ママJKの日常
まとら魔術
ACT.プロローグ
私は、14歳の中学2年生、彩花(あやか)。
最近、人生が一変した。数ヶ月前、気づいた時にはもう遅かった。
お腹が少しずつ大きくなって、制服のスカートがきつくなってきた。
あの頃の私は、ただただ怖かった。誰にも言えなかった。
親にも、友達にも、先生にも。秘密を抱えたまま、学校生活を続けるのは本当に辛かった。
その日、3時間目の授業が終わった後、急にお腹がキリキリと痛み出した。
最初は「我慢できるかな」と思ったけど、痛みはどんどん強くなって、冷や汗が止まらなかった。
教室にいるのが耐えられなくて、トイレに駆け込んだ。
女子トイレの個室に閉じこもって、鍵をかけた。
心臓がバクバクして、頭の中は真っ白だった。
「どうしよう、どうしよう…」って、頭の中でぐるぐる繰り返してた。
トイレの冷たいタイルの床に座り込んで、膝を抱えた。制服のタイツがなんだか窮屈で、脱いでしまった。痛みは波のようで、落ち 着いたと思ったらまた襲ってくる。
なんか、変な感覚が下腹部に広がってきて、気づいた時には「あ、これ、赤ちゃんが…」って。
怖かった。めっちゃ怖かった。
でも、身体は勝手に動いてた。力を入れるたびに、痛みが全身を突き抜ける。
息をするのもやっとだったけど、なんか、本能みたいなものが私を動かしてた。
「ダメだ、頑張らなきゃ」って自分に言い聞かせた。
どれくらい時間が経ったのかわからない。5分? 10分? それとももっと?
個室の狭い空間で、汗だくになりながら、ついにその瞬間が来た。
小さな泣き声が聞こえた。私の娘だった。
ちっちゃくて、赤くて、びっくりするくらい軽かった。トイレの床にしゃがんだまま、震える手でそっと抱き上げた。
冷たいタイルの上で、彼女の温かさが私の手に伝わってきた。
「生きてる…」って、涙が止まらなかった。
怖さと、安心と、いろんな気持ちがごちゃ混ぜになってた。
娘の小さな顔を見てたら、急に現実が押し寄せてきた。「これからどうしよう…」って。
でも、その瞬間はただ、彼女を抱きしめることしかできなかった。
トイレの個室の中で、私と娘、二人だけの世界。外の喧騒も、教室のチャイムも、全部遠くに感じた。
個室の中は蒸し暑く、消毒液の匂いと血の鉄臭さが混ざって、息をするたびに胸がきしんだ。制服のブラウスは汗でぐっしょり張りつき、スカートの裾には赤い染みが広がっていた。足元に落ちたタイツは濡れて重く、ただの布切れみたいに見えた。
腕の中の赤ん坊は、拳ほどの小さな手を震わせて、か細い声で泣いた。その声は廊下のざわめきに溶けず、耳の奥に突き刺さる。私の全身を貫いて、頭の中の「どうしよう」という声を一瞬かき消すくらいに、はっきりと響いてた。
ドアの向こうでは、誰かが笑い声をあげながら手を洗っている音がした。蛇口の水の音がやけに遠く、そして現実的だった。「誰かに気づかれるかもしれない」その恐怖が、心臓をさらに早く叩かせた。
だけど、赤ん坊を見下ろすと、怖さも恥ずかしさも、全部遠のいていく気がした。ちっちゃな唇が開いて閉じて、かすかな温もりが胸元に伝わる。こんなに頼りなくて、壊れそうで、それでも確かに生きている。
「……生まれちゃったんだ」
震える声でそう呟いたとき、涙がぼろぼろこぼれ落ちた。制服の袖でぬぐっても止まらない。泣き声と自分の嗚咽が重なって、狭い個室は二人の世界になった。
――チャイムが鳴った。四時間目の始まりを告げる音。時間は確実に進んでいる。けれど私だけは、この小さな命を抱いて、取り残されたみたいに座り込んでいた。
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