風の音、草の匂い、火の呼吸。

　本作『ある魔女の弟子』は、そうした繊細な感覚の一つひとつを丁寧に拾い上げながら、“喪失と継承”という普遍のテーマを静かに描き出す短編である。　

　淡々とした筆致の裏には、弟子の無垢な献身と、師の終わりを悟った静かな決意が流れており、語られすぎない感情が、むしろ深い余韻を残す。

　文章は非常に洗練されており、視覚よりも“手触り”と“匂い”で世界を描くような詩的構成。
　村の空気、土の湿り、風のざらつき――それらが読む者の記憶をゆるやかに呼び覚ます。
　クライマックスで描かれる変化の場面も、美しさと痛みが同居していて印象的だ。

　唯一、作品全体の完成度が高すぎるがゆえに、
　感情の揺らぎが少し遠く感じられる読者もいるかもしれない。
　だがその静謐さこそ、この物語の品格であり、
　“美しく整えられた哀しみ”として心に残る。

　言葉の一つひとつが風に溶けていくような読後感。
　短いながらも、まるで長い祈りを読み終えたような静かな充足がある。