第3話 国王や他の人にご報告

 11月26日 午後5時07分

王国『パラティーヌ』

 王宮・玉座の間にて


 アクレリアに呼ばれた国王は玉座に座りなり、疑問を彼女に投げ掛けた。


「ロスペン侯爵よ。『儀式』はまだ先ではなかったか?一体、何があったのだ?」


 国王の質問に、アクレリアは目を泳がせながら言葉を紡ぎ始める。


「あ、えーと…それはですね、陛下。実は…私共の末の弟が…その…聖女様を召喚してしまいましたので、儀式の中止をお願いしたく……」


「ほう?理由は、一体なんだ?」


 怪訝そうに言葉を紡ぐ国王に、多少怯えながらもアクレリアは言葉を続ける。


「はい。末の弟曰く、『俺でも召喚できるのか、気になって召喚した』とのことです」


「なるほど。興味本意で、召喚の儀式を行ったと?」


「左様でございます。調べた所、儀式で使用したであろう魔方陣は、本で得た焼き付けば程度の知識や、弟が過去に見たモノを思い出しながら、見よう見まねで書いたようです」


 アクレリアと国王の間に沈黙が流れ始める。彼女の言葉を聞いた国王は、何も喋らず黙っていた。


 アクレリア自身、その時間がとても長く感じられた。早く終わってくれ…と、心の中で願う程に。


 沈黙から数分後。黙っていた国王が突然、声を上げて笑いだした。その笑い声に、アクレリアは唖然としてしまう。


「ははッ! なるほどな…、さすがロスペン侯爵家の息子だ。まだ齢16なのに、一人で聖女を召喚するとは…将来有望だ。ロスペン侯爵よ、彼に儀式を任せて見るのはどうだ。お主の父親の様な、素晴らしい召喚師になるかも知れないぞ」


 一人で笑い続けている国王に呆気にとられながらも、アクレリアは言葉を紡ぎ始める。


「あ、いや…それは…エドガーは16の子供ですし…。それに、まだ見習いの身なんです…任せるとは……」


「ははッ!冗談だ。ワシも幼い子供だと分かっておる。子供を危険な儀式に参加させる程、ワシは鬼ではない」


「だがしかし、見習いにも拘らず召喚を成功させたのも事実。大人の力を借りず…ましてや、当主であるお主の力を頼らず、一人で成功させている。これほど素晴らしい、将来有望な召喚師見習いがいるか?」


「ロスペン侯爵よ。お主の弟を責めないであげてくれ。むしろ、この功績を称えてやれ」


「承知いたしました」


 アクレリアは、国王に深々と頭を下げたのであった。


     ーーーーーーーーーー


 11月26日 午後5時25分

王国『パラティーヌ』

 城下町・レストラン『ノナール』にて。


 国王への報告が終わったアクレリアは、レストランの一角ある席に座っていた。だが、そこは周りから見られるように配慮された個室の席だった。


 彼女がいる席は云わば、VlPルームと呼ばれる個室だ。


 そんな個室の席には、彼女だけではない。灰色の髪をした青年と、赤毛の青年。そして、ウサギのように丸くなって寝ている白髪の青年がいた。


 寝ている白髪の青年は、白のシャツに、きっちりとしめた灰色のベスト、そして黒いズボンと言った装い。逆に、赤毛の青年はと言うと、胸元にフリルがある灰色のシャツに、黒のスーツをきている。


「それにしても驚いた。まさか、エドガーくんが聖女様を召喚するなんて…。実弟に仕事を取られましたね。アクレリアさん」


 灰色の髪をした青年・クラウドは、賑やかな表情でアクレリアにそう話しかける。グラウンドの服装は、至ってシンプル。白いシャツなのだが、彼の膝には、黄土色のコートがおかれていた。


「エドガーは興味本意でやったのよ。でも、成功するのは想定外……」


「それ程、才能があるのでしょう。そうだ! アクレリアさん。試しに、エドガーくんに仕事をやらして見ては?」


 商人家系出身で、自身も商人であるクラウドの言葉に、アクレリアは嫌な顔をする。


「何を言っているのよ、やらせないわ。儀式の準備は大変だし。尚且つ、失敗したら入院する程のケガを負う。召喚するのにだって、細心の注意を払いなながら、やらないといけない。危険で、長年の経験や技術力が試させられるのよ?そんな事を『はい、良いですよ』だけで、やらせれないわよ」


 長々と、アクレリアの説教を聞かされたクラウドは、深いため息をつき、肩を下に落とす。


「全く…アクレリアさんは冗談があまり通じないお人だ……。彼がまだ見習いってことは知ってますよ」


「知ってるのなら、私の弟を危険な事に使わないで欲しいわね」


 すると、今まで寝ていた白髪の青年の目が開き、ゆっくりと体を起こし起こし始める。黒に近い灰色の瞳が、アクレリアたち三人を静かに見据えていた。


「何を話しているかと思えば……くだらない事か」


 彼の口から紡がれたのは、物静かそうな顔立ちからは予想しずらい、低く物腰が柔らかくない言葉遣い。


 白髪の青年・ルエムの言葉を聞いたアクレリアは、眉を潜める。


「あら?くだらない事ですって?どこがくだらないのかしら?」


「全部だ。……」


「あらあら。私の弟の話をくだらないと思うなんて…貴方の上司は、貴方にどういったしつけを施したのかしら?」


 アクレリアの言葉を聞いたルエムが眉を潜めた。


「人間風情が……を侮辱するのか?」


「いいえ?してないわよ?ただ、どう躾をしたらこんな口の聞き方をするのか…気になっただけよ」


 笑みを浮かべるアクレリアに対し、ルエムは無表情だった。しかし、彼の瞳の色が黒に近い灰色からダークグリーンへと変化していた。


 アクレリアはそれを見逃さない。


?貴方は逃げたいつもりのようだけど…そうはさせない」


 アクレリアの右手から、赤色の光が漏れ始める。それを見た赤毛の青年・カチェルが慌てて止めた。


「ストップ! ここで魔法の押収合戦とかやめよう……ね?ルエムだって…寝起きだし……。それに、アクレリアは疲れているんだよな。エドガーのこともあるみたいだし。だから、ケンカは無しで!」


 カチェルの言葉を聞いたアクレリアとルエムは、魔法を使用するのを止めた。


 アクレリアは右手から漏れ出ていた赤色の光を消し、ルエムは瞳の色をダークグリーンから元の色である黒に近い灰色へと戻す。


 それらを見たカチェルは、クラウドと共に安堵のため息をついたのであった。


 

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