第11話 襲撃
灯りの弱くなった通路を、リヴと二人で歩いていた。彼女は相変わらず凛々しげな顔をしていて、まったく隙がないように思えた。
正直、気まずくてしょうがない。塔に戻った後も心配だ。部屋に無理やり戻され、一人もんもんと、今後について悩む羽目になってはつらい。
「あのさ……」
「……?」
「いや、話題をふろうと思ったけど、何もないや」
「そう」
この調子で、ずっと過ごさなくてはならないのか……
背後から、悪魔たちの叫び声が轟く。俺のことなど忘れ去り、酔っ払って半狂乱になっているに違いない。
俺は足をとめ、なんとか口から出た質問を、彼女に浴びせてみた。
「君は、ニコラスの部下なんだよね」
「ええ」
「彼に、恋愛感情はあるの?」
「ぶしつけな質問ですね」
はっきりと、そう言われた。
「ですけど、特段、差しさわりはないので、答えさせていただきます」
一息吸って、彼女は語り始めた。
「そもそもあの方は、恋愛をしません。かつては、そのような関係の女性がいましたが、彼いわく、それは若気の至りだそうです」
「君の方は?」
「確かに、私はあの方に忠誠を尽くしています。ですけど、そういった感情は持っていませんし、あったとしても、それを表に出すつもりはありません」
「そうだよね」
俺は頷き、また歩み始めた。
広間の喧騒がヒートアップしていた。距離はどんどん離れていくのに、騒ぎ声は高まるばかりだった。
「何かおかしいですね……」
「何が?」
「不審な感覚がします」
だが、だんだんと声が静まって来た。代わりに、先ほどまでは聞こえなかった、獣が吠えるような声が交じるようになっていた。
突然、背後から轟音が響き、辺りの電球が爆ぜた。振り返ると、壁が音を立てて砕け、その闇の中に謎の巨体が見えた。背は四メートル近く、背景に同化した黒い鎧、灰色の顔、赤い目の怪物だ。禍々しい気を放ったその怪物は、有無をいわさずこちらに突進してきた。
「下がって!」
リヴがサッと前に出て、半透明の防御魔法を発動する。が、拳の一振りで、破られてしまった。
彼女は、吹き飛ばされた。華奢な身体が岩盤に叩きつけられ、周りに砂埃が散る。彼女に駆け寄る余裕はない──敵が俺に手を伸ばしてきた。
「来い……」
なんだと? 敵は攻撃を止め、まるで握手を求めているかのように、俺に手を差し出してきた。
「人間よ、お前はカルの汚らわしい奴隷なんかじゃない、俺たちは仲間だ……」
一瞬、脳裏に思考が走った。この怪物の言うことは一理あるかもしれない、そう思った。確かに、カルという人物は独裁者だ。ひょっとしたら、彼の奴隷としての道を、俺は辿っているのかも──
轟音とともに、まばゆい閃光が走った。そこで思考は途切れ、俺は目の前の戦況に目を向けなおした。
ライが掌から電撃を放ち、敵に連続で命中させていた。しかし、決定打にはなっていない。驚くほどの頑丈さでライの攻撃を耐えながら、敵は腰から大剣を取り出した。その一振りから繰り出された見えない斬撃を、ライは寸前でかわした。その直後、彼の背後の壁に亀裂が走り、音を立てて崩れ落ちた。
ライは指先から青い火花を散らし、光弾を放った──効かない。それでもめげることなく、彼は遊撃を続ける──俺は何をしているんだ! 彼に加勢しなくては!
力を込め、剣を振り下ろそうとした敵に、ありったけの念力をぶつけた。敵はぐらついたがすぐに持ち直し、俺をひたと見て、うなった。
「残念だ……」
諦めはすぐについたようだ。大剣をこちらに向け、舞うように斬撃を繰り出す。大きな動きなので、回避するのはそう難しくないが、間合いには入れない。遠距離攻撃が通用しないならば近接戦闘を試してみようかと思ったのだが、これではてんで無理だ。
距離を保ちながら、敵に雷を打ちこんでいく。が、敵は剣を振り回すことでそれらを切り裂き、なんとこちらに反射させてきた。
このままでは、勝ち目がない! 他の上位悪魔たちは、何をしているんだ? その答えはすぐに分かった。四つん這いで毛むくじゃらの悪魔が、横穴から溢れてきた。普通の悪魔ではない。まるで狼だ──牙を剥き、咆哮している。上位悪魔たちの亡骸を、くわえるものもいた。きっと広間も大惨事になっていることだろう。
俺は念力を放ち、飛び掛かってきた獣を吹き飛ばした。まずい。数が多い上に、一撃では仕留めきれない。
最初の敵はチャンスだとばかりに、剣を振りかざした。斬撃が俺を襲う。とっさに全力の防御魔法を発動し──なんとか防ぐことができた。だが、まずいことにここで魔術の反動がきた。膝が震え、機械の手足がこわばる。
「く、くそっ!」
俺に隙ができたと察したのか、敵はうなりながらずしずしと向かってきた。ライは群がってくる獣の処理に必死で、こちらの援護にまわる余裕はない──
「何してる、動け!」
ライが叫んだ──そうしたいが、身体の痙攣がおさまらない。足を動かそうとしても、痺れや神経痛が襲ってくる。そうこうしている間に、敵が目の前まで迫っていた。
「最後の機会だ。我々の仲間になれ」
敵は俺を見下ろし、言った。
「断る」
はっきりと、そう言えたらよかった。しかし、現実の俺は怖気づいて震えたたまま、返答できずにいた。正直なところ、心が揺らいでいたが、敵は長くは待ってくれなかった。
剣が持ち上げられた。背後で繰り出される雷に照らされて、先端が光る。
呆然とするなか、刃が振り下ろされた──もうだめだ。万全な状態でも、回避できない。死ぬ──
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