第3話

「全員『色付け』は終わったな。では、今後についての説明を行う」


 一斉に生徒達の視線がクラウディア先生に向く。

 私の頭の周りを回っていたシアンは、頭の上で落ち着いてしまった。


「竜は、孵化したばかりの状態を幼生という。その後、二度の変態を遂げ成体となる。正しく育てれば、二、三ヶ月で一度目の変態をし、幼体となる。そこで、お前達に最初の試練だ。三ヶ月以内に竜を幼体へと成長させろ」


 試練というからには、達成できなければ何かしらの罰があるのだろう。


「それが、できなかったらどうなるのですか?」

「退学だ」


 生徒からの質問に、クラウディア先生は淡々と答える。


「期限は三ヶ月後、六の月末日。他に質問は?」


 この学校を退学になる、という事はもう竜騎士にはなれない、という事だ。竜騎士でない者が竜を持つ事はできない。


「退学になったら、竜はどうなるのですか?」


 これだけは聞いておかないといけない。

 こちらを向いたクラウディア先生の赤眼がスッ、と細められる。


「主との繋がりを断ち、無垢の竜に戻り新たな主が現れるのを待つ事になる」


 良かった。処分されるわけではないみたいだ。

 無垢の竜に戻るという事は、この子はこの子ではなくなってしまう。でも、もしかしたらその方がこの子にとって良い事なのかもしれない。


「きゅうっ!」


 ぺし、とシアンの尻尾が優しく私の頬を叩いた。シアンは私の目の前でふるふると首を横に振る。

 もしかして、私の考えを読まれたのだろうか。


「大丈夫だよ。できれば私もシアンとお別れはしたくないから」


 だからわざと退学になんてならないよ。

 人差し指で頭を撫でると、シアンは満足気に頷き頭の上に戻っていった。


「竜の育て方については次の授業で詳しく説明する。わかっているとは思うが、お前達は今後常に竜と共に生活する事になる。いいか、竜は道具ではない。共に学び、共に成長し、共に生きる。竜騎士にとって半身ともいえる相棒だ。それを忘れるな」


 そこで終業のチャイムが鳴る。最初の授業が終わり、クラウディア先生は教室を後にした。


 慌てて立ち上がりクラウディア先生を追う。


「どうされました?」

「シアンの事をクラウディア様に聞いてきます」


 スピカにそう伝えると何故か睨まれたけど、引き留められたわけでもないのでクラウディア先生の元へ向かう。


 廊下に出ると、直ぐにクラウディア先生に追いついた。


「クラウディア様、聞きたい事があるのですが」

「クラウディア『先生』だ。ブルーロータスか。どうした?」


 頭の上に乗っていたシアンを手に乗せてクラウディア先生に見せる。


「この子、他の竜とは少し違うみたいなのですが」

「なっ! それは!」

「きゅっ!」


 グイッ、と顔を寄せるクラウディア先生に驚いて、シアンは私の背中に隠れてしまった。


「すまない、驚かせてしまったな」

「あの、この子は」

「まだ確証がないので断言はできない。だが、『りゅう』である事は間違いない」

「そうですか。良かった」


 ホッと胸を撫で下ろし、背後に隠れてしまったシアンを手に乗せる。


「私からも一つ聞きたい。何故、あんな質問をした?」

「何故とは?」

「退学になれば竜騎士にはなれない。竜は学校が回収するのは当然だろう」

「そうですけど、もし回収された後に竜が処分されるようでしたら、私が退学になった時はこの子を連れて逃げようかと」

「そんな事をすれば重罪だ。捕まれば極刑だぞ」

「それでも、この子が助かる可能性があるのならそうします。まあ、処分されるわけではないようなので無用な心配でしたが」


 クラウディア先生はフッ、と吹き出し、ツボに入ったのか声を上げて笑い出した。


「いやすまない。なるほど、よい主を持ったな」

「きゅう!」


 流石はクラウディア先生。恥ずかしがり屋なシアンがもう気を許している。何がそんなに可笑しかったのかはわからないけど。


「ブルーロータス、一つアドバイスをやろう。竜を信じろ。竜は主の心を見る。主が竜を信じなければ、竜も主を信じない。自分を信じていない者に背中は預けられないだろう。お前は竜騎士として最も重要な素質を持っている。期待しているぞ」


 シアンの頭を軽く撫で、クラウディア先生は去っていった。


 元竜騎士団団長に期待されてしまった。私には荷が重いよ。というか、竜騎士として最も重要な素質ってなんだろう。

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