間話(2) 一方その頃の【レックレス】2



 ジンが王都を震撼させている【イリオス】の事件に巻き込まれている頃、彼の古巣である【レックレス】の面々は未だにダンジョンを彷徨っていた。


「ちくしょうめ! 一体どうなってやがる!? なんでこの扉は開かねぇんだよっ!!」


 洞窟内にブラカスの野太い声が虚しくこだまする。


 半日かけて第5層に到達していた一行だったが、ギミックで開くことのできる扉を前にして立ち往生していた。


 その理由は明白である。


「……そりゃあ、ブラカスさんがご自慢の馬鹿力でギミックの石像を粉砕したからでしょうが」

「……そんなに難しい仕掛けじゃなかったと思うんだけどねぇ。ものの見事に木っ端微塵だものねぇ」


 パーティーメンバーがため息混じりで見つめる先には、ブラカスの手によって粉砕された石像────だったものが4体分ほど転がっている。


 本来であれば東西南北に配置された魔法陣の上に、然るべき石像を配置すれば良いだけのギミックだったのだが、


「そ、そりゃあよ、動きだす石像っつったらゴーレムだと思うじゃねぇかよ、普通はよ」


 というブラカスの勘違いによって、魔物扱いされた石像たちは無惨にも瓦礫と化し、その役目を終えていたのだった。


 釈明するブラカスに対し、パーティーメンバーはここに至るまでにありとあらゆるトラップを強行突破していたこともあり、辟易とした眼差しを向ける。


「思わねえよ。というか、簡易攻略図にだってこのダンジョンでゴーレムが出たなんて記録がないのに、なんで石像をゴーレムだと思うんだよ」

「っていうかさあ、そろそろ日付変わるっぽいし、ここのギミックも『リセット』かかると思うのよね。運が良ければここに再配置されるかもだし、お願いだからブラカスさんはジッとしててね」

「ぐぬぬぬぬぬぬぬ……」


 パーティーメンバーの刺々しい言葉を一身に受けたブラカスは額に青筋を浮かせながらも、一応自身の責任だという自覚はあるのか反論はしなかった。


「っいうか、もう日付変わるってマジすか?」

「うん。私、懐中時計持ち歩いてるから。野外系ダンジョンならコンパスにもなるし、今回みたいに日付跨ぐ時はリセットに警戒できるしね」

「へえ、気が利くじゃないか。お前、そんなこと気にするようなやつだったっけ?」

「一言余計だっつーの」


 黙り込んでしまったブラカスをよそにパーティーメンバーたちは休息がてら雑談に花を咲かすが、懐中時計を持っていた者はそれを握りしめて俯く。


「まあ、その、コレね……ちょっと稼ぎのいいダンジョンを攻略した時にさ、自分へのご褒美に何かいいアクセでも買おうと思ってたんだけどさ、その、ジンに勧められたんだよね」

「え? ジンに言われてっすか?」

「うん。アクセとしてもお洒落だし、冒険にも役に立つから一石二鳥だよ、ってさ。そん時は気分も良かったから言う通りに買ったんだけど」

「あー、如何にもアイツが言いそうなことだな。俺もアイツに言われて靴に金かけるようになったんだよ。いい靴は疲労度が違うし、ピンチでも足さえ動けば生存確率は上がるからって」


 それぞれの身につけた物にジンの面影を見て、メンバーたちは現状を憂うように視線を宙に投げる。


 思い返せば最も若いくせに慎重で、冒険のノウハウや雑学も豊富。ダンジョンの進行に行き詰まった時に、打開策を見つけるのもジンだった。


 おかげで冒険はだいぶ楽になったが、それが当たり前の日常すぎて、ダンジョンというのは魔物さえ倒せる力があれば攻略できるものだと思うようになってしまっていた。


 それが、たった一人いなくなっただけでこのザマである。


 そして際立つのが、このパーティーのリーダーであるブラカスの脳筋っぷりでもあった。


 メンバーたちは薄々感じていたことだが、このダンジョンはかなり身の丈に合ってないような気がし始めていた。


 ジンがいた時には半日もかけずに最深部に到達していたのに、今回は日付を跨ごうとしているのに半分の進行度である。


 さらに下層に進むとなると、当然トラップやギミックだけでなく魔物の難度も上昇するのは必然であり、最下層に至るまでに数日を要する可能性も見えてきた。


 そして、前回同様に半日で最下層に至る予定だった【レックレス】の面々は、必要最低限の食料と少量の保存食しか用意していない。

 

 ────ここは、引き際だろう。


 誰が言い出したわけでもないが、メンバーたちは目を合わせるとリーダーであるブラカスへと振り返る。説得は容易ではないだろうが、話さなければ始まらない。


 しかし、幸か不幸か────


「な、なんだ!? 地震か?」

「違う、日付が変わったんだよ! みんなリセットに備えて!!」


 日付を跨いだ瞬間に突如ダンジョンが揺れ始め、パーティーメンバーたちは武器を持って身構える。


 ダンジョン内に満ちていた仄かな明かりが明滅を繰り返し、ほんの数秒ほど真っ暗になったかと思えば、再びダンジョン内は仄かな灯りで満たされた。


 そして地震が収まった後、目の前の光景にパーティーメンバーたちは息を呑んだ。


 ダンジョンの『リセット』によってギミックそのものが消失し、下層への扉が地響きを伴ってゆっくりと開き始めたのだ。


 これまで蚊帳の外だったブラカスがゆらりと立ち上がり、大剣を担いでメンバーたちへと振り返る。


「ハハっ! どうやら運は俺たちに味方したみたいだな? さあ、いくぜ! 冒険の再開だっ!!」


 そして号令と共にズンズンと進み始める。


 むしろ運に見放されたのではと思いつつも、メンバーたちはブラカスを一人にするわけにもいかず、渋々といった足取りで背中を追うのだった。


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