第11話

「それならよかった」


彼女は手を下ろし、流れるようにカバンを背負った。動作は少し慌てているように見えた。


「行こう、一緒に帰ろう」

「うん」


私はうなずき、彼女の後についていった。


この時間の学校はすっかり静まり返り、部活動に参加する学生がちらほら通り過ぎるだけだった。

私たちは取るに足らない話題を話し続けた——好きな音楽、最近観た映画、ある先生の印象……

一語一語の会話が、知らないうちに私たちの距離を縮めていった。

私は自分がこんなにも自然に彼女と話せていることに気づき、これは以前では想像もできなかったことだと感じた。


「実は……」


彼女は突然言った。


「ずっと学校の前のあのカフェに行ってみたかったんだ。でも一人で行くのはなんだか恥ずかしくて」

「じゃあ今度一緒に行きましょうよ」


口にした瞬間、私自身も呆然とした。こんなに自然に誘えてしまった?

彼女の目がぱっと輝いた。


「本当? じゃあそういうことで決まりね!」


歩いているうちに、彼女が私についてずいぶん遠くまで来てしまったことに気づいた。

「あの、私もうすぐ家です。枫さんの家はどこにあるの?」

「まさか私の情報を知りたいの?」


彼女は悪戯っぽくウインクし、普段の活発さを取り戻した。


「そうじゃないよ……」

「私の家はこっちの方」


彼女は前方を指さした。


「じゃあ私たち、結構近いんだね……」


私は少し驚いた。この道は毎日通っているのに、彼女に会ったことは一度もなかった。

そうこうしているうちに、私たちは私が住むアパートの前まで来ていた。

これは7階建ての小さなビルで、各階に2世帯しかいない。

私はここに長く住んでいるのに、隣の住人に会ったことは一度もなかった。


「まさか……」

「まさか……」


私たちは声を揃え、顔を見合わせて一瞬固まった。


「あんた……ここに住んでるの?」


私が先に沈黙を破った。声には信じがたい気持ちが込められていた。


「あなたも?」


彼女は目を見開き、同じく驚いた表情を浮かべた。

私はうなずいた。

次の瞬間、彼女は突然お腹を抱えて笑い出した。


「なんだよ、こんなに近くに住んでるのに、一度も会ったことないなんて」

「確かにね」


私は気まずそうに頭をかいた。彼女が大笑いする様子を見て、私も知らずに口元が緩んだ。

この偶然はあまりに不思議で、人は運命の巧妙な仕組みに感嘆せざるを得ない。


彼女が笑い終わる頃には、私はもうエレベーターのボタンを押していた。

私が「5」を押すと、彼女は「3」を押した。


「意外と近いね」


彼女は思案しつつ言った。目はキラキラと輝き、何を考えているのかわからなかった。


「本当だね」


私は声を潜めて返事した。エレベーターはゆっくりと上昇し、狭い空間には彼女の淡いクチナシの香りが漂っていた。


エレベーターは3階で止まり、ドアがゆっくりと開いた。彼女はエレベーターから出ると、振り返って手を振った。


「また明日!」

「また明日」


私も手を振り返し、彼女が廊下の反対側へと歩いていくのを見送った。

エレベーターのドアが閉まるにつれて、彼女の姿は次第に消えていった。

言いようのない寂しさが込み上げてきたが、エレベーターが5階に到着した時にはいつの間にか消えていた。


エレベーターを出ると、静かな廊下に立ち、耳にはまだ彼女の笑い声がこだましているようだった。


「ピン——」


手机の着信音が突然鳴った。

私は手机を取り出すと、画面には楓さんからのメッセージが表示されていた。


「今夜時間ある? ちょっとおしゃべりしたいな~」

その後ろにはかわいい「yes」のスタンプが付いていた。

「いいよ」


私は返信した。指は緊張で微かに震えていた。

送信ボタンを押した瞬間、言いようのない胸の高鳴りを感じた。


家のドアを開けると、相変わらず静けさが私を迎えた。

私はいつものように、料理を電子レンジで温め、手を洗い、そして一人で食事をした。

しかし今夜のすべては何かが違っていた。これらの日常的な動作を終えた後、私は一つ楽しみなことが増えていた——

楓さんからのメッセージを待つこと。

電子レンジの作動音、手のひらを流れる水の感触、食べ物を噛む味、これらの慣れ親しんだ感覚のすべてが、心の期待によって生き生きとしたものに変わっていた。

私はこんなに誰かとの交流を楽しみにしたのは久しぶりだった。


机の前に座り、私はこれから何の話題を話そうか、どう返信しようかと想像を巡らせ続けた。

会話が途切れてしまわないかと恐れていた。

窓の外では、夜が次第に深まっていく。

しかし私の心には、この期待によって、一つの温かな灯りがともされた。

この灯りは、本来灰色がかった日常を照らし出していた。


手机の画面が再び光り、新しいメッセージの着信音が静かな部屋に特に響き渡った。

私は深く息を吸い、メッセージ画面を開き、この並外れた夜を迎えようと準備した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る