#004
消えた。
俺の目の前で、間違いなく人が消えた瞬間を目にした。
健吾は、この世からどのようにしてか消されたのだ。
俺は衝撃を受けつつ、どこか冷静な頭で考える。
今起きたことをまとめると、
①めまいがして、
②視界に異常が起こり、
③何かが俺の中から抜け落ちて、
④健吾にまつわる全てが消えた。
ということになる。
……どうしようか。
全く対策が思い浮かびそうにない。
とはいえ、忘れてしまったということを覚えてさえいれば、思い出すのは難しくなさそうだ。
……?
じゃあ、俺は初めに思い出したとき、なぜあんなに苦労したんだ…?
あの時は何が違った?
忘れてからずっと経っていたから?
何かが掴めそうになったが、何度考えても答えはでなかった。
* * *
1週間。
俺は日常の中に帰り始めていた。
全く進展が見えなかったのだ。
この飽き性がこれまでの全てに悪さをしていることは分かっているのだが。
ともかく、授業中浮足立ってノートの端に仮説をガリガリ書き付けることはなくなり、普通にノートを取って、帰ってから机の上で考えるようになった。
とはいえ、帰ってからは様々な疑問が頭の中を渦巻く。
なぜ?なぜ?なぜ…?
頭の中でこだまする疑問は、事あるごとに固まろうとして、そのかたちを雲散霧消させてしまう。
何かを掴めそうになっては、指の隙間から取り逃す感覚を繰り返していた。
* * *
2週間。
俺は今日もスマホをいじらずに学校に向かう。この出来事が始まってからずっとだ。
むしろこれが新たな日常として定着しつつある。
良くないことだとは分かっているが。
本当に彼女らはどこへ消えたんだ?
定型的に脳が問いを発するが、俺の答えは出ず、次第に注意は散漫になって。
ふと、電車のあるようなないような喧騒のなかで、顔を上げる。
同時に、目の前の座席に座る男が顔を上げる。
目が合う。
全き偶然。男は顔を戻す。しかし。
俺の方は、電撃が走るように、重い記憶の蓋にひびが入る。また、あの感覚。
これまで2度体験したあの感覚だ。
そして、俺は、3つ目の失われていた記憶、ある光景を思い出す。
あの目は…細められた喜びの目、瞳孔が縮んで見える愉悦の目、そしてなにより、カラコンらしき青色の瞳孔が、埋もれていた記憶を呼び覚ます。
その光景とは。
血に染まった地面の上で、満面の笑みで笑う彼女の姿だった。
* * *
渡辺千紗希。
彼女のおぞましい光景の記憶を呼び起こした俺は、あまりの衝撃に少し現実が遠くなる。感覚刺激がぼんやりとし始め、視界のはしが紫に染まるが。
それでも俺は考える。
どんなに恐ろしくとも、考えなければならない。
今見たものの意味を。
あれは…あの光景は。
あれは。
間違いなく、2ヶ月前の、林間学校の校舎で。
なにより、どす黒い悪意によって行われた、デスゲームの光景だった。
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