大山公園
@kqrln
はじまり
「イオンに財布を忘れた?ふざけんじゃねえよ」
木造アパートの壁を殴る音が響く。父親怒りに油を注いだ。こんなバカげた言い訳、怒られて当たり前だ。私は今、大山公園へ向かっている。
さっきまでクラスメイトとイオンで遊んでいた。門限通り20時前に帰宅し、自転車を停めていたら家の中から父親の怒鳴り声が聞こえた。父親がまた会社の納金を使い込んでパチンコに負け、祖母に金を出させようと必死に癇癪を起こしていた。いつもの事だ。そんな時、メッセージ上でしかやり取りをした事がない友達のリクから連絡が来た。「今病んでるから大山公園来てよ」行くわけが無い。門限を過ぎているし、父親の癇癪の真っ最中だ。断ろうと思ったのに、気がついたら親に財布をイオンに忘れて友達が持っている、学校に行くための交通費が入っているから取りに行くと嘘をついて家を飛び出していた。外にまで父親が行かせるなと怒鳴っている声が聞こえる。息を切らすほど急いで自転車を漕いだ。
自転車で片道15分。大山公園に着くとリクの姿が見えた。初めて見たリクは、タバコを吸っていた。リクは「お前に言ってなかったっけ」と困ったような顔をして笑った。イオンと家の往復でどんなに時間がかかっても1時間だから、1時間後には帰ることを伝えた。門限を過ぎているのに家を出てきた事に驚かれ、詳細を話すとリクは笑ってタバコを取り出した。「え、吸わせる気?」私が聞くとリクは「まぁ吸ってみなよ」と差し出した。両親のようになりたくないので絶対にタバコを吸わないと決めていたのに、咥えてしまった。どんなに頑張って火を着けようとしても着かない。リクが笑って私からタバコとライターを取り上げ、「やっぱりお前は辞めておけ」とタバコに火をつけた。なんだか悔しくて私にも吸わせろとしつこく言って、ようやく渡してくれた。吸い込んだ瞬間むせた。リクはおもしろがって「関節キスだな」と茶化してきた。あっという間に1時間が過ぎた。案の定、家からは数え切れないほどの不在着信が入っていた。帰り道、こんな悪さはもうしないでまたあの日常に戻るんだと考えていた私にリクは「じゃ、また明日」と当たり前のように明日の約束をしてわかれ道を歩いて行った。タバコの匂いについて家で問い詰められると思ったが、何も言われなかった。そういえば、リクが吸っていたタバコの銘柄は皮肉にも両親と同じだ。父親の癇癪を小耳に挟んで早めに眠りについた。
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