服を着てたら露出狂!? 逆転世界で恋も裸も隠せない!
明日川アソブ
第1裸
目覚まし時計のけたたましいベルが、枕元で鳴り響く。
「ん……うぅ……もう朝ぁ……?」
なんだか、少し眩暈がする。
熱っぽくはないが、ちょっと体が火照った感覚――
しかし外はいい天気だった。
春の日差しがカーテンの隙間から射しこみ、ふんわりと部屋を暖めている。
なんてことはない、いつもの朝――。
「やばっ、もうこんな時間!」
布団を蹴って跳ね起きる。
寝ぼけたままブラウスを着て制服に袖を通し、鏡の前で髪をまとめる。
少しハネている前髪を手櫛で整えながら、鏡に映った自分にひとこと。
「よしっ、今日も一日がんばろう、っと……!」
学生鞄を抱え、そのまま一階へと階段を降りていった――。
ダイニングテーブルの向こう側で、朝食の用意をしているお母さん。
テレビのニュースを見ながらコーヒーをすすっているお父さん。
いつも通りの日常。何の変哲もない朝の風景。
……ではなかった。
二人とも――全裸だった。
「……え?」
言葉が喉に詰まり、思わず階段の途中で立ち止まる。
お母さんはエプロンをしているが、その下は明らかに何もつけていない。
お父さんも身につけているのは首から下げたネクタイ一本。それだけだ。
台所に立って後ろ向きのお母さんのお尻は完全に丸見えで、
ダイニングチェアに座るお父さんの下半身は……ブラブラしている。
「な……え? え? えぇぇぇぇぇ!?」
アスナは思いっきり目を擦ってみた。
だけど、何度瞬きをしても、目の前の両親の格好は変わらない。
そのとき――
「アンタ、何て格好してるのよ!」
突然、母の声が飛んだ。
「え?」
階段で立ち尽くすアスナを、母が訝し気な顔で睨んでくる。
「年頃の女の子がそんなカッコウで、はしたないにもほどがあるわよ!」
「ア、アスナ……父さん、目のやり場に困るぞ……」
父までもが、トーストを齧りながら目を背けて言う。
「な、な、なに言ってんの!? あたし、普通に制服着てるだけでしょ!?」
スカートの裾を握って、胸元を押さえながら叫ぶ。
「だから、それが問題だって言ってるのよ! どうしちゃったの? アンタ」
まるで夢でも見ているようだった。
私は何にも変じゃないのに、何なの? このリアクション!?
ついうか、スッポンポンのあんたらに言われる筋合いなくない!?
不条理な展開に、アスナは無性に腹が立ってくる。
「おはよー……」
そのとき、背後から声がした。
のっそりと階段を降りてきたのは、小学三年生の弟・ユウト。
彼はTシャツ一枚――だけだった。
その下は、何も履いていない。
「……………………」
アスナは唖然としたまま、弟のぶらぶらしたチンチンを見上げる。
「おいユウト! 朝っぱらからTシャツなんか着て降りてくるやつがいるか!」
父が怒鳴る。
「だって寒いんだもん~。いいじゃんか、姉ちゃんなんか、上下とも着てんだぞ?」
「アスナ、お前も早く脱いできなさい!
お前、そのカッコウで学校に行くつもりか? 警察に捕まるぞ!?」
「はぁ、そういうお父さんだって…………完全に変態じゃない!」
「何言ってるんだ。このネクタイはワンポイント着崩すかんじのオシャレだぞ」
「お父さん、セクシーでカッコイイ♥」
お母さんが台所から顔を出す。
「ふふ、ありがとお母さん、お前のエプロン姿もセクシーだぞ。このままセーターとジーンズを履かせたいなぁ」
「いやだもうっ! お父さんったら、朝っぱらから子供の前で!」
「はははは」
なんだか分からないが、二人は顔を赤らめてイチャイチャしている。
「い、い、意味わかんない!!」
アスナは半ば泣き声で叫ぶと、階段を駆け上がった。
「いったい、どうなっちゃってるの!?」
アスナは自室の窓を勢いよく開けて、外を見下ろす。
家の前の路地には、数人の通行人がいた。
通勤途中の会社員、犬の散歩をしている主婦、ジョギングをするおじさん――
全員、何も着ていなかった。
つまり――全裸。
「……うそ、でしょ……?」
アスナは気づいた。
自分だけが、変になったわけじゃない。
どうやら、世界そのものの常識が――入れ替わってしまっているらしい。
「全裸が当たり前になってる……?
つまり服を着るのが恥ずかしい世界……?」
そんな、バカなっ――
「いやいやいやいやいやっ!」
頬をつねってみても、夢ではない。
制服のシャツの下で肌がじっとり汗ばんでいた。
「どうして……? なんで……? あたしだけ…………?」
どうやらアスナは、ひとりだけまともな感覚を保ち続けているらしい。
巨大なクエスチョン・マークが、アスナの頭の上をグルグル回る。
そして彼女は、小さくつぶやいていた。
「ちょ、これ……学校、どうすればいいの……?」
(つづく)
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