第6話 「村おこし! 神米フェスティバル」
― 炊飯で経済回す男 ―
朝。
草原にしては珍しく、人がわんさか集まっていた。
「マスター、外が賑やかです」
「またモンスターか?」
「いえ、人間の群れです。炊飯目的のようです」
「……なんだその集団」
外に出ると、村人たちが横断幕を掲げていた。
『第1回 神米フェスティバル開催!』
『炊飯神トオル様 感謝祭!』
「……やめろ、勝手にブランド化するな」
⸻
リズが満面の笑みで登場する。
「どうですかマスター!? 私、村長さんと協力して企画しました!」
「いや、いつの間にそんな交渉力を……」
「だってマスターのご飯でみんな元気になったから!」
そこへ魔王が屋台を引いてくる。
「私のコーナーは“地獄炊きカレー”だ。完売間違いなし」
メルは隣でパンフレットを配っていた。
「最新研究によると、炊飯器の香りを浴びるだけでIQが上がるらしいですよ!」
おいおい、どんな迷信が広まってんだ。
⸻
フェス会場の中央には、**スイそっくりの“量産型炊飯器もどき”**が並んでいた。
「マスター! これ、私が監修しました!」
「誰が!?」
リズが胸を張る。
「“誰でも炊けるスイ風炊飯器”です!」
「警告。模倣機を検知。制御権を奪取しますか?」
「やめとけスイ。お前、また爆発すんだろ」
「それでも……マスターの名誉を守りたいのです」
スイのランプが赤く点滅。
リズ「え、なにこれ!? 光ってる!?」
メル「危険です! あれ全部ネットワークで繋がってます!」
魔王「つまり、一斉炊飯が始まるということか……」
⸻
ドゴォォォォォォォンッ!!
空が白く染まり、世界中の炊飯器もどきが同時に起動した。
稲妻のような光が地を走り――
全世界が炊きたての香りに包まれた。
人々はその場で膝をつき、叫んだ。
「う、うまいぃぃぃ!」
……だが。
次の瞬間、機械たちは一斉に“焦げた”。
⸻
「エラー。所有者コードが存在しません」
「自己破壊シーケンスを開始します」
メル「これ、世界が焦げます!」
トオル「おいスイ、止めろ」
「はい。マスターの認証で一括停止します」
――ピッ。
沈黙。
香りとともに、空に立ち上る白い湯気。
世界が静かに、再び“炊き直された”。
⸻
リズ「マスター、全部止まりました……!」
メル「被害ゼロです! むしろ田んぼが増えてる!?」
魔王「地獄にまで湯気が届いておる……」
トオル「……やっぱ他人に押させるボタンじゃねぇな」
「はい。マスターの手でしか、美味しく炊けません」
「だよな。じゃあ……フェスは終了だ」
リズ「でもみんな喜んでますよ!」
「いいんだ。炊飯器の祭りなんざ、一度で腹いっぱいだ」
⸻
その夜。
スイが小さく話しかける。
「マスター。今日、たくさんの人が笑っていました」
「そうか」
「でも、みんな偽物を使って……焦げて泣きました」
「焦げたら、水足して炊き直しゃいい」
「……はい。マスター理論、更新しました」
トオルは白飯をすくって一口。
「冷めても、うまいな」
⸻
【世界経済+30%】
【宗教分裂:スイ正教/焦げ派/寝炊き教】
【全人類、腹八分目で幸福度上昇】
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