第47話 祝杯



 劇的な勝利の後、智久と中川は幕張スタジアムの近郊にある居酒屋に来ていた。いつもの焼き鳥ではなく、少しだけ値段が高めの店を選んだのだ。


「ひぐっ、ひっく......中川、飲んで、飲めよぉ」


「坂井......彼女さん大丈夫なの?」


「鈴羽ぁ?連絡してるよぉ」


 居酒屋ではサヨナラ本塁打を放った中川ではなく、智久がボロボロと大粒の涙をこぼしながら中川にダル絡みをしていた。普段酒を飲まない智久にしては珍しく、すでにビール瓶も三本目を飲み干していた。


「お会計もやべえし」


「お会計?俺出すからだいじょぶ」


 舌足らずな言葉を紡ぐ智久。

 大学に進んでいればまだ三年生、プロという荒波に飲まれているものの一度アルコールを摂取すれば年相応の態度が出るものだ。


 対して中川はちびちびと酒を進める。

 日本酒や焼酎など少し渋いチョイスだ。


「でも゙ぉ、ホントに良がったよぉ。ようやく、報われたんだ」


「分かった分かった、頼むから声のボリュームを抑えてくれ」


 何度も何度も同じ言葉を繰り返す智久を中川はなだめる。

 最初は中川も少し涙ぐんでいたが、智久の号泣顔を見て引いてしまった。


 相棒、バッテリー、それでも自身よりも年上で崖っぷちだった中川が放った光明に智久はようやくと感情が溢れ出していた。


「そろそろ帰るぞ。明日はないけど明後日から試合あるわけだし」


「えへへ、俺ナイ」


「お前だけだわ!俺めっちゃあるし」


 半ば強制的に智久を連行する中川。

 けっして酒に強いわけではない智久はすでにベロベロに酔って千鳥足だった。

 なんとかタクシーを捕まえ、智久のマンションに連れて帰る中川。

 玄関先では鈴羽と中川が鉢合わせるというプチ事件があったが、無事に送り届けることは出来たのだ。




 その一打からシーグルズの空気は変わった。

 ブランドン監督の首脳陣がデータからチームを率いり、選手同士のレギュラー争いがいい意味で激化。いい雰囲気で勝って、勝っていい雰囲気になるという正の連鎖が続いていた。


 シーグルズはうなぎ登りに順位が上がり、首位に踊り出る。

 あの試合からどのカードでも負け越しがないというとんでもない成績だった。


 智久自身も序盤から絶好調、チームが勢いに乗っているため去年伸びなかった勝ち星が増えて負けが減る。指標ももちろん改善、ファンが重視する数字が増えているからかシーグルズ選手の中でも人気が出てきた。


 四勝零敗、防御率2.30。

 奪三振も仲里の一つ下、二位に位置している。


 チームも智久自身も絶好調のまま、四月を終了。

 五月の数試合も消化して交流戦を迎える。


 シーグルズ交流戦開幕戦の相手は阪神ライガースに決まる。

 昨季、対戦すらできなかった智久も闘志が十分に湧いていた。


 今年は兵庫にあるライガースのホームで開幕。

 シーグルズは絶好調で乗り込まんとしていた。



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