第四話『光の降る場所』
千年という時間も、百年という時間も、
観測者の時間軸において初めて意味を持つ。永遠と一瞬は、視点が作り出す幻かもしれない。
――丘の上に、一本の楠が立っていた。
かつては岩がちな山頂だったが、今では幾度もの手入れを経て道も整備され、人が足を運びやすい場所となっている。
けれど、楠が根を張る岩場のまわりだけは、変わらず時の流れをそのまま抱えていた。
幹は太く、節くれだち、長い年月を刻んだ深い皺が縦に走っている。枝は風に削られながらも天を目指し、葉は夜露を宿して静かに揺れていた。根は岩の隙間に深く、深く潜り込み、わずかな土と水を求めて地の底まで伸びている。
月のない夜、星々が木の上に降り注ぐ。
天の川が白い帯となって空を横切り、無数の光の粒が枝葉の間を通り抜けて地面に影を落とす。風が吹けば、葉がさわさわと鳴り、その音は遠い波のようにも、誰かの囁きのようにも聞こえた。
夜露が葉を濡らし、その一滴一滴に星の光が宿る。まるで、天の光を地上に運ぶ小さな器のように。
『また、戻ってきましたね』
声が、どこからともなく響く。しかしはっきりと、岩に染み込むように、根を伝うように、楠の内側に響いてくる。
楠は答えない。
いや、答え方を知らない。ただ、千年を超える記憶の中で、その声をすでに知っているかのように、かすかに枝を揺らした。葉と葉が触れ合い、さらさらと小さな音を立てる。
『何を見て、何を残してきたのですか?』
問いかけは続く。楠の根元に、薄い光が集まり始める。それは人の形をとろうとして、しかしまだ輪郭を持たない、曖昧な存在感だけを漂わせていた。月光とも星光とも違う、不思議な光。
楠の意識――もしそれを意識と呼べるなら――は、ゆっくりと過去へと沈んでいく。年輪の一つ一つに刻まれた記憶が、静かに開いていく。
――最初の記憶。
暗闇の中で、ただ上へと伸びていた。
岩と岩の間、わずかな土と水だけの世界。種が芽吹いてから、どれほどの時が流れたのか。そんなことを考える知恵もなく、ただ本能だけが、かすかに差し込む光の筋を追い求めていた。
根は岩の隙間を這い、水を探した。芽は曲がりくねりながら、光の方向へと首を伸ばした。その成長は、人の目には止まっているように見えるほど緩やかで、けれど確実に、上へ上へと向かっていた。
そしてある朝――
頭頂の新芽が、ついに岩の縁を越えた。
世界が、爆発した。
光。光。光。
それまで知っていた薄明かりとは、まるで違う強烈な輝き。
空という途方もない青の広がり。
風という見えない巨大な力。
初めて知った。自分が閉じ込められていたことを。
初めて知った。世界がこんなにも広いことを。
その眩しさに震えていると、風の中に、何かが混じった。
『こんにちは』
優しい響き。風の音とも、誰かの声ともつかない、不思議な振動。
『これから、この世界を見ていくんですね』
幼い楠に、その声の意味が届いたのかはわからない。ただ、その優しい響きだけは、光と共に最初の記憶として刻まれた。
季節が巡った。
春の嵐に揺さぶられ、夏の日照りに耐え、秋の実りを鳥たちが運び去り、冬の雪に押し潰されそうになりながらも、少しずつ背を伸ばしていった。
岩場という厳しい環境が、かえって根を強くした。風当たりの強さが、幹を太くした。他の木々との競争がない分、ゆっくりと、けれど確実に、山頂の主として育っていった。
時折、あの声が聞こえた。
『成長していますね』
『今日の風は冷たそうですね』
『また春が来ました』
その声の主の姿を見ることはなかったが、孤独ではなかった。山頂には鳥が訪れ、虫が這い、雲が流れ、星が巡った。
日が高い時には、時折、荷を背負った商人が峠を越えていく。木陰で汗を拭い、「ふう、きつい登りだ」と呟いて去っていく。
近くの村人たちも、隣村への行き来でここを通る。
「見晴らしがいいねえ」「風が気持ちいい」そんな言葉を残して。
若木と呼べるほどに育った頃だった。
その夜は、月のない新月だった。
山頂の闇は深く、けれど空には無数の星が瞬いていた。
小さな足音が、岩を登ってくる音がした。
「はあ、はあ……」
息を切らせながら、小さな影が山頂にたどり着いた。
七つか八つほどの少年だった。
夜、この場所に人間が来ることは滅多にない。
それも、子どもとなるとなおさらだ。
「わあ……」
その感嘆の声は、純粋な驚きに満ちていた。少年は若木の存在に気づくと、恐る恐る近づいてきた。
「こんなところに、木が……」
そして振り返ると、眼下に広がる闇と、頭上に広がる星空を交互に見上げた。
「すごい、すごい……良く見える。この場所……」
少年は興奮を抑えきれない様子で、若木の隣にぺたんと座り込んだ。
「母様には内緒で来ちゃった。でも、こんなにきれいなら、怒られてもいいや」
独り言のようにつぶやきながら、少年は首が痛くなるほど空を見上げ続けた。
風が静まった後、あの声がした。
『新しい観測者が、生まれましたね』
次の夜も、あの少年は来た。その次の夜も。
雨音が枝を叩く夜以外は、小さな足音が岩を登ってくる音がした。息を切らせながら辿り着き、若木の隣に座り込む。最初の頃は「母様に見つかったら大変だ」と何度も呟いていたが、やがてそれも言わなくなった。
秋が深まった頃、初めて楠に話しかけてきた。
「ねえ、いつもここにいるんだね」
小さな手が幹に触れた。
「毎日来るから、もう友達みたいだ。ここの見張り番?」
それから、独り言が増えた。
「今日の星、すごくきれいだよ」「あの光ってるのが、北の方にある星」「こっちの低いところにあるのは、夏から見えるようになった」
冬が来て、春が来て、また夏が巡った。背が少し伸びた少年は、相変わらず毎晩やってきた。
「あれ?」二年目の秋、少年が不思議そうな声を上げた。
「稲刈りが終わって、朝が冷たくなってきた頃なのに……」
首を傾げながら、空と地平線を見比べている。
「去年、同じくらい寒くなった時、あの星はもっと低かったような……」
その年の冬は、予想外に早く来た。少年は驚いたように何度も空を見上げ、ぶつぶつと呟いていた。
「繋がってるのかも。星の高さと、寒くなる時期……」
三年目。もう少年は、毎晩のように報告してくるようになっていた。
「見て、あの星がまた高くなってきた」「去年これくらいの時に、急に寒くなったんだ」「今年もきっと……」
そしてある晩、興奮した様子で駆け上がってきた。
「父様に言ってみたんだ!『もう冬支度した方がいい』って」
でも次の瞬間、肩を落とした。
「『まだこんなに暖かいのに、何を言ってるんだ』って笑われちゃった」
楠の幹にもたれかかる。
「でも、絶対に間違ってないもん」
翌日。
「今日も言ってみた。『星の位置が去年の大雪の前と同じなんだ』って」
溜息をつく。
「『また変なこと言って』だって。母様も『遊びで言ってるだけ』って笑ってた」
三日目。声に元気がない。
「もう誰も聞いてくれない」
楠に寄りかかって、膝を抱えた。
「笑わずに聞いてくれるのは、お前だけか」
しばらく黙っていたが、やがて立ち上がった。
「でも、諦めないよ。だって、本当のことだもん」
四日目。駆け上がってくる足音が、いつもより軽い。
「すごいよ!母様が!」
息を切らせながら、嬉しそうに報告する。
「『そんなに言うなら、念のために薪を少し多めに集めておきましょう』って言ってくれたんだ!」
楠の周りをくるくると回る。
「父様も『まあ、備えて損はないか』だって。最初は渋い顔してたけど」
その夜、少年は遅くまで星を見上げていた。時折、独り言のように呟く。
「きっと当たるよ。そうしたら、もっとちゃんと聞いてもらえるかもしれない」
そして、初雪が降った。
例年より二週間も早い雪に、村中が慌てたらしい。少年は息を弾ませて駆け上がってきた。
「見た?雪だよ、雪!」
楠の周りを飛び跳ねるように回る。
「父様、朝から何も言わないけど、すごく驚いた顔してた」「母様は『あの子の言うとおりだったわね』って」「隣のおじさんなんて、慌てて薪を集めに走ってたよ!」
誇らしげに胸を張る。
「これからは、もう笑われないかもしれない」
春が来て、また夏が近づいてきた。四年目の初夏のことだった。
「おかしいんだ」
少年は眉をひそめて空を見上げる。
「もうこんなに暑いのに、あの星の並びを見ると……」
何度も首を振る。
「雨の時期がまだ来ない気がする。いや、来ても短いか、もしかしたら……」
翌日。
「父様に言ったよ。『今年は水を溜めておいた方がいい』って」
少し複雑な表情をしている。
「去年のこともあるから、すぐには笑わなかった。でも『まさか雨まで分かるのか』って半信半疑」
数日後。
「すごいことになった!」
興奮した様子で報告する。
「母様が『念のために水瓶を増やしましょう』って言い出して、父様も『早めに育った麦は刈り取るか』って」「でも全部じゃないよ。『まだ青いのは様子を見る』んだって」
雨期は来なかった。
かろうじて数日の雨があっただけで、夏の日照りが始まった。
「村中が大変なことになってる」
少年の声には、驚きと少しの戸惑いが混じっていた。
「うちは水があったから何とかなったけど、他の家は……」「それに、早く刈った麦は無事だった」
楠にもたれかかりながら、ぽつりと呟く。
「『あの丘の子が言うなら』って、みんなが言い始めてる」「嬉しいような、怖いような……」
秋になると、もう少年の予測は村の誰もが知るところとなっていた。時折、昼間にも村人が楠の下で休みながら話しているのが聞こえるようになった。
「あの子、また当てたらしいな」「星を見て分かるんだと」「この木の下で毎晩見てるらしい」
少年は相変わらず毎晩やってきたが、以前とは少し違っていた。
「父様が『今年の冬はどうなる』って聞いてきた」「村長さんまで『星の話を聞かせてくれ』って」
嬉しそうでもあり、困ったような顔でもあった。
「でも、僕はただ見てるだけなのに……」
楠の年輪がまた一つ増える頃、少年は父となった。
「この星が高くなったら、霜が降りる」
今度は彼が、幼い息子の手を引いて丘に登ってくる。楠はずいぶん太くなり、大人がもたれかかってもびくともしない。
「父様みたいに、星が読めるようになりたい」「毎日見ていれば、星が教えてくれる」
やがて初代の星読みは老い、二代目が継いだ。村だけでなく、近隣からも相談が来るようになっていた。
『長い時間でした』
夕暮れの風の中、懐かしむような響き。
『一人の観測が、継承されていく。あなたは、それを全て見届けるのですね』
二代目は自信に満ちていた。父から受け継いだ知識は確かで、予測は次々と的中した。
ある夏の夜、二代目は楠の下で星を見上げていた。
「今年の収穫は豊作になる。雨も適度に降るはずだ」
村人たちにもそう伝えていた。
しかし、秋の初めのことだった。
激しい雨音が、突然木の葉を打ち始めた。それは今まで経験したことのない激しさで、まるで天が裂けたかのような豪雨だった。一晩中、雨は止まなかった。
翌朝、ずぶ濡れの村人が丘に登ってきた。
「川が溢れた!田んぼが全部流された!」
怒りと悲しみに震える声だった。
「星読みの言うことを信じて、低い土地にも稲を植えたのに!」
別の村人も続いた。
「あんたの親父さんなら、分かったんじゃないのか!」
二代目は、楠の根元にへたり込んだ。雨に濡れた顔が、涙でさらに濡れていく。
「分からなかった……星は、いつもと同じだったのに……」
数日後の夜、二代目はまた楠の下にいた。
「父様は、こんな時どうしたんだろう」
震える声で楠に問いかける。
「全部分かるって、思い上がっていたのかもしれない」
すると、年老いた村人が丘に登ってきた。「あんたを責めに来たんじゃない」優しい声だった。
「あんたの親父さんにも、外れた時はあった。でも、当たった時の方がずっと多かった」
「それに、水害は誰にも読めん。山の向こうの雨までは、星も教えてくれんだろう」
二代目は顔を上げた。
「でも、みんなの期待に……」
「期待してるさ。でも、神様じゃないんだ。できることとできないことがある」
その夜から、二代目の言葉は変わった。
「この兆候なら、おそらく……」
「ただし、急な天候の変化までは分からない」
謙虚に、正直に、分かることと分からないことを伝えるようになった。
『人は、限界を知って初めて、本当の観測者になるのかもしれませんね』
風に混じって、あの声が優しく響いた。
やがて、村だけでなく、近隣からも相談が来るようになっていた。
「あの丘の一族に聞けば、来年の天候が分かる」
五代目が継いだ頃のことだった。
馬の蹄の音が、普段とは違う響きで丘に近づいてきた。昼間のことだった。
「都からの使者だ」
立派な衣を着た男が、楠の下で五代目と対面した。
「天候を読む術に長けた者がいると聞いて参った。帝の暦を司る陰陽寮が、その知識を求めている」
五代目は恭しく頭を下げた。
「代々、この木の下で星を見てきただけです」
使者は楠を見上げ、それから空を仰いだ。
「ここが、星見の地か」
使者は都に戻ると、星読みの一族の知識を陰陽寮に報告した。
やがて、都から正式な要請が届くようになった。
「来年の暦について、意見を聞きたい」
「日食の時期を予測できるか」
一族は都に呼ばれることもあれば、時には陰陽師が丘まで訪ねてくることもあった。
それ以来、星読みの一族は都でも静かに実績を重ねていった。派手さはないが、確実な予測で信頼を得ていった。
八代目が継いだ頃のことだった。
ある秋の夜、いつものように八代目が息子に教えていた。
「いいか、あの星が東の山から昇る角度を見るんだ」
「はい、父様」
「ただ位置を見るんじゃない。前の晩との違い、月との関係、全てを……」
木の陰に、二つの影があった。
兄弟らしき男たちが、息を潜めて聞き耳を立てている。
「聞いたか?星の角度だとよ」
「これで俺たちも星読みだ」
数日後、昼間に商人たちが楠の下で休んでいた。
「そういえば、隣国で妙な兄弟が捕まったらしいな」
「ああ、星読みを名乗って金を巻き上げようとした奴らだろ?」
「『東の星を見れば分かる』とか言ってたらしいが」
「全部外れて、殴られて追い出されたとか」
商人たちが笑いながら去った後、風が静かに吹いた。
『形だけ真似ても、観測者にはなれないのですね』
葉がさらさらと鳴る。
そして、少し間を置いて。
『でも、彼らも「見たかった」のでしょうか。星でなく、富を。それも一つの観測かもしれません』
十二代目は、都で天文博士として仕えていた。
ある秋の夜、久しぶりに丘に戻ってきた。
狩衣ではなく、昔と同じ粗末な衣で。
「また来てしまった」
楠に手をついて、深い息をつく。
「都では星が人の道具になってしまった」
見上げる星空は、昔と変わらない。
「でも、ここでは違う。星は誰のためでもなく、ただそこにある」
朝方まで、ただ静かに星を見続けた。
都での予言も、儀式も、すべて忘れて。
夜明け前、立ち上がりながら呟いた。
「これが最後かもしれない。息子は都で育った。もうこの丘には……」
『不思議ですね。ただ見たいだけという感情で始まった行為が、時を経て続けるという意味を持ち始める』
風に混じる声。
その声に気付くことなく、十二代目は、都への道を下っていった。
それ以降、星読みの一族が丘に現れることは、めっきり減った。
夜、人が通ることもなくなり、ただ遠くの海辺に灯る明かりだけが、人の営みを伝えていた。
何度も季節が巡った後のことだった。
夜、久しぶりに足音が聞こえた。
「父上は、ここで何を見ていたのだろう」
十三代目だった。
都の装束のまま、不慣れな足取りで登ってきた。
幼い頃に数度来たきり、もう何年も姿を見せなかった男。
ふと西の空に目を留め、じっと見つめている。
都では建物に隠れて見えない、地平線近くの星々。
「……この配置は」
息を呑む音がした。
「嵐が……大嵐が来る」
慌てて丘を下っていった。
翌日から、海辺の明かりが一つ、また一つと消えていった。
そして三日後、激しい風雨が楠を揺らした。
嵐が去った夜、また足音。
「父上の言葉通りだった。都の知識だけでは、見えないものがある」
海辺に、ぽつりぽつりと明かりが戻り始める。
『あの明かりの一つひとつが、守るべき命だったのですね』
風に混じる声。
それから、星読みも戻ってきた。今度は、幼い子供の手を引いて。
十三代目が丘に通い始めて数年後のことだった。昼下がり、数人の稚児を連れた修験者が丘を通りかかった。
「師匠、ここで少し休みませんか」
「うむ、良い木陰だ」
修験者たちは楠の下で足を休めた。
「師匠、この木、すごく大きいです」
稚児の一人が見上げる。
「山頂にこれほどの楠とは珍しい。きっと、何か謂れがあるのだろう」
別の稚児が興味深そうに幹を撫でた。
「何百年も、ここに立っているのでしょうか」
「そうだな。この木は多くを見てきただろう。人の営み、世の移ろい、すべてを」
修験者は立ち上がり、楠に向かって手を合わせた。
「南無……」
稚児たちも慌てて真似をする。
そして一行は、山を下っていった。
風が静かに吹く。
『興味深いですね』
葉擦れに混じる声。
『彼は何に祈ったのでしょうか。あなたに?それとも、あなたが見てきたもの全てに?あるいは……積み重ねた時間?』
夕暮れ時には、誰もいない丘に戻っていた。ただ、祈りの余韻だけが、かすかに風に残っているような気がした。
世代が一つ、また一つと移ろい、星見の丘の主も代替わりを重ねていった。いつしか、遠くから聞こえるのは鐘の音ではなく、戦の音になっていた。
二十三代目が星を見ていると、草陰で何かが動いた。
血の匂い。折れた矢羽。
星読みは一瞬手を止めたが、すぐに空を見上げ直した。
「今宵の星は、明日も晴れと告げている」
独り言のように、しかし聞こえるように。
「戦で星を見るのは進軍のため。でも私は、種まきと刈り入れのために見る。星は、殺し合いのためにあるんじゃない」
腰の竹筒から握り飯を取り出す。
「おっと、二つも持ってきてしまった。一つは木に供えておこう。獣に食われても、人に取られても、それも星の巡り」
楠の根元に置いて、ゆっくりと丘を下る。
しばらくして、影が動いた。
泥と血にまみれた手が、震えながら握り飯を掴む。
涙が、米粒に落ちた。
見上げれば、星空。
彼が戦場で見たであろう星と、同じ星。
『感じる心が違う時、それぞれが見る星は……光は、本当に同じと言えるのでしょうか』
風が、静かに吹いた。
戦国の世が終わり、人々の営みは少しずつ穏やかなものに変わっていった。山頂への道も整備され、旅の者が立ち寄ることも増えていった。
二十八代目が継いだ頃、星読みの一族は新たな役目を得ていた。
「暦の改訂について、意見を聞きたい」
藩の役人が、恭しく頭を下げる。
「今の暦では、実際の季節とずれが生じてきている」
二十八代目は慎重に答えた。
「確かに、私どもの観測でも、少しずつ差が出ています」
「では、どう直せばよいか」
「それは……」
二十八代目は空を見上げる。
「星の動きを、もっと細かく測る必要があります。一晩だけでなく、一年を通じて」
それから、丘の上には簡素な観測小屋が建てられた。毎晩、三十代目とその息子が交代で星を記録する。
「父上、今夜の北極星の高さは……」
「うむ、昨夜より少し上がったな。記録しておけ」
紙と筆、そして簡単な測角器。星を見ることは、少しずつ「測る」ことに変わっていった。
『観測と記録……絶えず変化する世界で……いつまで……私たちも、また……』
風に混じる声。
三十代目の時代になると、江戸から学者が訪ねてくるようになった。
「ここで、貴方たちは星の記録を?」
「はい、この木の下で」
「なるほど。確かに見晴らしが良い」
学者は懐から取り出した道具を、慎重に組み立て始めた。
「これは?」
「遠眼鏡と申します。西洋渡来の品で、遠くのものが近くに見える」
三十代目は、恐る恐る覗き込んだ。
「これは……!」
月の表面が、今まで見たことのない姿で現れた。でこぼことした地形、影の濃淡。
「これが、月……」
その夜、三十代目は夜が明けるまで星を見続けた。
『観測そのものも、変化の流れの中にあるのですね』
楠は静かに佇んでいる。
『感情や理解によって世界を感じているのなら、観測の変化は世界の変化と言えるのでしょうか』
三十五代目は、西洋の天文書を必死に読み解いていた。
「大地が太陽の周りを回っている?」
息子が困惑の声を上げる。
「でも父上、それでは今までの……」
「いや」
三十五代目は静かに首を振る。
「星の動きを説明するには、この考え方の方が理にかなっている」
楠の下で、親子は夜通し議論を交わした。
「我々は千年以上、天が回ると信じて星を見てきた」
「でも、星の位置の予測は正確だった」
「そうだ。見方が違っても、星は変わらない」
『真実は、観測する側の理解によって、姿を変えるのですね』
月のない夜、風が静かに木の葉を揺らす。
『でも星は、ただそこにあるだけ。人がどう解釈しようとも』
明治の風が、新しい時代の匂いを運んできた。
四十代目が丘に登ってきた。
「気象台が出来たそうだ」
息子に語りかける。
「もう、我々のような者は必要ないのかもしれない」
その年から、相談に来る者が目に見えて減った。
「天気は気象台に聞けばいい」
「暦は政府が決める」
通り過ぎる人たちから、そんな声が聞こえてくる。
四十二代目の頃には、もう生業として成り立たなくなっていた。
「町で働くよ」
息子が静かに告げる。
「そうか……」
楠に寄りかかり、空を見上げる。
「仕方ない。時代が変わったのだ」
大正に入ると、もう誰も星読みを頼らなくなった。
「ここが、じいちゃんが言ってた星見の丘か」
最後に丘に登ったのは、四十五代目だった。
「この木が……」
そうつぶやくと、深々と頭を下げた。
「長い間、ありがとうございました」
その後、星読みの一族が丘に来ることはなくなった。
『一人の少年の小さな思いが役目を得ることで千年先まで続いた』
風の声。
『それでも、終わりはくる……』
星読みの一族が来なくなってから、幾度も季節が過ぎた。
時折、物見遊山の者が立ち寄ることはあったが、通い続ける者はいなかった。
昭和と呼ばれる時代になった頃、丘には簡素な手すりや石段が整えられ、地元の案内板も設けられた。星や風景を求めて登ってくる者たちにとって、それは小さな目印のような存在だった。
蝉の声が響く夏の午後、一人の女性が丘に登ってきた。
イーゼルを立て、古い楠を見上げる。
「すごい木……」
小さくつぶやいて、筆を取った。
それから毎日、同じ時間に現れるようになった。
麦わら帽子を深くかぶり、熱心に筆を動かす。一時間、時には二時間。
汗を拭いながら、それでも手を止めない。
そんな光景が数日続いた。
ある日、重い機材を担いだ青年が、息を切らせて登ってきた。変わらず、絵を描く女性に声をかける。
「こんにちは、いい場所ですね」
女性は振り返り、軽く会釈をして答えた。
「ええ、見晴らしが素晴らしくて」
青年は慎重に三脚を立て、カメラを構えた。
静かな風の音の中で、コトン、と小さな音が響いた。青年は息を吐き、慎重にフィルムを巻き上げた。楠を撮り、遠くの山並みを撮り、満足そうに機材をまとめて帰っていった。
翌日。
女性が絵を描いていると、また青年が丘を訪れた。
「こんにちは、毎日いらしてるんですか?」
青年が声をかける。
「こんにちは、はい、夏休みの間は、なるべく」
女性が振り返って答えた。
「夏休み……学生さんですか?」
「ええ、女子師範の二年です。そちらは?」
「帝大の工学部です。写真部にも入っていて」
へえ、と女性が初めて青年の方を向いた。
「理系の方が芸術を?」
「光学も芸術も、光を扱うという点では同じかなと」
青年が照れくさそうに笑う。
その日から、二人は自然と言葉を交わすようになった。
その日から、丘の上の時間は二人で分かち合うものになった。青年がレンズを覗けば、その先にはキャンバスに向かう女性がいて、女性がふと顔を上げれば、木陰でカメラを構える青年の姿があった。言葉を交わすうちに、夏の午後はあっという間に過ぎていくのだった。
静かな風が吹き、葉が音を立てる。
まるで、若い二人の会話を聞いているかのように。
『星を読む者はいなくなりましたが、
光を見つめる者は、こうしてまた現れるのですね』
楠の影が、ゆっくりと動いていく。
『星を見上げた最初の少年と同じですね。純粋な「見たい」という気持ち。千年経っても、人の本質は変わらない』
夏が終わりに近づいた頃、二人の会話に変化があった。
青年がいつもより緊張した様子で口を開いた。
「来週から、毎日は来られなくなります」
「私も、学校が始まるので」
「あの、明日……もしよければ、どこか別の場所へ行きませんか」
「別の場所?」
「海とか、山とか。写真と絵の題材を探しに」
女性は少し驚いたように目を瞬かせ、それから微笑んだ。
「いいですね」
次の日、二人は丘に現れなかった。
風だけが、いつものように木の葉を揺らしていた。
九月の最初の日曜日。
女性が先に来て、いつもの場所で絵を描き始めた。
しばらくして、青年も現れた。
それから、日曜日ごとに二人は丘で会うようになった。
時には土曜日も。
二週間来ないこともあれば、連休には続けて来ることもあった。
でも来る時は必ず二人一緒だった。
秋の光が、柔らかく木々を照らす。
そして冬、春と季節は巡った。
桜の花びらが舞う中、二人は並んで座っていた。
もう、それぞれの作業をすることは少なくなっていた。
そして、また夏がやってきた。
「去年の今頃か。君と初めてあったのは」
「もう一年になるのね」
二人の言葉には、特別な響きがあった。
蝉の声が、去年と同じように響いている。
でも二人の間には、確実に何かが育っていた。
青年が言う。
「君も、写真を撮ってみないか?」
驚く女性。
「私が?絵ならともかく……」
「構図を考えるのは同じだよ。シャッターを押すか、筆を走らせるかの違いだけで」
次の日、二人はまた丘に来た。今度はカメラを持って。
青年は女性に優しくカメラの使い方を教える。
「まず、こうやってファインダーを覗いて……光を意識して……構図を決めて……」
女性はおそるおそるシャッターを切る。カシャン。
静かな音の後、青年が微笑む。
「ほら、もう君も『光を切り取った』だ」
女性は少し照れくさそうに笑いながらも、嬉しそうにカメラを覗き続ける。
また、数日が経った。
丘の上、少し強い風が吹く夕暮れ。
蝉の声も、夏の終わりを告げるように弱まっていた。
青年が、静かに切り出す。
「……実は、赤紙が来たんだ」
女性は一瞬、目を見開くが、すぐに言葉を探すように視線を落とした。
「いつ?」
「近いうちに。詳しいことは、まだ分からない。でも、そう長くはないと思う」
沈黙が降りる。
風が木の葉を揺らし、どこからか小さな鳥の声が聞こえた。
青年は、言葉を続ける。
「お願いがあるんだ」
女性が、静かに顔を上げる。
「この丘で、一緒に見た光景……カメラに残してほしいんだ。
君の目で、君の手で、撮ってほしい」
女性は少しだけ困惑したように微笑む。「私、まだ上手く撮れないかもしれないわ」
「構わないよ。君が見てきたものを、そのまま……」
言いかけて、ふと空を見上げる。
「帰ってきたら、また一緒にここに来よう。だから、それまで――」
女性は、そっと頷いた。
「……分かった。預かるわ」
青年は安堵したように微笑む。
「家に帰ったら、渡すよ」
二人は静かに丘を後にする。
楠は、風にこたえるように、ただ枝をわずかに揺らしていた。
夏の日差しの中、女性が丘に現れる。
その手には、あのカメラがあった。
彼がいない丘に、一人で立つ女性。
ファインダーを覗き、静かにシャッターを切る。
「……こんな風に、見ていたのかしら」
その声は、風に紛れて木の葉を震わせるだけ。
楠は、いつもと変わらず、そこに佇んでいた。
それから、幾度も季節が巡った。
女性は週に一度、この丘に通い続けた。
時には陽射しが強く、時には雲に覆われ、時には風が冷たく吹く日もあった。
それでも、カメラを構え、静かに空を見上げるその姿は変わらなかった。
そんなある日、足音が二つ。
いつもと違う響きに、楠はかすかに枝を揺らした。
女性が、ゆっくりと丘に現れる。
その隣には、数ヶ月の兵役を終えて戻ってきた青年、少しだけ痩せた体に、それでも変わらぬ優しいまなざし。
青年は、丘の風景を見渡し、静かに言った。
「……写真で見せてもらった通りだ。変わらないな、この丘は」
女性は微笑んで、肩からカメラを下ろす。
「でも、私の撮る写真じゃ、この風や光までは伝わらなかったでしょう?」
「いや、十分伝わったよ」
青年は穏やかに笑う。
「それに、随分様になったな。カメラを構える姿も、丘に立つ姿も」
女性は少し照れくさそうに、けれど嬉しそうに頷いた。
「あなたが帰ってくるまで、ちゃんと見続けたかったの。……あなたと一緒に、この景色を」
風が静かに二人の間を通り抜け、木の葉がかすかに揺れた。
青年は、しばらく空を見上げ、それから静かに、女性の方へ向き直った。
「俺も、考えてた。もう、戦いなんかじゃなく、こうして君と一緒に、日々を見上げていたいって」
真剣な眼差しで、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「帰ってきた今、ちゃんと言いたい。
結婚しよう。これからは、一緒に、この丘で、星を見よう」
女性は驚いたように一瞬まばたきをし、それから、柔らかな笑みを浮かべた。
「……はい」
その声は、風に乗って静かに木の枝葉に届いた。
楠は、長い時を越えてまたひとつ、新しい約束を見届けたように、
静かに葉を揺らした。
丘には、再び二人の気配が戻っていた。
週に一度、あるいは気まぐれに。
以前よりも不規則になったが、それでも、二人の姿は風の中に確かにあった。
楠は、風の違いを静かに感じていた。
ある夕暮れの日、二人が並んで丘に立った。
風が静かに吹き、木の葉が小さく揺れた。
青年が、ぽつりと口を開く。
「……明日になれば、また戦地か。今度は、もっと長くなりそうだ」
女性は少しだけ目を閉じ、静かにうつむく。
多くを語ることなく、ただ、隣に立ち、風の音を聞いていた。
やがて、二人は静かに丘を後にした。
次の日、丘に現れたのは、女性ひとりだった。久しぶりに、カメラを持っていた。ファインダーを覗き、静かにシャッターを切る。そこに青年の姿はない。
けれど、風と光と、この丘の静けさだけは、いつもと変わらなかった。
「……また、待ってるから」
その声は、風に紛れて消えていった。
『記録すること。見続けること。それは、何かを繋ぎ止めるための行為。彼女は自分自身の思いを』
風が吹き、木の枝がかすかに揺れた。
『かつて星を読み、記録し続けた彼らも、遠い誰かに思いを繋ぐために光を見つめていたのでしょうか。そして、私は……』
その問いに、誰も答えなかった。ただ、星が静かに瞬いていた。
それから女性は、時折丘に姿を見せた。
以前より頻度は減り、季節の移り変わりとともに、さらに少なくなっていった。
誰も来ない日も、風が吹き、星が瞬いていた。
彼らの営みがどこへ向かったのか、語る者さえなかった。
ただ、ここで過ごした日々が、確かに存在していたことだけを、静かに記憶していた。
時間が、また流れた。
季節が巡り、年が過ぎ、誰かが行き過ぎることはあっても、通い続ける者はいなかった。
今では、麓からゆるやかな遊歩道が整備されている。
それでも、頂上に近づくにつれ岩場と楠の根が姿を見せ、訪れる者の足取りも自然と静かになっていく。
やがて、時折夜に星空を見上げる者たちが、この丘に現れるようになった。彼らは、かつてのように星を読み、記録しようとする者ではなかった。
けれど、あの日の村の少年のように――ただ、星を見たいという気持ちが、そこにはあった。風のない夜には、小さな笑い声や、誰かが息を呑む音が聞こえてくる。
ある日の午後。青年と首からカメラをさげた少女が丘を登ってきた。
少女が片手に持ったスマホを見ながら、丘の斜面を歩いている。
「おばあちゃんが撮った写真、この辺りかなぁ」
カメラを構えてみるが、周囲にはすでに数人の人影。
「あれ、思ったより人が多い」
不思議そうに、近くで三脚を立てている若い女性に声をかける。
「あの、すみません、今日は何かあるんですか?」
女性は笑顔で答えた。
「あ、今夜流星群があるんですよ。私は昼のうちに場所取りというか、下見ですけど。あなた達は違うんですか?」
少女は少し戸惑いながら、答える。
「祖母が昔ここで写真を撮ってて。同じ場所を撮ろうかなと……」
女性は優しく微笑む。
「そうなんですね、素敵ですね」
少女は空を見上げる。
「流星群かぁ。せっかくだし、見てみたいな。ねぇ?」
青年は少し離れた場所から振り返る。
「そうだな、せっかく来たし」
青年が近づいて、女性に尋ねる。
「この隣のスペース、空いてますか?」
女性は軽く頷く。
「はい、大丈夫ですよ」
少女が慣れない仕草でカメラを構えながら尋ねる。
「星、詳しいんですか?」
女性は少しだけ照れたように微笑む。
「いえ、全然。ただ、昔、私の先祖が星読みとしてこの丘で星を見ていたらしいんです。詳しい話はあまり知らないんですけど……なんとなく、時々来たくなるんですよね」
少女は目を輝かせて言う。
「えー、すごーい。そういうの、ちょっとロマンありますね」
青年はその間、電話で誰かと話している。「ちょっと遅くなる、あーなんか今日流星群が……」
ふと、女性が少女に声をかける。
「ご兄妹ですか?仲良いんですね」
少女は少し照れたように笑う。
「うーん、まぁ、家族で祖母に会いに帰省したら、おばあちゃんが『この写真をまた撮ってきて』って。親に『あんたたち行ってあげな』って言われて、半ば押し出される感じで」
スマホの画面を女性に向ける。
「これ、祖母が撮った写真なんです。見ます?」
女性は嬉しそうに覗き込む。
「素敵な写真ですね……あ、これ、この木ですね」
そう話しているうちに、空が少しずつ夕暮れ色に染まっていく。
「ここの景色を見せたかったのかもしれないですね」
女性の一言に少女は、「そうかも」と嬉しそうに頷く。
「父さんたちもタクシーで来るって。場所取っといてってさ」
電話を終えた青年が少女に言った。
「え?おばあちゃんは?」
「ばあちゃんは……いいって。寝ちゃうから」
少女は思いついたように、そして得意気に
「ねぇ、おばあちゃんが写真撮って来てほしいって言ったのって、ここの景色を私たちに見せたかったんじゃないかな?」
青年はなんだという顔で答えた。
「いや、わかるだろ。むしろ今気付いたのかよ?」
少女は不機嫌な顔になる。
「……」
ドンッ。
「いたっ。叩くなよ」
隣でその光景を見ていた女性に笑われて、少女は更に顔を赤くした。
『こうして、過去はどこかで繋がっていく。その流れの中には、私も……』
風の中に、静かなひとことが落ちる。
『なら──繋がりのないものなど、あるのでしょうか』
空が少しずつ夕暮れ色に染まっていく。
少女は、少し風が涼しくなったことに気づき、「夜になるんですね」と、静かに空を見上げる。
流星群を待つ人々の間に、やがて静けさが戻る。
一人の青年が、小型のラジオを地面に置き、ボリュームを少し上げる。
「……本日未明、観測史上まれに見る流星活動が確認され……」
「……深宇宙観測船……トリフネ……深宇宙からの……観測データ……」
声が、ふとその音に反応する。
『この記憶は……これは……私の……?』
どこか、深い水の底から浮かび上がるように、風の中に、名もない感情と、途切れかけていた記憶の断片が揺らぎ始める。
風が吹き、木の葉が一斉にそよぐ。
誰もその変化に気づかない。
けれど、観測者だけが知っている。
今、世界がわずかに、重なったということを。
そのとき、夜空に一筋の光が走る。
「えっ、もう? お父さんたち、まだ来てないのに!」
少女の声に、兄が振り向く。
「間に合うといいけどな。ていうか、これ、もう始まってるよな?」
「ねぇ、撮っといてって言われてたよね?早く構えて!」
兄が慌ててスマホを取り出し、少女がカメラを構える。その様子を、隣の女性が小さく笑って見守っていた。
空に、もう一筋。さらにもう一筋。
やがて夜空は、無数の流星で覆われていく。
それはまるで、空そのものが崩れ落ちていくような、言葉も出ない光の奔流だった。
観測者は、ただ見つめていた。目を離すことができなかった。
『この光は……』
その瞬間、世界が揺らぐ。
木の幹にひびが走り、空間が軋むように、静かに、歪む。
何かが崩れていく。時代を見続けてきたモノの記憶ごと。
『もう、この記憶も終わる……』
流星が最後の閃光を落としたとき、静かな丘は、そのまま、光に溶けるように消えていった。
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