第2話

 砂嵐が吹き荒れる。

 視界は悪く、耳には銃声と風の唸りしか聞こえない。


 


「……敵、北東。移動してる。四人。まだ遠い。」


 


 セラがスコープ越しに淡々と告げる。

 その冷静さは、現実とは思えなかった。


 


「カイ、どうする?」

「ここは南に抜ける。囲まれたら終わりだ」


 正直戦闘は避けたい。


 俺がそう言うと、すぐにメイが頷いた。

 その手は震えているけど――ちゃんとついてきてる。


 


「こ、こんなの……本当にゲーム……じゃないんですか……?」


「……少なくとも、いままでのE.O.S.じゃないな」


 


 そのとき、メイが何かを思い出したように顔を上げた。


 


「あ、あのぉ……さっきから気になってたんですけど」

「ん?」

「カイさんたちって……プレイヤー歴長いんですか?」


 


 俺は一瞬だけ迷ってから、苦笑した。


 


「少し、な。……前シーズンのランクリーグで3位だった」


 


「――っ!?」


 


 メイの目がまんまるになった。

 口をぱくぱくさせたまま、しばらく声が出ない。


 


「ま、まってください……“カイ”って、あの!?

凄いプレイヤーじゃないですか!!」


 


「まぁ……そう言われてたかもな」


 


 ロウガが鼻を鳴らす。


 


「へぇ、そりゃ頼もしいこった。俺はエンジョイ勢だったからな」


 


 メイはさらにセラを見て、青ざめた。


 


「えっ……じゃあ、その隣の銀髪の人って……ま、まさか……!」


 


 セラがちらりと視線を向ける。


 


「元プロチーム《HELIOS》所属――セラ=フロスト。

 私のこと知ってる?」


 


 メイは絶句した。

 肩を震わせながら、ぽつりと呟く。


 


「わ、私……E.O.S.殆ど初心者なんですけど……」

 装備を見ればわかる。初めて間もないプレイヤーだろう。


「フォローは得意だから………ゲームだったらだけどね」

と小さな声で続いた。

 


 セラがくすっと笑う。

 その表情は、戦場の中でも不思議と柔らかかった。

 

 

 


 その言葉に、メイの目が少しだけ潤んだ。

 それを見て、俺の胸の奥が少しだけ温かくなった。


 


 ――けど。


 


「……簡単に言うなよ」


 


 ロウガの声が低く響いた。

 砂を蹴りながら、俺たちを見渡す。


 


「最後に残れるのは一チームだけだろ?……いつものゲームとは違うんだよ」


 


「まだわからないだろ!縁起でもないこと言うなよ」

 つい声を荒げてしまった。

 


「おいおい感覚でわかるだろ?これが普通じゃないことくらい」

 

 ロウガの言う通りだ。

 E.O.S.を長くプレイしているやつはダイブしている時と現実の感覚は区別がつくのだ。

 視界はいつものE.O.S.だ。

 スキルや動きは再現できる。

 なのに全ての感覚は現実のようなのだ。

 だから誰も反論できなかった。



 

『第1ラウンド終了まで残り1分』


 


 機械音声が響く。

 遠くで銃声が鳴り、爆煙が上がった。


 


「くそっ! 敵だ! 岩陰へ!」


 


 俺たちは一斉に走り出す。

 銃弾が砂を弾き、火花を散らした。


 「メイ!早くこっちへ!」

 反応が少し遅れたメイが急いで物陰に隠れようと走った。


 俺とセラが反撃に出る。

 セラのスナイパーライフルの銃口が閃き、敵の一人が崩れ落ちた。


 


 光の粒――には、ならなかった。

 代わりに、血が砂を濡らす。


 「「っ!!」」

 撃ったセラ本人も同時に驚いた。

 


 メイが叫ぶ。


 


「ひ、人が…………!」




敵の悲鳴が聞こえ、敵が退却していく。



俺は逃げる敵を照準に捉えたが撃たなかった…

 


「……これが、E.O.S.?」


 


 俺は低く呟いた。

 引き金を握る指が、冷たく震えていた。


 


 セラが短く息を吐き、銃口を下げる。


 


「撃たなきゃ死んでいたわ…」


 


 その声は、震えを隠していた。

 彼女の頬に、砂と汗が貼りついている。


「今のはやばかったな」

 ロウガが呟く。


(……たしかに今のは…メイがやられていた場面だ。俺もセラが撃った敵を照準に捉えていたが…撃てなかった)


 


 俺は唇を噛んで、銃を構え直した。


 ゲームと同じ仕様ならエリアが縮小していくためずっと同じ場所にはいられない。



「やるしかない!やらなきゃやられるわ」


 


 セラが頷く。


 

 


 ロウガがぼそりと笑った。


 


「しかしまぁ……こんな状況で上位ランカーとプロと組めるなんざ、ある意味運がいいな」


 


「皮肉に聞こえるぞ」


 


「褒めてんだよ、少しだけな」

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