第4話 仇

福田ジロウ・福田カズミ・蛯子ミノルの場合。



「カズミ、これはどこ置く?」


「それはリビングに置いて〜。あ、これジロウの荷物でしょ? 私の方に紛れ込んでたよ」


「あ、本当だ。さんきゅ〜」


 僕と双子の姉のカズミは、今年から大学生になった。

 実家から通うと時間がかかるので、二人で大学の近くにアパートを借りて住むことになったのだ。

 僕は料理が得意で、カズミは掃除と洗濯が得意なので二人で暮らす事は理にかなっていたりする。

 ちなみに、カズミは料理が下手というわけではなく、ちょっと独創的なのだ。


「というわけで、夕食は引っ越し蕎麦よ!」


「それは良いけど、カレー蕎麦?」


 こういうときは、普通のかけ蕎麦やざる蕎麦じゃないだろうか?

 

「そうかもね。でも、カレーが食べたかったし、炊飯器が届くのは明後日だからこうなりました」


「パックごはんを使うという手もあったのでは? あれ、湯煎でも温められるよね?」


 ちなみに、電子レンジは炊飯器と一緒に届く予定だ。


「あ!」


「まあ、良いけど。これはこれで美味しいし」


「そうよ! 私はカレー蕎麦が食べたかったから、これでいいの!」


 そんなわけで、僕達の大学生活は始まったのだった。



 僕とカズミは大学は違うが、お互い大学生活は順調。友人もできて充実した生活を送っていた。


 しかし、入学から半年ほど経った頃、カズミの様子がおかしくなってきた気がする。

 二卵性男女の双子とはいえ、僕達はお互いの感情が何となく分かるのだ。

 

 だから、その日の夕食時、聞いてみることにした。


「カズミ最近、何かあったのか?」


「ジロウ……。実はね……」


 カズミは少し迷ったが、話してくれた。


 最近、同じ大学の先輩に付き纏われて困っているらしい。

 相手は友人に頼まれてとあるサークルの手伝いに行った時に知り合った、先輩だとか。どうやら、カズミと付き合いたいらしい。


 まあ、カズミは中身は別として見た目は可愛らしいから、そういう男が現れても不思議ではない。


「え? マジで? どんな奴?」


「なんか金髪に染めてて、ヤンキーっぽい人。好みじゃないし、ヤリモク的な感じがして嫌な感じ〜」


「気をつけろよ? 何かがあってからじゃ遅いからな」


「うん。友達もあの先輩ヤバいって言ってたから、守ってくれてるし」


「それならいいが……」


 だが、僕の心配は現実になってしまった。



  その日、カズミの帰りはかなり遅くなった。

 何らかの理由で遅くなる時は事前に言うし、急に遅くなることが分かった時も、その時点で連絡する事をお互い約束していたのだが……。


「じろ……」


「カズミ?」


 そして、帰ってきたカズミはボロボロになっていた。

 すぐに実家にも連絡して病院に連れて行った。

 どうやら、帰り道で車に押し込まれ、カズミは男に襲われてしまったようだ。

 途中までは友人と一緒に帰っていたらしいが、一人になったところを狙われたらしい。


 この日は、家族にカズミのことを相談した翌日だった。

 病院から警察に連絡がいき、相手はあっさり捕まった。


 蛯子ミノル。


 相手は最近、カズミに付き纏っていた男だった。


 僕達家族は、犯人と戦う気満々で弁護士も雇ったが、警察は事件を不起訴にしてしまった。

 

 散々抗議したが相手にされず、雇った弁護士によると蛯子ミノルの親は大手企業の社長であり、警察にも圧力をかけられる人物だったらしい。

 実は昔から、同じ様なことを続けて幾人もの女性を同じ目に合わせてきたとか。

 その度に多額の慰謝料を払って相手を黙らせてきたという。


 今回も、カズミには多額の慰謝料が支払われ、それで示談となってしまった。

 弁護士も受け取ってしまったなら、もう罪に問えないと言っており、それで終わってしまった。


 幸い、カズミは二十四時間以内に事後薬を服用できた為、望まない妊娠などはしなかったが、心に負った怪我はすぐには治すことができない。

 

 カズミは実家に帰ることになったが、何のお咎めも無かった蛯子ミノルはその後も接触してきた。


 この日も、カズミと二人で買い物に行くと、蛯子ミノルが話しかけて来たのだ。


「なあ、無理ヤリは良くなかったけどさぁ、オレがカズミちゃんの事を好きなのは本当なんだよ? オレはカズミちゃんの初めての相手だし、オレと付き合うべきだよ! 責任とるしさぁ?」


「〜〜っ」


「やめてください! 姉は怖がってます!!」


「君、弟くん? それならさぁ、お姉さんを説得してよ! オレと付き合ってくれる様にさ〜。オレん家、金持ちだから弟くんも楽できるよ?」


「そんなに姉のことが好きなら、何で正式な手順を踏んで交際を申し込まなかったんですか!?」


「はあ? そんな面倒な事してたら、他に取られるかもしれねぇだろ? そうなる前に、さっさとヤッちまって自分のものにしてから、付き合った方が手っ取り早いじゃねーか。

 女ってのは、一回ヤッちまえば相手の男に惚れるもんだろ? ガキが出来なかったのは、残念だけどな!」


「何言ってるんですか!!」


「チッ、ウッセーな。今日は帰るけど、また来るからな!!」


「……最低な奴! カズミ、大丈夫か?」


「う、うん……」


 そう言って、僕を安心させるように微笑むカズミ。


「早く、実家に帰ろう!」


「大学はどうするの?」


「そんなのより、カズミの心と体の方が大切だよ! やめたっていい!!」


「それは、もったいないね……」


 そう言って困った様に笑ったカズミは、以前のカズミの様だった。



 それから、僕とカズミはアパートを引き払って実家に帰った。

 カズミは大学を辞め、僕は休学という形をとった。


 そして、実家に帰って久しぶりの家族団欒を過ごした翌朝。カズミは部屋から起きてこなかった。


 カズミは、部屋で首を吊っていた。


 両親は泣き叫び、半身を失った僕はカズミの葬儀が終わるまで屍の様に過ごした。


 こんな事になっても、何の後ろ盾も無い僕たち家族は、犯人の蛯子ミノルに対して何もできないのだ。


 それから少し落ち着いてきた頃、僕は両親に蛯子ミノルヘ復讐するためにもう一度、上京することを訴えた。

 両親は危険だと止めたが、ある人物が訪ねてきて事態は一変する。


「お久しぶりです。叔父さん、叔母さん。ジロウくんも……」


 やってきたのは、母方の従兄弟の従野ヒロカズ兄ちゃんだった。

 ヒロカズ兄ちゃんはとあるスーパーの正社員で、数年ごとに異動で転勤している。 今は関西の新店舗の店長をしているので、カズミの葬儀などには間に合わなかったのだ。


 ヒロカズ兄ちゃんは、カズミの仏壇に線香をあげると、僕たちに向き直った。


「この度は、お悔やみ申し上げます」


「いえ、ありがとうヒロカズくん」


「忙しいのに、ありがとう。姉さんは元気?」


「はい、何とか」


 ヒロカズ兄ちゃんは母子家庭だった事もあり、色々苦労した人なのだ。それで母は兄ちゃんを心配するのが癖になっている。


「それで、ジロウくんは復讐を考えているんだね?」


「え?」


「先ほどの会話が聞こえてしまいました。復讐したい相手がいるんですね?」


「は、はい!」


「でしたら、適任者がいます。ただ、相手の命をとる等のことはできません。その人物がそれまで買ってきた恨みを晴らし、報いを受けさせる程度のことしかできません。それでよろしければ」


「十分です! お願いします、その人を紹介してください!」


「もちろんです」


 その後、僕たちはヒロカズ兄ちゃんとその人との話を聞いた。



「こんにちは。平仲キョウヤと申します。呪薬師です。キョウって呼んでください」


 僕は、ヒロカズにいちゃんの紹介で、呪薬師のキョウさんと接触した。

 場所は、とある駅前のカフェ。

 彼の仕事の窓口らしい。


 カフェ内の奥の席に向かい合って座る。


「それでは、お話をお聞かせください」


 そこで、僕はカズミのことを話した。


「良いでしょう。これを相手に飲ませてください。それで相手がそれまで買った恨みが本人に返ってきます。その効果はその人物によりますが、こちらからは何が起こるかは分かりません。

 大勢の人に恨まれていればその分、致命的な報復を受けますが、そうでないなら大した効果はありません」


「大丈夫です、彼に恨みを抱いている人物は他にも大勢いますから」


「そうですか。二種類ありますが、どうします?」


「どう違うのですか?」


「一つは一般的な濃度のもの。もう一つは濃度が倍になっています。

 濃度が濃い方が即効性がありますが、効果も悲惨なものになりやすいです。複数人を対象にする場合には濃い方が効果的ですね」


「それでしたら、濃度が濃い方がいいです。もしかしたら、対象者の他にその家族も巻き込む必要があるので」


「それでしたら……」


 ちなみに、通常の濃度の方は一つ三万円。濃い方は五万円だった。

 命を奪うことが目的ではないらしいので、それくらいの値段で済むのだろうか。 高いか安いかは、僕には判断がつかない。


 僕は提示された金額を支払い、薬包紙に包まれた粉薬──呪薬を購入した。


 問題は、どうやって相手に飲ませるかだが……。


「良ければ、少々手伝いさせてもらっても、いいですか?」


 なんと、キョウさんから協力を申し出てくれた。


「え? いいんですか?」


「実は、濃度の高い方は新製品でして、こちらも効果をこの目で確かめたいのです」


「そういうことなら是非、お願いします!」



 キョウさんに相手に蛯子ミノルの素性を教えると、数日後には彼の行動パターンを調べ上げてきた。

 彼によると、使役しているカラスが調べていたらしい。

 何を言っているのかちょっと分からないので、その辺りはあまり気にしないでおこう。


「彼は、定期的にガールズバーに通っていて、気に入った女の子をお持ち帰りしているらしい。店としてはそういうのは禁止しているが、退店後については関与していないため、自由なのだとか」


 キョウさんが、報告をまとめた資料を読み上げる。


「運がいいと、家族にも紹介してくれるそうだ。だが、大抵は蛯子ミノルの方が飽きて長続きしないらしい」


「それなら、僕がそのガールズバーで働きますよ」


「え?でも君は……」


「男ですが、よく女に間違われるんですよ」


 だから、いつも目元を前髪で隠しているのだ。


「そういうことなら。気をつけて」



 それから、僕は新しく部屋を借り、徹底的にメイクを学んだ。

 僕とカズミは二卵生の双子とはいえ姉弟なので、顔は似ている。

 カズミとは正反対のメイクと服装女装をすれば、あっという間に少々パンクな美少女に転身だ。


 件のガールズバーは万年人手不足らしく、面接に行くと即日採用された。

 性別については全く怪しまれなかった。


 そうして、仕事をしていると蛯子ミノルがやってきた。

 

 憎悪と怒りが一瞬燃え上がるが、今は気を落ち着かせる。


 あんな事があっても飲みにこれるということは、全く反省はしていないということだろう。分かってはいた事だが、殺意が湧く。


 馴染みの女の子たちが、蛯子ミノルの前で接客をし始める。

 ガールズバーは、キャバクラなどと違い、カウンター越しに女の子が接客をするので、客の隣に座ることはしない。過度に女の子に触れるのも禁止されている。

 なので、僕にとっては都合が良かった。


「あ、ミノルさん、この子新人ちゃんです〜」


 店の先輩に紹介された。


「え? マジ? 名前は?」


 蛯子ミノルの目が、舐める様にコチラを見てくる。


「ヒカルです! よろしくお願いします!!」


 ちなみに苗字は小塩。遠い親戚の名前だ。


「へぇ〜。ヒカルちゃんか〜。お酒作れる?」


「え? まだまだ、下手ですよ?」


「いいよ、いいよ! 作って〜。自由に好きなもの作ってよ〜」


「わかりました〜」


 いきなりチャンスが来た。

 

 だが、ここで呪薬を飲ませて良いのか? 万が一バレたら、まずい。

 それに、どうせなら彼の家族にも飲ませたい……。


 僕は、ここでは飲ませるのはやめた。

 

 もっと、もっと、親しくなって、油断したところで、仕留めよう。


 僕が作ったのは、モヒート。

 ミントとライムを使った、炭酸系の爽やかなカクテルだ。

 蛯子ミノルのお気に入りらしい。


「へえ? オレの好きなものわかるんだ?」


「あら? モヒート、お好きなんですね〜」



 それから蛯子ミノルは小塩ヒカルを気に入ったようで、よく僕を指名する様になった。

 先輩方は嫉妬するどころか、気をつけてと心配してくれている。

 つまりは、彼女たちの中にも被害者がいるのだろう。


 そのうち、店の外でも会う様になった。

 まあ食事やデートをするだけで、深い仲にはならなかったが。

 そもそもなれないが。


 その様が、彼には誠実清楚として映ったのだろう。

 いきなり家族に紹介すると言い出した。


 最近の彼は、他の女性との関係をやめて、僕との付き合い一本に絞っているらしい。

 どうやら、小塩ヒカルにガチ惚れしたようだ。

 おめでたい頭で何よりだ。

 もしかして、本当にカズミの事が好きだったのだろうか?

 まぁ、今更やつの本心など、どうでもいいか。


 僕はその申し出を受け、後日、彼の家族と食事をすることになった。



 数日後、僕は蛯子ミノルの親が持つ、マンションの一つにお呼ばれした。


 彼の家族は両親のみ。彼は一人っ子なので、両親に大層甘やかされて育てられたらしい。その結果が、女は一回ヤれば自分に惚れてくれるという謎な思考回路なのだろうか?

 ちなみに彼の両親はどちらとも、蛯子ミノルと似たような性格の様だった。


 料理は有名店のシェフを呼んで、その場で作らせるらしい。


 僕は、そういうのが初めてで珍しいという体で、シェフが料理をする様を、ずっと見ていた。

 本当の目的は、如何にして呪薬を料理に混ぜるかを考えているだけなのだが。


「蛯子さんのお家には、よく呼ばれているのですか?」


「はい。ご贔屓にしてもらってます」


「へ〜。皆さんはどんなものをよく食べるのですか?」


「その時の旬の物が主ですが、シャトーブリアンのステーキとチョコレートタルトは皆様、必ずお召し上がりになりますね」


「まあ、美味しそうね!」


 その様子を、ミノルの家族は微笑ましげに、見守っている。


 呪薬には味もなく、香りはかすかに香ばしい香りがするくらいだが、液体に混ぜればすぐに溶け、匂いも無くなる。どの料理に混ぜるか……。


 そうして、料理が出来上がった。


「ではいただこう」


 皆で食事をとる。

 いわゆるフランス料理のフルコースだ。

 料理は確かに美味かった。


 そして、食事が終わり、デザートになる。


「いや、相変わらず美味かったな」


「ありがとうございます」


「また、お願いしますね」


「もちろんです」


 ミノルの両親は、シェフと会話している。


「ヒカル」


「なあに?」


「オレは君との未来を真剣に考えている。これまで、良くない事も沢山してきたが、これからは心を入れ替える」


「……」


 どの口が言っているのだろう。


 そんなことは表には出さずに、僕は微笑んだ。


「なんの事かは分からないけど、嬉しいわ」


「ヒカル!」


「でも、私みたいなのがミノルさんとお付き合いするなんて、大丈夫なのかしら?」


 小塩ヒカルは両親に先立たれ、天涯孤独という設定になっている。


「いいんだよ! オレはヒカルが良い!!」


「ありがとう。みんな食べてくれて」


「ん? 何が?」


「いいえ。今日はもう帰るわ。遅くなるといけないし」


「え? でも……」


「どうしたの?」


「い、いや、なんでもない! 送って行こうか?」


「ん〜ん。平気。ここ駅から近いし」


「そ、そう。それじゃあ、気をつけて」


 両親の前で気まずいのか、蛯子ミノルはがっついてくることはなかった。


 これで、僕の長かった三ヶ月は終わったのだった。



 それから、小塩ヒカルは忽然と姿を消す。

 勤めていたガールズバーもやめており、その消息は不明となった。

 蛯子ミノルは彼女の行方を血眼になって探したが、その行方は杳として知れない──。


「という、筋書きです」


「なるほどね。この三ヶ月、よく我慢できましたね」


「復讐のためなら、優しくすることもしますし、キスぐらいなら喜んでしてあげますよ。それ以上は無理ですが」


「そ、そうですか」


「それに、彼の協力でスムーズに呪薬を彼らに飲ませることができました」


 僕とキョウさんの視線の先には、とある男性がいる。

 

 彼はあの日、蛯子一家に呼ばれていた出張料理人だ。名を安食イチロウという。

 僕の名前はジロウなので、少し親近感が湧く。


「これで、少しは娘の気も晴れるでしょう……」


 彼には娘さんがいたが、高校時代に同じ学校の蛯子ミノルに襲われて自死してしまったらしい。


 その後、偶然にも彼の一家に料理の腕を気に入られ、出張料理人として度々、家に伺っていたそうだ。

 しかし、料理人であるので、その誇りから作った料理に細工をすることは憚られる。だからといって、許すことはできない。


 そんな思いを抱えてこの数年間、客と料理人として彼らには接していたらしい。


 そんな彼の事情を知ったキョウさんによって、説得され彼らの料理に呪薬を混入させることに協力してもらった。


「それで? どの料理に混ぜたんです?」


 とキョウさん。

 

 僕とシェフは顔を見合わせる。


「それはですね」


「お酒です」


「酒?」


「シェフはいつもより少し塩辛く料理の味付けをしました。そうなると、知らず知らずのうちに、お酒が進みます。ミノルの一家はシャンパンが好きなので、全員美味しそうに飲んでいました

 僕は炭酸とお酒が苦手ということで、ジュースを飲みましたので、僕だけ別のものを飲んだのです」


「なるほどね。さて、あとはどんな効果が出るかだけど……」


「楽しみですね」



 数ヶ月後、ミノルの親が経営する会社が倒産した。

 どうやら、違法なことを多数しており、それがバレたようだ。

 それまで殿様商売をしていた彼ら一家に手を差し伸べてくれる者は誰一人としておらず、ミノルの一家は多額の借金を抱えて、どこかへと消えたらしい。


 その後、キョウさんから、彼らの末路を聞いた。


 表沙汰にならなかったのは残念だったが、一応溜飲は下がったのでこれで良しとした。

 

 僕も家族もようやく前に進むことができそうだった。



 ミノルは全てを失った後、とある店に売られていた。

 両親は借金が返せず、多額の生命保険をかけられた後、どこかへと連れて行かれた。その後は見ていない。

 おそらくはもう生きてはいないだろう。

 だが、それだけでは到底借金を返すには程遠く、その足りない分は子供のミノルが返すしかない。


「ここは一体、どこなんだよ!?」


「おや、そいつが新入りかい? 活きがいいねぇ」


「ああ、借金が返し終わるまでは壊さないで、うまく使ってくれ」


 ミノルをここに連れてきた反社のような細身の男と、店主らしき小太りの男が話をしている。


「ホイホイ。どれどれ」


 店主らしい小太りの男が、ミノルの顎を持ち上げる。


「ふむ、顔は悪くないね。脱がせて」


「ひっ、や、やめ……」


 ミノルの言葉は聞き入れられず、着ていた服は手下らしき男達によって、剥ぎ取られてしまう。


 そして、その体を隅から隅まで調べ上げられる。


「ふむふむ。だいぶ女の子と遊んでいるみたいだね〜」


「ええ。無理矢理手篭めにしたことは多数。どれも親の金の力で黙らせてきた様です」


 別の男が現れる。

 黒色のナチュラルマッシュの髪型に暗い瞳。両耳にはバチバチにピアスをつけ、紫の高級そうなジャージを着た、半グレの様な青年。


「そりゃ、ひどい。相当恨まれているね。なら、手加減は不要だね!」


「ええ。彼に穢されて、命を絶った女性も結構な数がいますので」


「オッケー、オッケー。じゃ、準備が出来次第、早速、お客を取らせましょ!」


 ミノルは、青い顔でその会話を聞いていた。


(は? どういうことだ? オレとヤッた女が自殺したって? それに客? オレがとるの?)


 半グレの様な青年が、屈んでミノルのそばで囁いた。


「福田カズミはアンタが無理矢理ヤッたあと自殺した。それ以外にも同じ様な女は沢山いる」 


「……!」


 実はこの時初めて、自分がやってきた事のその結果を知った。


「だ、だって、一度関係を持てば、すぐに好きになってくれるって……」


「そして、お前はこれから彼女達と同じ目に遭う。まあ、頑張れ」


「は? まさか……」


「相手は主に男だ。今まで福田カスミの弟と付き合っていたんだから、問題はないよな?」


「は? え? 弟?」


「最後の方は、連絡取れなかっただろ?」


「──!? ま、まさか、ヒカルが?」


 青年はニヤリと笑うと、部屋を出て行った。


「まあ、女の人もたまにくるけどね、ウチの店。でも、男の人より残酷かもね〜。すぐタマ潰そうとしてくるし!」


 小太りの男は器具を準備する。


「では、準備ができたらすぐにお店に出てちょうだいね! 大丈夫。みんな上手にあなたを壊してくれるよ!!」


 その後、ミノルは腸内洗浄をされ、素っ裸のままとある部屋に放り込まれた。

 そこには、顔を隠した男が多数。

 その手にはさまざまな、アダルトグッズが握られている。

  

 ミノルは身動きを封じられ、舌を噛まないように、口にボールギャグを装着される。そして、ベッドに突き飛ばされて、倒れる。

 抵抗するが、なんの意味もなさない。


 足を開かれ、後ろの穴にローションを纏わせた棒が突っ込まれる。


「〜〜〜〜っ」


「ちゃんと慣らしてあげるから、心配しなくていいよ〜」


「女の子を散々、傷物にしてきた男でもちゃんと慣らしてあげる俺達って、優しいよな〜」


「ミノル君、俺たちのこと覚えてる? 覚えてない? じゃあ、思い出させてあげるね!!」


 そうして、ミノルの声にならない叫び声をあげた──。

 


「おや、三ヶ月持たなかったか。ジロウ君よりも根性がなかったな」


「カア!」


「何? たまたま彼の被害に遭った人や、大切な人がそう言う目に遭った客が集まっていた? 

 なるほど、男にも同じ事をしていたのか……。今回は不運的な報復が起きたのか? いや、人為的と不運のハイブリットかな?」


「カー?」


「ふむ、濃度を濃くすると、こうなるのだね。勉強になった。複数人を対象にするといいのかもね」


「ガー!」


「さて、もう少し、呪薬を作っておくか……」






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