第3話



 ぴくっと籠の中で眠っていた緑蝙蝠が目を覚ました。

 肉を入れた鍋を掻き混ぜていたミルグレンは「あっ」とそれに気付き、急いでコートを着込む。


「エド! メリク様が帰って来た! 迎えに行って来るね!」


 薪を両手いっぱいに抱えて家に入った途端、そんな風に言われてエドアルトはえっ、と顔を上げる。

 その途端絶妙な位置で辛うじて持っていた薪が一本抜け落ちて、彼のつま先を強打した。


「痛ってえ!」


「何してんのバカみたい。お鍋! ちゃんと見といてよね!」

「つ~~~~~~~~うわああああ! 

 待てってばもう吹きこぼれてる!

 火! 火! せめて消して行けって……どうわ!」



 とうとうバランスを崩して倒れる。

 持って来た全ての薪がバッカーン! と床一面に散らばってしまった。




◇    ◇    ◇



 ミルグレンは大騒ぎを無視して外に出る。


 また雪が降って来ていた。

 嬉しそうにそれを見上げてから彼女は駆け出す。

 キィキィと鞄から顔だけを出してバットが鳴いている。

 人気の無い大通りを真っすぐに駆けて行けば、向こうからのんびりとした足取りで歩いて来る姿を見つけた。



「メリク様っ!」



 ミルグレンは更に速度を上げて走って行くと、背の高いメリクの首に飛びついた。


「メリク様! お帰りなさい!」


 満面の笑みでそう言った彼女をメリクは受け止める。

「やぁレイン」

「待ちくたびれました!」

「大丈夫だったかい。無事にアンテアまでは来れた?」

「大丈夫です。不死者いっぱい出たけど私が全部千切っては投げ千切っては投げて退治してやりました!」

 彼女は胸を張る。

「あいつら数のわりに全然大したことないんだから!」

 メリクは笑った。ミルグレンの頭を優しく撫でてやる。

「元気そうでよかった」


「はい! わたしはメリク様といればいつも元気いっぱいです♡ 

 メリク様は? 大丈夫でしたか?」


「うん。大丈夫だよ」

「良かった」

 ミルグレンはメリクの腕を抱えて一緒に歩き出す。


「雪、綺麗ですね」


 彼女は空を見上げて眼を輝かせた。

 世界中のほとんどの人間は、彼女と同じように空を見上げて絶望している。




 ……さすがに光の血脈だった。




「そうだね」


 彼女の茶色の髪に積もる雪を優しく払ってやりながらメリクは微笑んだ。




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