だ。
ときどき、形を変えて夢を見る。
数ヶ月に一度。
その際、どうしようも無く、陰に落ちる時がある。
これ以上夢に浸るのは辛く、無理矢理私は、起きる。無償に喉が渇いており、枕元に置いてある、水を飲む。
何ともいえない憂鬱感が襲い、全てが億劫になる。それでも何とか動き、熱いシャワーを浴びる。
それだけで、少しだが気が紛れる。
そして、グズグズしながらも、駅に向かう。
辛いのか、哀しいのか。
今、自分の感情がどの方向に向いているか良く分からない。ただ、鈍い痛みだけは、胸元に感じる。
電車のアナウンスの声が必要以上に大きく聴こえる。音だけでなく、周囲の視線、ニオイ含めて、過敏に染まっていく。アナウンスの音と同様に増幅され、迫ってくる様に感じる。
とても苦しいが、今まで、何度か経験することで、これも時期に過ぎ去っていくことも理解している。
そして、もう、この時しか彼女の事を思い出せない。
この先も、この痛みが、唯一彼女と係る瞬間なのだろう。
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