第6話 先祖

 僕は昔から祖父にご先祖様の話を聞くことが大好きだった。

 凄い偉業を成したわけでも、値打ちのあるお宝を隠したということでもない。どこにでもいる普通の農家だった、と思う。

 思う、と表現した理由は、祖父の話すご先祖様の話が聞くたびに違うからだ。

 父親曰く、ボケてきたんだろう、と言っていたが、僕にはそう思えなかった。

 だって、毎回違う話なのに、同じ話をリクエストすればすぐその話を繰り返し聴かせてくれた。

 だからボケたとかでは絶対にない筈なんだ。


「おじいちゃん。どうしてご先祖さまの話が聞くたびに違うの?」


 僕はその日、祖父に思いきって疑問を投げかけてみた。

 すると祖父は一瞬、驚いたようにシワの多い目を大きく開いて僕をまじまじと見つめた後、今度はニコリと嬉しそうに微笑んでくれた。


「そうか、そうか。お前は賢い子だ」


 言いながらを頭を優しく何度も撫でて、祖父は噛み締めるようにゆっくりと答えてくれた。


「実はワシらのご先祖様は、少々困ったお人でな。何か偉業を成すことはできなかったが、かわりに大変珍しい体験をする体質だった」


 祖父が言うには、その結果があの多くの面白い話だったということだ。

 子どもだった僕はそれで納得したが、今にしてみればそれは本当なのか? とまた疑問に思う。

 しかし今となってはもう確認のしようがない。

 祖父は本当にボケてしまったようで、何年か前から遠くの老人ホームに預けられている。

 場所も遠くて行けないし、僕のことを覚えているのかも怪しい。

 僕は祖父が老人ホームへ行く前日に渡された羽団扇を押入れの箱の中から取り出した。

 漫画で天狗が持っている物とよく似ているが、きっと祖父が買ったか作ったかしたおもちゃだろう。

 何となく仰いで見る。

 次の瞬間、羽団扇から煙が上がって僕は火でも付いたのかと焦って放り投げた。


「な、なななな、なんだ?」


 現れた煙が宙で渦を作り、中心に何かの映像が浮かび上がる。


「あ……これって」


 僕は映像の内容に覚えがあった。当然映像自体は知らないが、内容は昔祖父が聴かせてくれたものと同じだった。


「そっか。……ご先祖様は天狗だったんだ」


 僕は祖父がボケていなかったことにホッとして、懐かしい内容を眺めながら最後まで魅入っていた。

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