第4話 聖女の力とは何か

 11月26日 午後5時08分

王国『パラティーヌ』

 ロスペン侯爵家・広間にて。


 テーブルに並べられたティーカップに、スコーンや一口サイズのケーキたちが置かれている、三段構造のスリーティアーズ。


 そして、一口サイズのサンドイッチたちが盛り付けられている皿。


 それらを前にしているのが、赤いドレスに身を包んでいる少女・シオン。彼女のドレスは派手すぎず、素朴すぎず。とても動きやすいドレスだった。

 

 彼女の髪も、ドレスに似合うようにセットされている。セミロングの髪は綺麗に整えられ、毛先がカーブがかっており、可愛らしい女の子になっていた。


 居心地悪そうに座っているシオンを見た軽装姿のトキは、心配になって声をかける。彼の服装は、軽装だが、シワ一つもなく、髪もちゃんと整えられているし、きっちりしている。


「聖女様?どうかしたのですか?」


 丁寧な言葉遣いで話しかけられたシオンは、トキから目をそらしながら、きごちなく答え始めた。


「あ、いや……その……『聖女様』って?それに、ここ夢ですよね?私…家に帰りたいのですが……」


「何を仰いますか、聖女様は貴女です。それに、ここは夢ではなくて現実ですよ」


「やっぱ、そうなりますよね……。さっき、私のこと、『聖女』云々とか言ってましたし……」


 ため息をついたシオンは、自身の左手を力一杯つねる。あまりの痛さに涙を浮かべてしまう。


「い、痛い……ッ!ってことは、夢じゃない?現実か……」


     ーーーーーーーーーー


 11月26日 午後5時12分

王国『パラティーヌ』

 ロスペン侯爵家・広間にて。


 それからと言うもの。シオンは無言で、居心地悪そうに紅茶やスコーンやらケーキ、サンドウィッチなどを頬張っていた。


 最初、彼女は遠慮した。だが、トキが進めてきたのだ。


『聖女様が遠慮することはありません。さぁ、沢山食べてください。スコーンは焼きたてですし、ケーキは、新鮮な果物たちで作りましたので』


 こんな感じで、『食べてくれ』と言わんばかりにすすめられてしまい、泣く泣く食べることにしたのだ。


(居心地が悪すぎる……。第一、私が聖女だとして…一般人が貴族の家で、しかも家主以上にもてなされているのは……場違い感がありすぎる……)


 内心泣きながら、トキが皿によそってくれたチョコのスコーンをフォークで一口サイズに切ってから食べる。


(チョコチップの甘い味が、口の中に広がる……。しかも、甘さ控えめ……。生地もしっとりしてるし……、これが貴族の味なのか……)


 口を動かしながら、シオンはトキの方を見る。彼は少し離れた場所で、広間に来ていた使用人たちと何かを話し合っていた。


 話し終わったのか、使用人たちは部屋から退出していき、トキもこちら側へと戻ってくる。


「聖女様、どうかなさいましたか?」


「え?いや…えーと…、何かあったら手伝います。何かあれば……」


 そう言って、立ち上がろうとするシオンを、トキは慌てて止め始める。


「聖女様のお手を煩わせるなんてとんでもない! 身の回りことなど、全てこちらでやるので。聖女様はそのままで」


「え?でも……」


「聖女様はどうかそのままで。貴女様の世話などは、『ロスペン家』の役目ですから。お気になさらず」


「え、そ、そうなんですか…?」


「はい」


 賑やかに頷くトキを見て、シオンは椅子に座り直す。


(す、すごい、手厚くもてなされてるな……)


     ーーーーーーーーーー


 それから数分後のこと。シオンは、ずっと思っている疑問を投げ掛けることにした。


「あの…、『聖女』ってなんですか?今一分からないのですが……」


 質問を投げ掛けられたトキは、ティーポットを置いてから話し始める。


「この国の安寧を祈る者のことです。聖女になるのは、女の子だけ。16歳の頃に能力が目覚め、25歳で能力は消えてしまいます。その間、国民に【加護】を与えたり、国の繁栄のために神に祈りを捧げたり……、そう言ったことをやる者のことを言います」


「なんか……『神官』っぽいですね。シスター見たいな」


「それに近いでしょう。でも『聖女』はそれらとは全く違います。聖女には、色んな言の葉を【加護】や【呪い】に変える能力を持っているのです」


 トキの言葉に全くついていけてないのか、シオンは首をかしげてしまう。


「【加護】……?【呪い】……?」


「簡単に言いますと、言葉に『自身の感情』や『思い』を乗せるのです。乗せたら使えますよ」


「思いを……乗せる、か……」


 そう呟くと、シオンは両手を前につきだす。深呼吸したのち、声を出した。


「ティーカップよ 浮け!」


 彼女の言葉に反応して、ティーカップが淡い金色の光を纏い、静かに浮き始める。それを見たトキは拍手をする。


 満足いくまで宙に浮いたティーカップは、音もたてずに、静かにゆっくりとテーブルに着地する。


「これで……良いですかね」


「素晴らしい、さすが聖女様。今のが【加護】です。先ほど浮いていたティーカップを相手に投げるなどをすれば【呪い】になります。【呪い】は、怒り・嫉妬・悲しみ・憎しみと言った『負の感情』で発動するモノですので」


 トキの丁寧な説明に、シオンは頷く。


(なるほどね…、聖女の力は感情に左右されやすいのか……。使い方、気を付けないといけないな)

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