第五話……モンスターの討伐を開始したんだが……
討伐の順番はモンスターの流れが切れたところで回ってくる。順番が回ってきたら、『討伐パーティー』として洞窟入口近くに移動、他の組は周囲に散らばり、『待機パーティー』となる。待機パーティーは、討伐パーティーの邪魔をしなければ、何をしていてもいい。
ただし、会話をするなら、出入口から最低三十メートル離れることが推奨される。このため、パーティーが二組以上いる場合、監視官と管理パーティーは必ず離れていることになり、一組以下の場合は、監視官も出入口近くにいる。
ちなみに、討伐パーティーから『ピンチだから助けてくれ』と言われたら、助けても助けなくてもいい。監視官も同様だ。助けに入った場合、討伐数はカウントされない。
討伐パーティーになっても、すぐにモンスターが現れるわけではないが、今回は運良くすぐに出てきた。
「『ツインテールインヴァイツウルフ』五体か」
ツインテールインヴァイツウルフは、洞窟C五番口では最も典型的なモンスターだが、最も厄介とされている。
洞窟Dまでのモンスターは、連携を駆使した攻撃をしてこないのだが、コイツらは、逆にそれしかしてこない。しかも、それぞれが素早く、リーダーがいるわけでもないので、どの個体を倒しても統率力や連携力は同じだし、この場合は一体倒しても四体で連携、二体倒しても三体で連携してくる。連携パターンも多彩で、フェイクも至る所で入れてくる。
終いには、残り一体にしても、ほんの少しでも余計な時間を与えてしまうと、『遠吠え』で洞窟内から仲間を呼び、振り出しに戻る。したがって、下手をすると次のパーティーに順番が回ってくるまで時間がかかってしまう場合もある。
この狼は、一般的には、『パープルウルフ』と呼ばれており、そのスピードと連携力と厄介さから、四体出現時の討伐推奨パーティーはトリプルAランク、すなわち、モンスターランクはその一つ下のダブルAに分類されている。初見の場合は退却推奨、六体以上なら、どんな場合でも退却推奨となる。今回は五体なので、その間。トリプルAランクが三人未満の場合は退却推奨となっている。
とまぁ、これが『一般的』なモンスター情報なのだが、『マリレイヴズ』のモンスター情報は一味も二味も違う。
そもそも、『パープルウルフ』なんて名付けは意味がない。紫の狼だったら何だって言うのか。その紫の狼はどんな攻撃をしてくるのか、するとしたらそれ以外の攻撃はしてこないのか。じゃあ、黒い狼は連携をしてくるのか来ないのか。
当然、名前からは全く分からないから、結局のところ、名前と外見的特徴、さらには戦闘スタイルのセットを覚えなければいけない。それなら、最初から名前で説明するというのが、『マリレイヴズスタイル』だ。
「初めに、全部で四体を想定して戦ってくれ。倒し方は一般的に知られている方法で。俺は残りの一体を担当したことにする。そして、仲間を呼ばせて、別の倒し方を適用して全滅させるとしよう。最初から最後まで俺は見学させてくれ」
「了解です」
ディーズの返事の後、三人はツインテールインヴァイツウルフに、剣を抜きながら素早く近づいて行った。
ビーズが左端のウルフに正面から向かうと、ディーズはそのさらに左から回り込み、後ろから挟み撃ちの形に持ち込むつもりだ。
そうはさせじと、残りの四体が援護に向かおうとするも、ビーズとシーズがその四体を器用に順番に抑えることに成功している。
結果、ビーズの初撃が左端ウルフに入り、ディーズがとどめを刺して、まず一体。
右側の前線がシーズによって上げられていたので、ウルフ達は『/』のように傾いた隊列になった。そこで、シーズが左斜め後ろに向かい、次に左端になったウルフを後ろから軽く切りつけた。怯んだ隙にビーズがとどめを刺し、二体目。その間、ディーズは後ろを向いたシーズをフォローし、少しだけ時間を稼いでいた。
シーズが再度正面を向く直前にディーズとスイッチし、シーズは手前のウルフを担当、そのままディーズは最後尾のウルフをこちらから見て右側から、ビーズは左から回り込み、三角形で三体を挟み撃ちにした。
ディーズが中央のウルフに攻撃フェイントをかけて、それに反応した最後尾のウルフにビーズが軽傷を負わせ、シーズは正面からパワーで押して行き、三体の間隔をできるだけ狭める。
ディーズがシーズ担当のウルフの後ろから、同じように軽傷を負わせ、最終的に軽傷の二体が背中合わせ、と言うか尻尾合わせになったところで、シーズがやはりパワーで二体を同時に薙ぎ払った。
そして三人は、すぐに後ろに飛んで、最後に残った中央のウルフと距離を取った。本来なら、すぐにそのまま絶命させることができるはずだが、最初に言った通り、仲間を呼ばせるためだ。
そこから約一秒後、ウルフの遠吠えが周囲に響き、新たに四体が、その十秒後に洞窟から出てきた。
つまり、ツインテールインヴァイツウルフは、高々二秒以内に最後の一体を絶命させないといけないことになる。『普通のギルド』のパーティーなら。
さて、距離は取ったものの、三人はまだ一体のウルフを囲んだ状態だ。
そこで、三人は再度距離を詰め、後ろを取ったディーズが、そのウルフの尻尾の内、一本を切断した。すぐさま、ビーズが軽傷を負わせ、その場に放置。残りの四体を同様に仕留め、余裕の時間を与えた上で、軽傷にしたウルフを最後に絶命させた。仲間は呼ばれなかった。
なぜ仲間を呼ばれなかったのか。
まず、ツインテールインヴァイツウルフの名前を聞いた時、『尻尾が二本あるのか。一本の個体はいないのか? 二本が一本になったらどうなるんだ? それはただのインヴァイツルフか?』と普通は思うんじゃないだろうか。
これがまさに、倒し方をモンスターの名前に含ませているママの名付けのすごいところだ。
ツインテールインヴァイツウルフは、尻尾が二本から一本になったら仲間を呼ばなくなるのだ。遠吠えさえしなくなる。もちろん、普通の狼なら遠吠えで仲間を呼ぶだろう。
しかし、ヤツらは違う。なぜか。
この遠吠え、実は意味がない。実際には二本の尻尾を振動、共振、共鳴させて、仲間を呼んでいるからだ。そして、他の近くで生きているウルフの尻尾は共鳴よりも余計な振動となり、邪魔となるため、最後の一体になるまで仲間を呼ばない、呼べない、というのがカラクリだ。ちなみに、遠吠えは尻尾に力を入れやすいため、かつ敵を騙すためと言われている。
これについては、実はディーズ達の戦い方にヒントがあった。ウルフ達の背後に回ると、ヤツらはそれだけでソワソワするのだ。だから、できるだけ後ろを取られないように気を付けている。
もちろん、人間や動物なら、戦闘時どころか日常でも後ろを気にするし、それが当たり前だと思うだろう。しかしヤツらは、人間や動物と比較して、それこそほんの少しだけ後ろを気にする。尻尾を一本にされたら困るから。そこに気付くのが達人であり、ママなのだ。
ちなみに、二本とも中途半端に切り落としても、仲間を呼ばれてしまうので、切るなら根本までだ。一本だけなら、先端から半分に満たなくても仲間を呼ばれることはない。ただのスピードの速い狼に成り下がるのだ。そこまで検証しているのもすごいことだ。
幸い、ウルフの二本の尻尾は、予備動作なしですぐに仲間を呼べるように、完全にくっついていたり、螺旋状態になっていたりはしてない。つまり、どうせ切断されるなら二本とも、みたいにはなっていないので、相応の剣技とスピードがあれば、一本だけ切るのはそこまで難しくはない。
実はまだある。尻尾が一本になったウルフが一匹いると、最後に仲間を呼ばなくなるだけではなく、連携にも影響が出る。しかも、その一匹だけではない。一匹いれば、全体の連携が乱れるのだ。理由はやはり、その一匹の一本の尻尾が余計な振動となり、連携の邪魔をするから。
こうなると、ツインテールインヴァイツウルフのモンスターランクはガクンと下がり、一般的には五匹でもBランクほど、『ノウズ換算』でEランクまで落ち込む。したがって、この狼に限って言えば、『マリレイヴズ』でのCランクは、狼の尻尾を一本にするレベルに達している者達であり、難易度ということだ。
また、最低三体、最高八体で出てくるのは確認済みで、その数によってもランクに影響しなくなる。
しかし、ディーズ達は万全の状態のウルフ達を平然と討伐し、技術的にもウルフの弱点を突いて討伐した。文句なしだ。
「どうでしたか?」
切りの良いところで、ディーズが俺の所にいち早く笑顔で駆け寄ってきた。その様子に、俺は内心ドキッとした。『かわいい』と思ってしまったのだ。仕事中にもかかわらず。
「あ、ああ……! 文句なしだ!」
自分の感情を取り繕うように、俺は思っていたことをそのまま口にした。
すると、ディーズがさらに笑顔になり、またも俺の心を揺さぶった。仕事中だぞ。
「ありがとうございます! 少しでも気になった所や、改善した方が良い所があれば、遠慮なく言ってください」
「そ、そうだな……。それじゃあ……今の役割分担を順に変えていっても対応は可能なのか。例えば、シーズがパワーで攻めたところをディーズが担当するみたいな。要は、俺が咄嗟にそれを指示した時のことを想定したい。少しでも迷いが生じたり、苦手だと思ったりするようなら指示しない」
俺は、またも取り繕うように、自分の意見を捻り出した。そんなことは、そういう状況にならないように動けばいいだけにもかかわらず。
「その目的と手段によりますかね。どちらかと言うと、目的と理由だけ言ってもらった方が動きやすいですね。例で言えば、『パワーで抑えろ』というのはできませんが、『何とか抑えてくれ。挟み撃ちにされたくない』みたいな。そしたら、相応の手段で抑えます。できない時は、すぐにできませんと言います。ちなみに、二対同時撃破については、私もやろうと思えばできます」
「なるほど、頭に入れておこう。もちろん、可能な限りそれぞれの長所を活かすような戦い方をするよう心がけることにする」
俺は平静を装って答えたが、ディーズの言った通りだ。完全に無駄な質問をしてしまった。もしかすると、幻滅されたかもしれないな……。
「よし……。それじゃあ、もう一回しするか。それでここは終わりだ。次は俺も参戦して、七割程度を担当しよう」
「了解です」
俺は、ここで汚名返上をしたいと思い、気合いを入れた。
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