第4話 森の中で出会ったのは盗賊
寒さと恐怖でプルプルと震える男を尻目に、ジンは荷物を纏めながら考えていた。
さて、この盗賊をどうしたものかな、と。
盗賊という存在は、魔物同様に王都で暮らす人々だけでなく街道を旅する冒険者や行商を営むキャラバンを脅かす厄介な存在だ。
旅路の最中で強襲され金品を奪われたり、あるいは誘拐されたり、最悪は命を落とすこともある。
当然冒険者ギルドには対盗賊の護衛依頼や討伐依頼が舞い込み、冒険者たちは報酬や名声を目当てに依頼を請ける。
そして【イリオス】といえば、もっぱらダンジョンに潜っていたジンですら小耳に挟んだことのある、名の知れた盗賊団だった。
どのくらい有名かといえば、イリオスの名を騙り強請や脅迫を行う者が現れるほどの存在だ。
そんな悪名名高い盗賊団の一味を自称する男だが、果たして本物なのか。
本物というには些か間抜けというか、噂ほどの脅威を感じられず、どうにもジンには推し量ることができなかった。
仮に本物だとする。
ギルドへ連行して突き出せば、正式に請けた依頼でなくとも多少の報酬は得られるし、冒険者ランクを上げるための評価にも繋がるかもしれない。
しかし偽物だった場合、苦労と引き換えに得るのは嘲笑だ。
それに、パーティーで行動している時だったならともかく、今はソロであるジン一人の手で王都まで連行するのは困難に思えた。
いや、手段はなくもないが────盗賊の連行程度のことに使いたくはない。
そこまで考えたところで、旅支度を終えたジンは手を休めると改めて盗賊を一瞥した。
「うーん、どうしようかなぁ」
「ヒィっ!?」
意識を向けられた男はビクリと身震いしながら青ざめる。
まるで断頭台の前に立った囚人のような風情だった。
なぜこうも男が慄いているのかよくわかっていないジンは首を傾げるが、やがて結論を出すかのように小さく頷く。
「おじさんさ、さっきここが縄張りで、仲間も居るって言ってたよね?」
「おじっ!? ちょっ、俺様はこれでもまだ20代だぞっ!!」
問いかけに対して変なところに噛みつかれたジンは思わず舌打ちする。
男は逆さつりのまま背筋を伸ばすという器用なことをしながら首を縦に振った。
「そ、そうです!! ここは縄張りで、仲間もいますっ!!」
「そっかぁ」
素っ頓狂な声で肯定する男に対してジンは気のない返事をすると、再び考え込むように視線を宙に投げて口を閉ざす。
この男がイリオスのメンバーであるかどうかはわからない。
でも、出会った当初の横柄な態度や今の様子からして嘘をついているようにも見えなかった。
少なくともこの男は盗賊であり、そしてここは彼らの縄張りであり、さらには仲間がいる────可能性が高い。
そう結論づけたジンは、逆さ吊りにした男をそのままに踵を返す。
「お、おい……?」
「それじゃあね、おじさん。次に会った時はギルドに突き出すからね」
虚を突かれたように間の抜けた声を上げる男を背に、捨て台詞を残してその場を去ることにする。
ある意味第二の故郷とも言える場所が盗賊たちの縄張りと化していたことは悲しいが、悲しんだところで現実は変わらない。
仲間がいるのなら、不在を不審に思う仲間が警戒し始めるのも時間の問題だろう。
報酬やランクのことを考えれば惜しいが、この場は離脱する方が賢明だとジンは判断した。
欲を出せば身を滅ぼす────それは彼がこの2年間で嫌というほど味わってきた教訓でもある。
しかし、その判断は少しばかり遅かったようだった。
「おいコラ! 集合時間になっても来ないと思ったら、なにこんな所で油売ってんだ……って、なんだテメェ!?」
「ウソでしょっ!? なんでこんなタイミング悪いかなっ!?」
突如現れた盗賊の格好をした仲間らしき者は、鉢合わせになったジンと逆さ吊りになった男を交互に見やるや否や、ジンを射るように見据えて腰を落としてナイフを構えた。
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