第13話 幼馴染を、わたしがずっとすきだったのに

 ずっと一緒だった。

 本当に一緒だった。


 最初から最後まで、ずっと一緒にいる。

 そのつもりだった。


 ただ、何の根拠もなく、将来の結婚相手はこの人なのだと、ただただ愚かな乙女心はそう思っていた。


 そうじゃなかった。

 とてつもなく遠かった。


 人生で一緒になることを確信した相手は、私の思ったよりも何百寸も向こうに立っていた。


 ただ、私の心が一方的に近かっただけで。


 心の距離とは数学と違って、片方が近かったら片方も近いわけではないというのを、なぜ誰も教えてくれなかったのだろうか。


 この愚かしい奢りと恋心を、いったい誰がたしなめてくれただろう。


 ただ好きな人との願いが叶わないだけでこんなに悲しいということを、なんで誰も言ってくれないんだ。


「こんなに、好きだったのに」


 わたしの腕の下に組み伏せられているのは、かつてのわたしの愛しい人。


 どうしようもないくらいに好きで、無自覚に人生を捧げてもいいくらいに好きで。


 ただそれだけで、私の心をこんなにも締め付けてくる。


 やめて、そんな顔で見ないで。


 こんな事をしたいわけじゃなかった。


 ちゃんと告白して、付き合いたかった。

 普通の女の子みたいに、あなたと一緒にいたかった。


 そんな痛々しい顔をしないで。


 わたしはただ、あなたの事を、こんなにも好きなだけだから。


 こんなことをしたいわけじゃなかった。

 こんなレイプまがいの事をしたいわけじゃなかった。

 こんな変な女みたいになりたいわけじゃなかった。


 こんなにも、好きなだけなのに。


 ただ、それだけなのに。


 全部自業自得だと分かっているのに。

 ただわたしが告白するのが遅かっただけなのに。


 そのうちそのうちと、ただただ、引き伸ばしていて。

 そのうえで、取られただけなのに。


 でもそんな事を頭の中で何度繰り返したって。


 心は、理解してくれなくって。


「朝海っ、こんなこと」


 ああ。


 駄目。

 駄目だ。

 そんな。


 拒絶しないで。


 分かってるよ。

 分かってるのに。

 わたしが間違ってるって分かってるのに。


 なのに拒絶されるのは、こんなにも怖い。


 その怖さで。


 体が、突き動かされるように動く。


「俺は、朝海を」


 その口を、わたしはふさいだ。


 汗だらけの、汚れだらけの汚い手で。


「言わないで、わかってるから」


 紡ぐごとに、無意味な液体がボロボロと出てくる。


 あんなにもしたかった会話が、今はこんなにもしたくない。


 大好きなあなたの言う言葉を、わたしはあろうことか聞きたくない。


 大好きな人の手を、わたしは手に握る。

 びくっと震えたその手。

 抵抗を、しなかった。


 わたしよりきっと何倍も強いはずの手を、わたしに逆らうために動かしていない。


 ぞくりと、心の恐ろしい部分が動いた。


 その手を、触れさせた。


「んっ」


 この人のための、場所に。


 この人以外に絶対に触れさせない場所に。ただこの人のために実らせた場所に。


 この人のために、この人を喜ばせるために、この人に触らせるために、この人を振り向かせるために。


「はっ、はあっ」


 この人を。この人を。


 この人を、この人を、この人を、この人を。


 この人をこの人をこの人をこの人をこの人をこの人を。


 この人を、ただ。


「あなたのものに、してよ」


 ただそれだけのために、生きてきたんだから。

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