外に出ると死ぬので、移動要塞【俺の家】に引きこもったまま世界無双します。~戦略級の砲撃で敵を消し炭にした直後、家族になった美少女たちと囲む温かい食卓が最高すぎる~
第10話 溢れ輝く魔石と、ギルマスの提案。
第10話 溢れ輝く魔石と、ギルマスの提案。
……ん? あれ? いや、やっぱり気のせい、か?
ギルドマスター専用執務室。
応接テーブルのその対面に座る巨躯。
いま一瞬だけ、確かに強張ったように見えたゴルドガルドの表情。
だが、すぐに元に戻り、判断がつかないでいる俺の意識を、今度はメイジーの訝しむような声が奪う。
「えー? 本当ですかぁ? プリアデさまと違って、ヒキールくんにはこの測定魔導具もぉ。このとおり、ぜーんぜん反応しないんですけどぉ」
そう言って、ペン型の測定魔導具を指でつまむメイジーは、目の前でこれ見よがしにふりふりしてみせた。
これも、コーモリック家の遠いご先祖さまが関わった発明の一つ。
計測や演算を担当する大型の金属の箱のような本体と、その結果を発光で視覚的に見せるペン型の端末を合わせて、一つの測定魔導具だ。
大型の本体はおそらく、悪用されないようにギルド内の奥深くに設置されているのだろう。
そして確かに、目の前でメイジーがふりふりするペン型端末は、確かにさっきのプリアデのときと違い、俺に向けてもまるで光らない。
だが、それは俺の狙いどおり。
「へへっ。聞いて驚けよ! メイジー! それは、ただでさえ桁外れに多い俺の魔力がこれ以上増えないように!
本来俺にいくはずの討伐した魔物からの吸収魔力を【俺の家】にいくように【家】の魔力吸収機構でバッチリ制御してるからで──」
「はい? 【俺の家】ぇ? ヒキールくんのおウチが、いま何の関係があるんですかぁ?」
「いや、だから……! ああ、もう! シルキア! 頼んだ!」
「はい。ヒキールさま。では、メイジーさま。見て──驚いてください」
業を煮やした俺の指示に応え。
シルキアが腰のポーチ型魔法鞄から、【俺の家】から持ち出しておいた取手つきの一抱えほどもある魔法金属製の四角いケースを取り出すと。応接テーブルの上に置き──開く。
「ふぇ? 別に何も入ってないじゃーーえぇっ!? な、何ですかぁっ!? これぇっ!?」
箱の内部に描かれた魔法陣が白くカアっと光ると。何もない空だった箱の中に、後から後から青く輝く魔石が湧いてきた。
「ふふ。さあ、メイジーさま。ヒキールさまが討伐したというお望みの証拠です。どんどん回収しちゃってください。
なにせ、今日オークから獲ったばかりの劣化なし新鮮最高品質の三千個の魔石ですから。
早くしないとほら、どんどん箱やテーブルから溢れちゃいますよ?」
「ふええぇっ!? こ、こんないっぱい、わたし一人じゃ無理ですうぅっ! お、応援を呼んでこないとぉ!
シルキアさまぁ! 疑ったわたしが悪かったですぅ! い、一回止めてくださいぃっ! ぎ、ギルマスぅっ!」
【俺の家】の倉庫と空間魔法で繋いだ魔導具の箱からは次々と魔石が溢れ、応接テーブルを山とうず高く埋めていき、一部はきらきらと床にこぼれていく。
手持ちの魔法袋に回収しようと奮闘するもしきれず。
ずっしりとした袋を抱え、半泣きでおろおろとシルキアに謝罪するメイジー。
ふふん、とシルキアは鼻を鳴らし、何やら溜飲を下げていた。
ーーどうやら、先ほどの俺とメイジーのやりとりに思うところがあったらしい。
……なあ。ところでさ、メイジー。俺だけくん付けなの、マジでなんで?
見かねたゴルドガルドがおもしろそうに喉を鳴らしながら、ようやく助け船を出した。
「くく。悪いな、メイドの嬢ちゃん。一回止めてやってくれるか? しかし、本当にすごいものだな。まさかのオーク三千個の魔石、か。これがさっきプリアデが言っていた、ヒキールが第一戦功ってやつだな?
しかし、これほどの数……いったい、どうやったんだ? 確かおまえ、さっき【家】とか言ってたが?」
ジョリジョリと顎を撫でつつそう訝しむギルマスに、俺はパッと目を輝かせる。
「お! なあ、興味あるのか! ゴルドガルドのオッサン! なんなら、いまから見にくるか! 【俺の家】はデカくて目立つから、都市テファスの外に置いてあるんだ!」
「お、オッサ……! おいこら、てめえ! お、俺はまだ35……! い、いや! いまはそれはいい……!」
一瞬だけ頬を引き攣らせたギルマスが、気を取り直すように息を吐く。
再び口を開いたそのときには、すっかり落ち着きを取り戻していた。
「……ああ。大いに興味がある。そうだな。どうだ? 三千個の魔石の査定は、メイジーとおまえの従者であるメイドの嬢ちゃんにまかせて。
いまから俺を、おまえの【家】に連れていってもらえるか、ヒキール?」
「おう! いいぜ!」
威勢よくそう答えると、善は急げと、俺はいそいそとソファから立ち上がる。
「……ヒキールさま」
「なぁに、大丈夫だって! シルキア! ちょっと【家】まで行って、またここに戻ってくるだけだ!
まだペンダントの魔力吸収容量にはちょっと余裕があるし! それにこんな機会、滅多にないだろ?」
発光が大分強くなってきた赤いペンダントを握りしめ、心配げに見つめるシルキアにそう答える。
俺たちのやりとりを見ていたプリアデがすっと立ち上がった。
「そうね。安心しなさい。シルキア。あたしもついていくわ。ヒキールの言うとおり……こんな機会、滅多にないしね。
別に構わないわよね? マスター・ゴルドガルド?」
「ああ。もちろん問題ない。……あとはまかせたぞ。メイジー」
「ギルマスぅ……」
目配せをするプリアデにそう答え、3メートルの巨体を立ち上がらせると。
ギルドマスターは心配そうに見上げるメイジーの、姪の頭を巨人のようなゴツゴツとした手で一度だけ優しく撫でる。
「よし、行くか。精々おもしろいものを見せてくれると期待してるぜ。
……魔導技師の大家コーモリック家現当主。ヒキール・コーモリック」
「おう! まかせろ! へへ、見てろよ! ゴルドガルドのオッサン! 見事、あんたの度肝を抜いてやるぜ!」
そう、もう一度威勢よく答える俺に。
ゴルドガルドはその強面に今日見た中で一番のにこやかな笑みを浮かべ、厳かにうなずく。
「ああ。本当に……楽しみだ」
ーーどこか取り繕ったような、にこやかな笑みで。
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