第十八話 堕ちた守護者

 焔ノ峰の奥へと進むほど、空気は軽くなり、しかし呼吸は重くなっていく。

 空気が火を孕み、火が涙を含んでいる。


 熱は熱ではなかった。

 苦しみの体温だった。


(……泣いてる)


 ひかりは胸に手を当てた。

 火は燃えていないのに、燃える前の痛みが、胸の裏に刺さる。


「ここから先は、火の“内側”だよ」


 沙羅が言った。

 火巫女としての声は落ち着いていたが、掌はかすかに震えていた。


 その時だった。


 地が唸った。


 洞穴の奥で何かが起きたわけではない。

 この山そのものが、呻いた。


「構えろ」


 ナナシが枯れ草を噛んだまま言った。

 声は低いが、迷いは一切なかった。


 次の瞬間――


 黒い煙が弾けるように湧き上がり、

 その中から 炎の童の影 が立ち上がった。


炎羅童子――人の悪念と戦火の残滓が凝り固まって生まれた鬼童。

 燃え盛る鬣と鎧のような皮膚を持ち、炎を食らうことで力を増す。

 鬼王の側近として焔ノ峰を守護する存在。


『 ……■■……ア……ァァ…… 』


 言葉ではなく、泣き声。


 そして、炎羅童子の左右から、

 四足の獣が地を焦がして現れる。


火車――炎に焼かれた亡骸や恨みを宿して鬼と化した獣の妖。

 燃える車輪のような脚で駆け、死者の魂を奪い去る。

 紅蓮に従う灼熱の従獣。


「……出たな」


 ナナシは刀へ指を添えたまま、肩を軽く回す。


「真ん中のデカいのは俺がやる。

 嬢ちゃん、火巫女。両脇の火車は任せた」

「了解」

「うん」


 短い返事で、すべてが決まった。

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