我、勇者〜魔王を滅ぼすのに邪魔だったので人類を殲滅しようと思う〜

知明ちーむ

序章 首娘との出会い

1話 箱入り娘は首娘

──我、勇者。


仲間はいないが、寂しいとは思っていない。

“孤高の勇者”とはカッコイイ存在なのだからな。

安心するが良い……子供達の憧れを一身に受け止める覚悟はできている。

領主の望みを受け、一人で古城の調査に訪れたのだ。


古城──それは最高の舞台に数えられる。


囚われた姫を助けるでも、古より隠された秘宝を発見するでも、強敵と戦うでも構わない。

舞台として魔王城に劣るのは否めないが、勇者物語ファンの胸が熱くなる展開がそこにはある。

我もまた、その読者の一人であったのだからな。


史実や空想が入り混じるが、数多くの物語が我々に夢や希望を与えてくれた。

我の一推しは“勇者フェロンの物語”──第三章では古城を舞台にストーリーが進行していた。

あれは読者に夢と勇気を与える、素晴らしい物語だと感じた。

著者は勇者の美学を心得ていたのだろう。

我も理想の勇者像を学ばせてもらった、愛読書のひとつだった。


実話ではないが。


余談はさておき、魔王の下までたどり着いた勇者が我以外にいない以上、古城とは物語の中でも一際輝く舞台となるのだ。


我の物語は戦いとなろう。


その城は魔王の配下が拠点としているらしい。

ヴェガロン城とかつて呼ばれた古城には、それらしい姿は見えない。

稀に城から出入りする姿が目撃されるそうだが……


少なくとも三百年は前から占領されているらしい。


ヴェガロン城が戦争で陥落してから五百年程だそうで、二百年も空白の期間があるのだ。

全く馬鹿げている。

そんなんだから未だに魔王と会う事すらできなかったのだろう。

人類よ、我を讃えるが良い。


──居る。


それなりの実力がありそうだ。

本当にこの気配を我以外の勇者は察知できなかったのだろうか。

負けて語る者が居なかったのだろうか。

紛い物の逃げ腰か?

勇者を名乗るならば、相応の実力を持ってほしいものだ。


小細工は好かない。

我は正々堂々と正面から、ヴェガロン城へと入る事にした。



○○○



──宝物庫を発見した。


勇者とて、先立つ物は必要だ。

領主からの報酬はあるだろうが、民衆相手に吹っ掛けるのは勇者の美学に反する。

地道な努力や忍耐も必要となるのだ。


“魔の手”に監視されている気配はあったが、手を出してくる様子はなく、ヴェガロン城の地下にある宝物庫までたどり着いてしまった。

封印は大した事なく解除できる。

我が聖剣で斬れば良いだけだ。


「たわい無い」


触れれば封印の拙さに気付く……これは“魔の手”だろうか。

元の持ち主だろうか。

どちらにせよ、大した実力は無さそうだ。


──一閃。


音を立てて大きな扉が崩れた。

築五百年以上の扉にしては大義だったと言える。

こんな丈夫な仲間がほしいものだ。

囮か、使い捨ての盾くらいにはなるだろう。

普段は荷物持ちが適任か。


中を覗くと、封印の主は前者だったことがわかった。

宝物庫だったであろう部屋では、現在のヴェガロン城主による何かが行われていた事が伺える。

金目の物は無さそうだ。

何らかの実験なのか、個人的な愉悦なのか、状況証拠的には後者と思われる。


「悪趣味な」


これは我の手記に載せない方が良さそうだ。

とは言え、この者たちは弔ってやらねばならないな。

部屋を確認してから……


──ッ!?


何かが聞こえた。

この部屋の中には妙な気配が漂っているとは思っていた。

しかし、声のような音を発する物は無さそうだが。


──ッ!!


まただ。

奥の箱から聞こえる気はするが……まさか生存者か!?

机に乗せられた木製の箱は、子供くらいならば入る大きさだ。

我は駆け寄って鍵を壊すと、慎重に箱を開けた。


「うわ!まぶしッ!?」


女の生首が眩しそうに目を細めていた。



○○○



──生首が喋っていた。


「背中が痒い気がするんですよ……背中なんて無いんですけどね!」


しかも饒舌だ。

首だけで喋れる原理は不明だが、少しばかり煩い。

この調子で喋り続けている。


「お腹が空いてきましたね……お腹なんて無いんですけどね!」


彼女のそれは不老不死の呪いだそうだ。

身体を探してほしいとの事で、我は探し物を手伝っている。


「髪がボサボサですね……梳かしてくれませんか?」


そして図々しい。

我の櫛は特別製だ。

汚れ取りではない。

絡まった髪を器用に振り回し、付近の汚れを巻き込み、更に成長を続けていた。


「げ、虫が入った!?取ってください!!」


前言撤回。

少しばかりではなく、かなり煩い。

何故か我の回復魔術が効かず、仕方なく探しているのだが……そろそろ面倒になってきた。


「喉が渇きました……あ、喉の渇く部分ってどこなんでしょうね?」

「騒がしいな」


暴れられると余計に煩わしい。

近くの壁に汚れた髪を吊るす事にした。

絡まり方が程良いのか、いい具合にぶら下がった。

手が汚れた。


「仕方ないじゃないですか!何年箱入り娘だったと思ってるんですか!?」


確かに、多少なら目溢しするだろう。

下手をすれば百年以上の間、首だけを箱に入れられていたのかもしれない。

その苦痛は想像を絶する。

我とてそんな修行をした事はない。

首から下の感覚は無いそうだが、不死の理屈はどうなっているのか。

我の魔術でも再現できない。

相手が居なかったのならば、喋りたい気持ちも理解を示せる。

しかし、それでも、この口数の多さは……


「騒がしいぞ」

「今、何かを食べたらどうなるんでしょうか?」


知らん。

我は寡黙な勇者なのだ。

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