思想家たちの座談会(愚楽乱入編)

【舞台】


石造りの書斎。

デカルト、ニーチェ、禅僧が哲学的に語り合っている。

外は夜風。中は理性と悟りの熱気。

……だが、ドアの向こうから妙な音が。


(ドア:ドン!ガラガラッ!)


愚楽「あーっつ! この部屋、煙くせぇな!誰だよ線香焚いてんの!?」


禅僧「……わしじゃが?」


愚楽「おおっと失礼。いや、なんか拝まれそうな空気でびびったわ」


デカルト「失礼だな。ここは思索の場だ。無関係な者は――」


愚楽「おっ、出たな“我思う、ゆえに我うるさい”の人!」


デカルト「“うるさい”ではない! “我あり”だ!」


愚楽「いやぁ、思いすぎて存在確認するタイプって疲れない?

 俺なんか、飯食って寝て起きて笑って――それで“あり”だよ」


デカルト「……なんと軽薄な。」


愚楽「軽い方がいいんだよ。頭重いと首痛めるぞ?」


◆ニーチェ


(肘をついて、にやりと笑う)

「いいぞ、愚楽。君は実にディオニュソス的だ。

 理性を超え、価値を転倒する“笑う超人”だ。」


愚楽「“超人”?やめろよ、プレッシャーが超すぎるわ!

 俺は“超”つけるほど立派じゃねぇ、“常人”で十分だ!」


ニーチェ「しかし君は――」


愚楽「うるせぇ金髪!お前の言葉、重すぎて笑いづらい!

 “神は死んだ”とか言っておきながらワイン飲んでんじゃねぇ!」


ニーチェ「……哲学者にも喉は渇くのだ。」


愚楽「じゃ俺のツッコミで乾杯しとけ!」


◆禅僧


(静かに微笑む)

「愚楽殿の笑い、風のごとし。

 吹けば煩悩も飛ぶ。」


愚楽「いや、飛ばねぇよ?むしろ煩悩が笑って戻ってくるタイプだぞ俺。」


禅僧「戻ってくる煩悩をそのまま抱きしめる――

 それが悟りじゃ。」


愚楽「え?悟りってそういうゆるい制度なの?

 なんか、免許より簡単に取れそうだな」


禅僧「わしの弟子にならぬか?」


愚楽「うわ、スカウト早っ!」


◆デカルト(ため息)


「まったく……哲学を茶化すとは。」


愚楽「おいおい、茶化すんじゃねぇ、“味わう”んだよ。

 苦い思想には、笑いの砂糖をひと匙ってな!」


ニーチェ「その言葉、気に入った。

 “笑いの砂糖”――それこそ、世界を救う。」


禅僧「甘露じゃ。」


デカルト「糖分の話をしているのではない!」


(愚楽、椅子にドカッと座る)


愚楽「お前ら、難しく考えすぎだって。

 “なぜ生きるか”とか、“真理とは”とか。

 俺はただ――“今日、笑えたか?”だけで十分だ。」


ニーチェ「……単純すぎる。」


愚楽「単純じゃねぇ。“笑い”は、頭でなく腹から出る。

 理性でも理屈でもねぇ、“生きてる証拠”だ。」


禅僧「ふむ、“一笑成仏”とはよく言ったものよ。」


デカルト「……確かに、“我思う”よりも、“我笑う”の方が……軽やかだな。」


愚楽「お、デカちゃん、いい感じにほぐれてきたじゃねぇか!」


デカルト「デ、デカちゃん!? 誰がそんな軽い名を――!」


愚楽「“我照れる、ゆえに我あり”だな!」


(ニーチェ、腹を抱えて笑い出す)

ニーチェ「ははははっ……! いい、実にいい!

 理性を笑い飛ばす哲学者――まさに新しい時代の預言者だ!」


禅僧「ほう、やっと笑えたか。」


デカルト(顔を覆いながら)

「……笑うと、確かに、考えが止まる。

 だが、その“止まる”瞬間に、静寂がある。」


愚楽「それそれ、それが“生きてる時間”だよ。

 哲学も、宗教も、結局は“今を笑えるか”だろ?」


(静寂。三人が微笑む。)


ニーチェ「君の哲学、名前をつけるなら――」


愚楽「“永遠の馬鹿”でいいよ。」


禅僧「永遠の馬鹿……いい名じゃ。無限の知恵より尊い。」


デカルト「ふむ、我思うに――その馬鹿、理性を超えている。」


愚楽「ほら、やっぱり“我笑う、ゆえに我あり”だろ?」


(炎がゆらめく。

 四人の影が壁に映る――そのうち一つは、ふざけてポーズを取っている。)


禅僧「今宵は良い夜じゃ。哲学も、笑いも、ひとつになった。」


愚楽「あ、そういや俺、飯食ってねぇや。デカちゃん、なんかない?」


デカルト「……パンしかない。」


愚楽「十分!“パンあれば笑いあり”ってな!」


(全員、吹き出す。)


🌙【終】


「哲学が難解になるたび、愚楽は笑う。

 ――それが、世界の理性を守るための、最も馬鹿げた方法である。」


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