第7話 心の傷と友情の絆
秋の風が校庭を通り抜ける。
翔太は登校途中、ふと立ち止まり、空を見上げた。
父・和也の葬儀から数か月が過ぎ、日常は少しずつ戻ってきていたが、心の奥の痛みはまだ消えていなかった。
「お父さん……」
翔太は小さくつぶやく。
胸の奥に残る孤独感は、父の死が現実であることを毎日思い出させた。
そんなある日、翔太のクラスに新しい転校生がやってきた。
名前はカナ。明るく社交的で、誰とでもすぐに打ち解ける性格だった。
翔太は最初、積極的なカナを前に少し距離を置いていた。
「うまく話せるかな……」
しかし、昼休みに偶然隣に座ったカナは、笑顔で話しかけてきた。
「翔太くん、一緒に昼ご飯食べようよ!」
翔太は戸惑いながらも、少しずつ会話を始めた。
カナの明るさに引っ張られるように、翔太は普段口にできない父のことや、最近の気持ちを少しずつ話していった。
「お父さんがね、亡くなったんだ。僕、まだ寂しくて……」
カナは黙って翔太の話を聞き、そっと手を握った。
「それは辛かったね。でも、翔太くん、一人じゃないよ。私がいるから」
翔太はその瞬間、心の奥に小さな温もりを感じた。
孤独だった気持ちが、少しずつ解けていくようだった。
放課後、翔太は友達のユウタと一緒に図書館に向かった。
「なあ、翔太。お前、最近元気出てきたな」
ユウタは笑いながら言った。
翔太は少し照れくさそうに答える。
「うん、カナと話すようになって、少しだけど気持ちが楽になったんだ」
ユウタは頷き、肩を叩いた。
「そうか。それなら良かった。俺たちもいつでも力になるからな」
翔太はその言葉に胸が熱くなった。
父を失った痛みはまだ完全には消えていないけれど、友情や支えが少しずつ心を癒していくのを感じた。
週末、翔太は母・美智子と一緒に近所の公園を散歩していた。
「翔太、最近少し笑顔が増えたわね」
美智子はにっこり微笑む。
翔太は頷きながら、父の思い出を胸に歩いた。
「うん、少しずつ前に進めてる気がする。お母さんも嬉しい?」
「もちろんよ。翔太が少しずつ元気になるのを見ると、私も安心するわ」
父の不在という現実は変わらない。しかし、家族や友達、そして新しい出会いが、翔太の心を少しずつ満たしていく。
ある晩、翔太は父の書斎に入り、父の遺した写真や手紙を眺めた。
父の笑顔を思い出すたび、胸に痛みが走る。
けれど、その痛みは、父の愛を感じる証でもあった。
翔太は深く息をつき、心の中で父に語りかけた。
「お父さん、僕、少しずつだけど強くなってる。友達もできたし、お母さんとも笑顔でいられる。ありがとう」
父の思いは翔太の中で生き続け、翔太自身の力となっていた。
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