近頃の梅雨

秋沢加歩

近頃の梅雨

 世の中で雨を降らせる原因の一つに前線があります。前線の中でも特別視されることが多いのは梅雨前線でしょう。そんな梅雨前線の役割はたくさんの雨を降らせること。日本列島という所で、6月くらいに数週間、しばらくとどまっています。しかし、ずっと雨を降らせているので、どれくらい雨を降らせたのか、自分ではわかりませんでした。多くの人に迷惑をかけてしまいますから、雨は多すぎても少なすぎてもいけません。雨の量がわからなくては困ってしまいます。

(うーん、どうすれば雨の量がわかるんだろう。……あ、そうだ)

 前線は人々がさす傘の数を数えることにしました。名案です。雨が降っていると、大半の日本人は傘をさすのです。そして雨が強くなるほどさす人は多くなります。つまり、傘の数を数えればどれだけの間、どれくらいの雨が降ったのかがわかるのです。悩みが解決した前線は自分のことを褒めたたえました。これでもう悩まなくて済むのです。そうして次の日、早速前線は雨を降らせながら傘を数え始めました。

(いーち、にー、さーん)

 あっという間に何万もの傘を数えてしまいました。何しろ大きい停滞前線ですから、一度にたくさんの人を数えることができるのです。

(よし、この場所で、今日の10倍の数を合計で数えたら次のところに行こう)

 前線はそう決めました。それから、前線は雨を降らせながら人間の傘の数を数えていました。傘を数えるのは楽でした。雨の調整もお手の物です。前線の計画は途中まですこぶる順調でした。

(よし、あと少しで決めた数になるぞ)

 いくら大きい前線だと言っても停滞していますから、見える景色は大体同じです。長く居れば変わらない景色に飽きてしまいます。もう少しで新しい景色が見られると前線は喜びました。そして、嬉しさのあまり油断してしまったのでしょうか、あるとき前線はうっかり寝てしまったのです。

(しまった、どうしよう)

 前線は飛び起きました。寝ているときに気がゆるみ、雨が止んでしまったのでしょう、地面はすっかり乾ききっています。その上どうやら雲の数も少なくなってしまったようで、あちこちでお日様が顔を覗かせていました。心なしか植物たちもしおれています。これでは傘を数えるどころではありません。

(だめだ、はやく降らせないと)

 前線は雨を降らせようと大慌てで下を向きました。その時です。

(あれ、傘がいっぱいある)

 前線は、自分が雨を降らせていないのに傘がたくさん見えることに気がつきました。なぜか人間は晴れていても傘をさしているのです。首を傾げつつ傘の数を数えてみると、雨の日よりも少ないものの、目標としていた傘の数に達してしまいました。

(じゃあもう降らせなくていいや、次に行こう)

 前線は次の地域へと向かいました。

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近頃の梅雨 秋沢加歩 @akisawa-kafu01

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