第16話 電子の友情
天使が改心しダウンタウンで移動式のヌードルショップを開業したそうだ。
そんな爽やかな噂が聞きたい街、ロサンゼルス。
嵐は――突然始まり、突然終わった。
ボビーの腕からは血が滴り、
裂けた皮膚の下で、金属の骨格が冷たく光っていた。
彼の足元には、量産型ボビー・ユニットの切り離された頭部。
赤い光学センサーが一度だけ瞬き、完全に沈黙した。
戦いは終わった。
少なくとも、そう“見えた”。
煙る瓦礫の中から、
ふらつきながら一人の影が立ち上がる。
覆面を剥ぎ取ると――LAPD副所長(誰も名前を覚えていない)。
顔は怒りと疲労で歪み、目は狂気で燃えていた。
焦げたタクティカルスーツの中で、彼は震える手でグロックを構える。
「お前が私の管区を地獄に変えた!
毎日――抗議、デモ、カメラ、暴動!
私の潰瘍は破裂し、家族は去った!
だが何より許せんのは、私の年金(賄賂)を横取りしたことだ‼
すべては貴様、キャラハンのせいだ‼」
銃が火を噴いた。
「ダメ‼」
アレックスが前に飛び出した。
それは、あまりに無意味だった。
9mmの弾丸がボビーのメタルボディに傷をつけることはない。
それでも――
アレックスは、その軌道に身を投じた。
胸に弾丸を受け、崩れ落ちる。
「クソッたれ!!」
ボビーが咆哮した。
アレックスを抱きとめ、彼の腰のコルト・パイソンを奪う。
そして――
副所長の頭部へ、
一発の弾丸をプレゼントした。
硝煙が静かに夜に溶けた。
街の向こう。
マイアミ本社のペントハウスで、
ホログラム越しの映像を見ていたCEOアレックス・ジュニアは、
口から葉巻を落とした。
「……なぜだ?」
誰もが同じ疑問を抱いた。
なぜ人間が、ピストルと機械の間に命を投げ出すのか。
答えはシンプルだった。
友情。
混沌から生まれ、ばかばかしく、理不尽。
それでも否定できない。
デジタルの悪魔と、愚かな新米が、
恐怖よりも強い“何か”で結ばれていた。
その瞬間――
電脳と魂の狭間で、光が生まれた。
ボビーはアレックスの頭を抱え、
微かに残った温もりを確かめるように呟いた。
「Lesson Ten……
愛は、撃てば届く。」
そして、ロサンゼルスの夜が、静かに息をした。
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