禁字勇者~HPの概念が無いから無敵(文字縛りさえなければ)~

始焉司祭アルメオ

第1話 召喚

異世界。それは現実と異なる夢の世界。自分で自由に地形や地名を決められることから、創作の舞台として重宝される。


今回の舞台となる世界は主に[アイビギン、イデサート、ウーサムイ、エライモン、オッカナイ、ンーマロスト]の六つに分かれており、魔法を扱えるほか、スライムなどの人間と異なる魔物、ひいては人類に被害をもたらす魔王軍も存在する。


これから始まるのはそんな世界を旅する勇者の伝説。物語はアイビギンの王城から始まる。


アイビギンの国王「ようやく来てくれたか勇者よ。」


そんな声を聞いて勇者は目を覚ました。そこは西洋風の城の謁見の間のようだ。しかし不思議なことに国王の城だというのに騎士も執事もメイドも大臣も姫もいない。いるのは国王と覆面をつけた怪しげな神官のみ。


辺りを見渡すと剣や斧などの武器を壁に立てかけたり、それを持った甲冑の像があったりもしない。足元には謎の魔法陣がある。あまりの光景を疑問に感じ、勇者は口を開いた。


勇者「これは…一体全体、何があったとでもいうのですか?」


そうつぶやいた瞬間、国王は少し俯き、ため息をついた後、言葉を発した。


アイビギンの国王「単刀直入に言う。娘のモジーラが魔王軍に攫われた。娘を助ける旅をしてくれないか?今うちは魔王四天王により戦力上の大打撃を受け、困窮しておる。すまぬが、これだけ受け取ってくれぬか?」


勇者は1000Gと銅の剣(15G,攻撃+2,可)を受け取った。あまりにも唐突で何が何だか分からない。そもそも自分がどのような人間だったかいまいち思い出せない。何も知らない自分にはこれを受け取る義務はない。これを断る権利はある。


だが、国王はいたって真剣なまなざしでこっちを見つめてくる。何が起きたが理解できないが、大変なことが起きて困っていることは想像できる。そう思うと、何故か(誰かを救える人になりなさい)という声を思い出した。誰の声か分からない。穏やかな口調の女性の声だ。


だが、それが何かなど今はどうでもいい。頼られたら全力でやるのが礼儀というもの。この国王が助けを求めているなら、英雄にでもなってやろう。その意気込みで勇者は笑顔で答えた。


勇者「はい。喜んで。」


国王は嬉しそうにうなずいた。神官も無言で親指を立てている。


アイビギンの国王「うむ。頼もしいかぎりだ。本当にありがたい。申し遅れたが、旅の前に魔王軍について教えてやろう。約百年前、私が生まれていなかった頃に、各地の魔物が暴走を起こした。その時、あちこちに攻撃魔法を人に向けて使う魔王軍と名乗るものが現れたらしい。魔王ンダクネースという奴のために人類に絶望を与えようとした。それから現在に至るまで人類は魔王軍と戦った。その魔王軍の中で特に恐ろしいのが魔王四天王だ。四天王は[魔崩宰:ワルクリア,妖武将:ヨウブジン,夢黙羊:ユメミナシ,闇話烏:ヤミトレス]の四人。娘をさらった張本人だ。特に、危険なのは魔崩宰だ。奴は人類に与えた損害が魔王軍一で、この城にいた騎士や執事やメイドを一人残らず塵にした。接敵したら用心するように。なお、魔王ンダクネースの目的は不明で、その姿を見た者も今まで存在しない。」


その声を遮るように、謁見の間の扉が壊され、お調子者のような声が響いた。


?「へぇ~。君が勇者君かぁ。どんな骨のある奴が来るかと思えばこんなひよっこかぁ。」


その声に国王は驚いた表情を見せた。


アイビギンの国王「貴様は!魔王四天王の!」


すると侵入者は鼻でフッと笑って指を天に掲げ叫んだ。髪はオレンジ色で首には中央に金をこしらえた漆黒のネックレスを身に着けている。全体的に黒い格好で、肩からは烏のような真っ黒な羽が生えている。


ヤミトレス「そう!僕こそが魔王四天王の一人。闇話烏:ヤミトレス!勇者が現れたというから魔王様にお願いして先陣を切らせてもらったのさ。本当はワルクリアが行くつもりだったけど、ワルクリアの魔法は君のような人間には効かないみたいだし、ヨウブジンだって城の警護があるからねぇ。因みにモジーラ姫はユメミナシによってぐっすり眠らされているよ。ということで早速葬ってあげようか。勇者君。」


突然始まる戦闘に困惑したが、こちらには一応二人仲間がいる。そう思い、国王の顔をうかがうと、国王は、虫でも見たのかというほどに拒否反応を示した。


勇者「どうしたのですか国王!こいつは娘をさらった張本人のはずでは?!」

すると国王は弱弱しい声で答えた。


アイビギンの国王「実はわたくしは今まで一度も戦ったことがないのだ。魔王軍に目立たぬようにと幼少期は稽古を一切せず、勉学一筋だったのだからな。」


それならば仕方ないと思い、少し怪しげな神官の方を見てみた。すると、神官は柱の陰に隠れ、こちらに親指を立ててきた。


アイビギンの国王「恐らく、[がんばれよ。]という意味だ。奴はモジガミというものの力でお前を召喚したのだが、モジガミが喋れないからという理由で会話の時に筆談かハンドサインしかできないのだ。許してやってくれ。」


結局自分一人で戦うのかと落ち込んだが、そうもしていられない。人類の平和の一歩のために今目の前にいるヤミトレスに宣戦布告を意味する剣先を突き立てた。


ヤミトレス「戦うつもりかい?ならば上等だ。かかってこい。」


自分が勇者と言われているということは、おそらくこの世界はRPGの世界。ならば魔法も必殺技も使えるはず!勇者は思い切って魔法を使うことにした。


勇者「フレイム!」


^習得してないので撃てません^


勇者「え?」


内心驚きはした。そりゃそうだ。自分は召喚されたばかりの勇者。言うなればレベル1の状態。レベル1で最強なんてそんなうまい話はない。だが、まだ何かできるかもと思い、必殺を打つことにした。


勇者「勇者斬り!」


^存在していないので撃てません^


ヤミトレス「ハハハ!何だよ。何もできないくせに。」


またもこれだ。魔法も必殺もないならば、通常攻撃をするしかない。しかし相手は魔王四天王。今の自分が叶う相手ではない。


…そんな理由であきらめる者が英雄と言えようか?魔法も必殺もないなら通常攻撃で奴を倒せばいい。ないもんはないで諦めて余りもんで勝負するのが定め。国王から頂いた銅の剣を握りしめ、渾身の一撃を与える。


しかし、ヤミトレスにさほどダメージはない。


ヤミトレス「チッ。物理攻撃かよ。やだなぁ。こういうの。」


手ごたえはあったし、物理攻撃に対し困った様子を見せるものの、あと何回これをすれば倒せるというのだろうか。


ヤミトレス「さて、そろそろ動くか。」


ヤミトレスが攻撃を仕掛けてきた。あぁ。恐らくこれで終わりだ。これで自分は死ぬかもしれない。そう思い勇者はヤミトレスの攻撃を受けた。


^勇者は文字を制限された[オ,つ,ボ,ヲ,ぢ]^


死を覚悟したが、不思議なことに痛みは感じないし、ダメージもない。


ヤミトレス「!?僕の攻撃をものともしない…。何なんだこいつは。」


ヤミトレスは心底驚いている様子だ。だが、すぐに平静を取り戻し、背を向けて言った。


ヤミトレス「まぁいいさ。魔王軍に伝えておくよ。君は要注意人物だとね。」


ヤミトレスは翼をはばたかせて去っていった。


アイビギンの国王「…ヤミトレスか。奴は可愛いからという理由で娘の誘拐を提案したやつだ。奴は強さ自体はワルクリアとヨウブジンに遠く及ばない。何故なら、奴は魔法の模倣ができるくらいで、物理はめっぽう弱いからだ。並の騎士団が七八人程度いれば単独撃破は容易であろう。」


勇者はその国王の言葉に対し、他の四天王のことについての質問をしようとしたが、その瞬間神官が黙って勇者に水を飲ませた。飲まされた水は二本の瓶に入っており、一方は水色で、もう一方は藍色だ。何が何だか分からない勇者にある声が聞こえた。


^文字の制限が解除された{オ,つ,ボ,ヲ,ぢ}^


神官は相変わらず親指を立てている。


アイビギンの国王「驚いたか?しかしこれもお前のためだ。許せ。飲まされた水の正体は明水と暗水だ。お前の文字の制限の解除に利用できるものだ。良いか勇者。聞いて驚くでない。お前はHPの概念を失った代わりに攻撃を受けるたびに文字を制限され、制限された文字を言うことで爆散してしまうのだ。ゆえにお前は無敵ではない。幸い何の文字が制限されたかお前は知れるが、他の者は知らない。だから、これらのことも用心して旅に挑め。」


勇者は国王の言葉に困惑しつつ、こう答えた。


勇者「無論、用心はするつもりです。どんな難題であろうと勇者が諦めるなどありません。教えてくださりありがとうございます。」


すると、神官が黙って六つの瓶を手渡した。勇者は明水(3G)、暗水(3G)を三つずつ受け取った。神官はまたも親指を立てている。


突然のことだらけで頭が混乱してきた。文字の制限とか明水暗水とか良く分からない。だが、そろそろ旅に出た方がいいかもしれないと思うようになり、せめてこれから脅威となりうる存在について質問してみることにした。


勇者「国王。最後に四天王について聞きたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」


国王は少し俯きこう言った。


アイビギンの国王「すまぬが、それには少し答えることができん。ワルクリアの事を思い出そうとしたら、あの日に消された兵士たちの事を思い出してしまいそうだからな。」


先ほどは四天王の情報を言っていたというのに…もしや我慢していたのであろうか?四天王という存在を思い出すたびに娘が攫われた日の事を、部下が塵にされた日の事を、姫や部下と過ごした日常を思い出してしまう事を…。


そんなことを考えていた勇者は少し気まずげな表情を見せ、一言言ってから国王たちに背を向けた。


勇者「無理に思い出せそうとしてしまい申し訳ありません。ですが、その兵士たちの無念は勇者として晴らさせてもらいます。それまで応援をよろしくお願いします。それでは、魔王討伐の旅に行ってきます。」


謁見の間を振り返ると、国王は頼もしそうなまなざしで勇者を見つめ、神官は両手の親指を立てて、勇者を見送った。


勇者の冒険はこれから始まる。これは攻撃を受けるたびに字を禁じられる勇者の話。その名も"禁字勇者"。


勇者「まずは仲間集めのために城下町に行こうか。」


勇者の冒険はここから始まる。

^制限された文字:(無)^




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