Ep5 なんで気づいちゃうかなぁ、
文化祭が終わっても、日常は何も変わらなかった。
演劇部では相変わらず桐谷たちに嫌味を言われ、
家では両親に叱られ、
友達の前では明るい瑠璃を演じる。
そんな日々が、永遠に続くのだと思っていた。
「瑠璃ちゃん、ちょっといい?」
ある日の放課後、美月が真剣な顔で私を呼び止めた。
「うん、どうしたの?」
「あのね……瑠璃ちゃん、無理してない?」
心臓が跳ねた。
「え? なんで?」
「だって、文化祭の時から、なんか元気ないっていうか……。
笑ってるけど、目が笑ってないっていうか」
バレている。演技が、バレている。
「そんなことないよ。私、元気だよ?」
「瑠璃ちゃん……」
美月が私の手を握った。
「もし、何か辛いことがあったら、言ってね。
私、瑠璃ちゃんの親友だから。力になりたいの」
親友。
その言葉が、胸に刺さった。
美月は優しい。本当に優しい。
でも、その優しさが、私を追い詰める。
だって、美月が親友だと思っているのは、本当の私じゃないから。
「ありがとう、美月ちゃん。
でも、本当に大丈夫だから」
私は笑顔で答えた。
美月は納得していない顔をしていたけれど、それ以上は何も言わなかった。
家に帰ると、玄関の前で立ち止まった。
中から、母の泣き声が聞こえる。
「もう無理……こんな生活、もう無理……」
「泣くな! お前がしっかりしないから、瑠璃があんな子になったんだ!」
私のせい。
母が泣いているのは、私のせいなんだ。
そっと部屋に入って、ベッドに座った。
愛されたいと、願った。
愛される為に、自分を捨てて。
期待に応えて、役を演じて。
それなのに、誰も私を愛してくれない。
両親は私を責める。
友達は演技中の私しか知らない。
演劇部の人たちは私を嫌っている。
ただ確かな未来を欲した。
そんなに馬鹿な願いですか、神様。
全部、もう虚しい。全部。
ただ疲れたんだ。
息を、し続けるのが。
携帯を手に取った。
美月に、本当のことを話そうか。
「実は私、演技してるの。
明るい瑠璃は嘘なの。
本当は毎日辛くて、消えたいって思ってるの」
そんなメッセージを打ちかけて、消した。
言えるわけがない。
言ったら、美月は離れていく。
それが怖い。
でも、このまま演じ続けるのも怖い。
どちらを選んでも、私は壊れる。
窓の外を見ると、星が見えた。
昔、願いを込めて祈れば叶うって、誰かが言った。
じゃあ、私の願いは?
「……終わらせて」
小さく呟いた。
この、ふざけた演劇を。
でも、声は誰にも届かない。
ただ、部屋の中に響いて、消えていくだけ。
それでも、声は響き続けていた。
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