第21話 素振り

 

「リナぁー。おやつなーい?」


 グレアに魔法の使い方を教えてもらっていて、休憩になったからリナにおやつをもらいにきた。


 食堂にも洗い場にもいなかったから、ここだろうと思いリナの部屋に入る。



「ふっ、ふっ、ふっ」


 リナは腹筋のトレーニングをしていた。

 集中してて、僕に気付いてないみたい。


 僕はそーっとドアを閉めた。


「びっくりした。リナがあんな薄着でいるの、はじめて見たかも」


 なんでかわかんなけど、ちょっとドキドキする。


「どうして急に運動しはじめたんだろう?」


 グレアが来てから、リナはたまに変な行動をするようになった。


 記憶をいじったせいかな? でも性格とかは昔からの彼女と変わらなくて、僕が悪いことしたら普通に怒られる。


 ⋯⋯まぁいっか。


 リナが隠してるお菓子は、またグレアに魔力を貸して魔法で探してもーらおっと。

 


 ──***──


「おやつも食べましたし、今からは剣術の稽古をしましょう」


 グレアが見つけたお菓子を僕とグレアとシルビィの3人で食べた。朝は魔法の勉強だったから、これからは剣の練習。


 シルビィが僕用の木剣を渡してくれる。これは彼女が作ってくれたもの。


「先ほど魔力を返していただいた時に、この木剣を強化しました。その辺の剣より頑丈ですし、重さはルシアン様が振るのにちょうど良いかと思います」


 グレアが強化してくれたんだ。

 なんか黒いなーって思ったんだよね。


「⋯⋯ルシアン様。ちょっと興味本位なんですが、その木剣で聖騎士たちが持っていたこの剣を叩いてもらっていいですか?」


 そう言いながらシルビィが剣を地面に置いた。


「これをたたけばいいの?」


「はい。上段の構えは昨日教えましたよね? あの構えから、まっすぐ木剣を振り下ろしてください」


「はーい」


 昨日シルビィに教えてもらったように構え、木剣をまっすぐ振り下ろす。


 パキンって軽い音を立てて、簡単に剣が折れた。


 この剣、ちょっと弱くない?


「ふむ。強度は問題なさそうですね」


「いや、それは良いのですが……。ルシアン様、お身体に纏う魔力をもう少し抑えるイメージをしないと危険です。主に世界が」


「世界が? なんで?」


「あなたが手に入れた力は大変強い悪魔のものであるからです」


「シルビィ、あなた分かっていますねぇ。続けなさい」


 なんかグレアがドヤ顔してた。


「ルシアン様がとてつもない魔力をお持ちなので、あの時ゼノをぶっ飛ばすことなど容易だったはず。それをせずにグレア様を呼んだのは、まだ魔法の威力をコントロールできないからですね?」


「うん。あの時はそばにシルビィがいたから危ないかなって」


「気を使っていただき、ありがとうございます。もしそうでなければ、私はここにいなかったでしょう。しかしそうなると、やはり過去に魔法を暴走させたことでもあるのでしょうか?」


「えぇ、まぁ。アレは私も死ぬかと思いました」


 僕がグレアから力をもらったってことはシルビィにも言ってある。


「ちなみにその時はどんな魔法を?」


「フレア・ブーストです」


「身体強化魔法? 身体強化魔法なんかで、どうやって大悪魔カーディナルが危機を覚えるほどの状況になるというんですか」


 シルビィは信じてないみたいだった。


「それは……。いえ、貴女にも体験してもらった方が早いですね。ルシアン様、以前飛空拳を放った時のように、フレア・ブーストしてからその木剣を素振りしてください。魔力の放出量は、そうですね。全力の半分より少ないくらいでお願いします」


「わかった。やってみるね」


 グレアとシルビィが僕から離れていった。


「ほんとは2割ほどにしていただきたいのですが、ルシアン様の年齢の人族には伝わらないかと思い、半分より少しと言いました。シルビィ、今から聖印の力を開放して全力で防御しなさい」


「えっ、え?」


 なにかふたりが話してるけど、良く聞こえなかった。


 前回はやりすぎちゃったから気を付けなきゃ。


 まずは魔力を放出。

 半分、半分。


 このくらいかな?


「ル、ルシ──様、──が、─って、──ふ」


「耐え──。踏ん─り──い。まだ──」


 後ろで何か声が聞こえる。


 でも僕は魔力の制御で集中してるから振り向いたりできない。


 えっと、確かあの時は放出した魔力をぜんぶ拳に集めたっけ。


 それじゃ今回は剣に魔力を流そう。


 

 ……こんな感じかな。


 おぉ、剣が銀色に光ってる。

 かっこいいね、これ。


 銀光剣ルミナスブレイドって名付けよう。



 準備はできた。


 銀光剣をまっすぐ振り下ろす。


 振り下ろすタイミングに合わせ、魔力を銀光剣から勢いよく放出する。


 昔お母さまが読んでくれた、伝説の勇者様のように。


「ルミナスラッシュ!」


 あっ、出た!


 絵本で見たのと同じように。

 勇者様みたいに僕も斬撃を飛ばせた。


 剣から飛んで行った斬撃は訓練用の的を壊し、その奥にある訓練場の壁を大きく傷つけて消えた。


「あらら、残念。今回は壁まで壊せなかった」

 

 グレアに言われて半分よりちょっと少なめの魔力しか込めていなかった。


 でも前回は訓練場の壁だけじゃなくて、その奥のお城の防壁まで壊せたんだから、的だけしか壊せないなんてちょっとつまんないな。

 

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