第26話 王宮の終わりはどこ!?

「ふぁぁ……」

絵本をそーっと閉じて、ぼくは知らないあいだにつめていた息をはいた。


「すごぉぉぉい!」

ソファの上でぴょんぴょんしそうになるのをおさえて、絵本の表紙をじっと見返す。


「オルゴールくん、ほんとにじぶんでじぶんをなおしちゃった!」


あんなにボロボロだったのに! 部品もたりなくて、音もでなくなって、もうすぐ捨てられるところだったのに!

「じぶんで、ぶひんを見つけて、じぶんで直して……すごぉい!」


ねぇねぇ、と言いかけて、侍女さんが今ちょっといないのを思い出す。

しかもじぶんでそうしたんだった。たまにはぁ、3人でいっしょにごはん食べたらいいのにぃって。姉妹と従姉妹なんだからぁ、ゆっくりお話しておいでぇ、っていったんだった。


ちょっとカッコつけた結果、話す相手いなくなってる。


「でもまぁよし」


ぼくにはあの子がいるからへーき!


「きいて、うさたん!」

寝室のベッドにかけあがると、ふわふわのうさぎさんが、まんまる目でこっちを見る。


「あのねぇ、こわれたオルゴールくん! ぼうけんして、じぶんでしゅうりしたんだって! すごいねぇ!」


うさたんを抱きあげて、ふわふわをぎゅっとする。


「音が出るようになったんだよ! 前とはちがう、べつのとくべつな音なんだって!」


うさたんの長い耳にすりすり。


「じぶんでできるの、すごいよねぇ……ぼくなんか――」


ぼくなんか、なぁんにもできなくて。そう言おうとしてハッと気がつく。


「ちょっとぉ、なにぃ、ぼく」


ぼくは、なにをただのふつうの5才みたいなことをしているの?と急にわれにかえる。


「ぼくはぁ、ただの子どもじゃないでしょぉ?」


どうにも、5才のメンタルにひっぱられがちで、ちょこちょこ肝心なことを忘れている。


「ぼくは、前はぁ、15才まで生きてたじゃぁないぃ?」


しかも、前世で読んだこの世界のこと、ここでこれから起こること、今世のぼく、サファの未来も知ってる。


「今のぼくだってぇ、できること、ぜったいあるでしょぉ」


たとえ、今は幼児ボディでも。さっぱり口がまわらなくて、しゃべり方がどうにもホニャホニャしてても。


……ついでに、気持ちがどうも5才にひっぱられがちでも。


前世からひきついだ知識を忘れたらダメ。これはほんとうに、今後のぼくの命にかかわるので!



「えほんの中のオルゴールくんより、ちしきをもってるぼくのほうが、たくさんできることあるはず!」


ここでじーっと、10年後にビクビク待つんじゃなくって!


「そぉだ!」


もっとじぶんで、サイアクな未来をかえる方法をさがさなくちゃ!


「よぉぉし!」


ここを出て、どこかとぉーいところで、平和にひっそり、それなりに楽しくくらすんだ!

一応人質のぼくがいなくなっっちゃったら、ぼくの国の人が困るかもぉだけど……それはぁ、後でなんとか考えよっ!

とにかくとにかく、ここから出る方法だけでもぉ、探しておかないとねっ!


出てからどぉぉするとか、国のこととかはぁぁ、あと。

はぁぁ……どうにかしなきゃなこと多すぎるけど、命がかかってるんだから、なんとかしないと。

うん。


「がんばろぉぉね!」


うさたんのまんまるお目々にやくそく。

そしてぼくはさっそく、かんがえはじめた。


「うぅーーん、まずは――」


将来の、へいおんな生活のために!



***


「まずはぁ――」


とにかく、ここから出る方法を知っておかないとね。じゃないと話にならないよね、うん。

だけど、


「どぉぉやって、みつけよぉぉ……?」


ファランさまと会ったときに、王宮の外に出る門まで案内して!って頼む……ってダメダメ。ぜんぜんありえない! あやしすぎるでしょ。

変に思われたらどおするのぉぉぉ!?


「となるとぉ、やっぱり……」


ぼくはぴょん、とソファから立ち上がる。


「ここは、じりきでなんとか」


ちょうど今は、侍女さんたちお昼ごはん中。

かわりについててくれる人もいるけど、ふふん、ぼくには作戦があるんですねー。


「あのねー、ぼくお庭にでるねー」

「はい、では私もご一緒――」

すかさずついてこようとする、お部屋の人を両手でストップ。


「だいじょーぶ! お花つんだら、すぐもどるから!」

「そうですか……?」

「どんなお花つんでくるか、ないしょだから、楽しみにしててぇ」


ふふーん、どうだ! これで着いてこれまい!


「そうですか? では、遠くまでいかないようになさってくださいね?」

「は、――い!」


はっきりウソをついちゃうことになるので、ちょびっと心がジクっとする。ごめんね、ちゃんとすぐ帰ってくるから、うん。たぶん。


「いってきまーーす!」


ひとりで庭をでるミッションに成功!



ぼくの作戦はこう。

「とにかく、外に行くほうっぽい道をさがしてみよぉぉ!」


……作戦っていうか、無策?


「だって、どっちのほうが外にいく道なのか、わかんないからしょーがないしぃ」


自分で自分にいいわけ。


「もし見つかったらぁ、迷子になったふり。これ、だいじ!」


まずは、ちゃーんとお花をさがしてるかんじで。

ほらほら、部屋の中から、まだこっち見てるもんね。


お花を探しながらぁ、あっちこっち。


「あっちのお花も見よぉぉ」


とか言ったりして!


「おおお、このお花きれぇぇ!」


って、ほんとにお花に見とれてどーするのぉ。ちゃんと目的をはたせないと!

なのでぇ、


「あっちも咲いてるかなぁ」

とかつぶやきながら、庭の花の間を歩いて、さりげなく奥へ奥へ。

ちらっと部屋の方を見ると――


「……! まだ、こっち見てるぅ」


お部屋の人、責任感つよすぎぃ。


「そーっと、ばれないようにしないとぉ」

あやしまれないように、ちょっとだけ花をながめてから、またじわ~り前進。



「わぁぁ、水がキラキラ……!」

すると、きれいな水が吹き出す、ふんすいに到着!


「ちょっとだけ休憩~」

のふりをして、部屋から見えない方へ、っと。

さりげなく横へずれて、奥の道へ向かう。


「いそげぇぇぇ!」


ここからは、おおいそぎ! あんまりおそくなったら、心配されちゃうし不審がられちゃう!


「えぇと、こっち……?」


道を進むと、おっきな道に出た。なんか、人がいっぱい通ってる!


「おお、これ、行ってだいじょうぶなやつ……?」


こそーっと見てると、みんな忙しそうでそんなに周りを見てない……気がする、たぶん。ここで働いてる人の子どもなのかな?小さい子もいなくはない。


「よ、よーし。しらない顔でいけば、おっけー」


見とがめられたら、例の迷子作戦を実行すれば問題なしだ。


「うーん、どっちいこぉぉぉ……?」


とはいえ、迷ってるヒマはなし。時間もないし、目立っちゃうもんね。


「こそーっとめだたないようにぃ……」


王宮の建物のかべ沿いに、そっと進んでいく。建物の影と一体化した気持ちで!

できるだけ目立たないように、でも不自然にならないように、かつ急いで。侍女さんたちが帰ってくる前、騎士さんやお部屋の人があれ?ってなる前に……!


そして――


「ん……? あれなんだぁ?」


遠くにそびえ立つ、おーっきな……かべ?


じゃない! あれは――


「門……!」


お外にでる門だ!


すごい! ぼくって天才なのでは?

てきとーに進んで、門にたどり着くなんて、すごい!


「やったぁぁぁ!」


あ、大きな声ダメ。ぼくは今、迷子中なので(作戦)。ちょっと不安そうな顔も忘れずに!


「えぇ、ここどこかなぁ……」


ちょっとつぶやいてみたりして。キョロキョロして、あたりも見回しつつ。今にも走り出しそうになるのを、ぐっとこらえて。


「わぁぁ、おっきな門があるう」


と、これもひとり芝居。うん、なかなかいい感じ。


ちょっとなんとなーく見てるだけですよ、みたいな感じでしれっと近づく。


ふぁぁぁぁぁ! すごい!


近くまで来てみると、ほんとうにおっきい!


きょだい!立派!そして――



……すごーーく厳重に守られてる。



さすが王宮の外にでる門。ただじゃ通さないぞ、ってかんじ。


「これが……王宮の外へ出る門……!」


ここを抜けさえすれば、王宮の外へ行けるはず。でも、どうやって通るかだよなぁぁ。

うーーーーん。



「……あれ?」

なんか、急に暗くなった?


「これは……サファさま?」

「ひぃぃぃ!?」


びくぅぅぅっ!

いったん飛びはねてから前を見ると、門番の騎士さん。


「な、な……」


い、いつのまに!?


「こんなところで、どうされました? おひとりですか?」


あわわわ。会ったことない騎士さんなのに、正体ばれてるぅぅ。


どどど、どうしようぉぉ!


「あの、あの……」


「迷われたのですか?」

「そう、それぇ!」

「……?」


それだーってなって食い気味に答えた結果、不審がられるという始末。

なんで迷子作戦、大事な時に一瞬忘れたのぉ、ぼくぅ。


「ひ、ひとりでお庭でお花見てたら、迷っちゃってぇ……」

と、とにかくここから挽回だ。


「それで帰ろーと思って歩いてたら、ここにきちゃってぇ……」

不安な子どもっぽく、困った顔を忘れずに! まぁ、実際困ってるのでそこは問題なさそぉ。


「それでこんなところまで……大変でしたね」

あれぇ、騎士さんやさしぃぃ。


「あの、ここはどこぉ?」

「ここは王宮の一番奥、王族の皆さまが住まわれる宮廷と政務区域の境目です」


騎士さんはピシぃと姿勢よくして、元気に答えてくれる。


「へぇぇ! きゅうていとせいむ区域のさかい――」


あれ? 境目?


「じゃあ、この門は――」

「はい。区域を分ける大門でございます」

「…………」


な、なんだって……。


「じゃあ、この門の先に王宮の外がある、とかではなく……?」


「はい。さらにその先に王宮の使用人たちの居住区域があり、そこを抜けると貴族の居住区」


「え、え……」


「その先に、職人街、商業区があり、それから――」


「え、待っ……」


「そこを抜けると王宮外郭の関門があり、その先は市民の暮らす町につながっています」


「………………」


ちょっとまって、落ちついて。


えっとぉ……ぼくがいるのが王宮のいちばん奥。

この門の外が政治の場所、その先が働いてる人たち、その向こうが貴族さんの屋敷、えっとそれから――


「サファさま? どうかされましたか?」


「あ、う、ううん……だいじょぉぶ。ありがとぉ……あはは」


と――遠すぎぃぃぃぃ!


お外、遠すぎじゃない? え?


え、ぜんぜんダメじゃん! そんなたくさんの門、どうやって通る? そもそも、そんな遠くまで歩けないかも……



わぁぁぁん! 王宮脱出計画、前途多難すぎるよぉぉぉぉ!!


「あの、サファさま?」

「あ……うん、なぁに?」


ダメダメ、ちょっと泣きそうな顔とかしない!


「迷われたんですよね? お部屋までお送りしますよ」


「え!? あ、そう。あの……」


騎士さんが優しく心配してくれる。

でも、このまま送られたら、いろいろマズい。なんか大ごとになっちゃうし、下手したらお庭にもひとりででられなくなるかも!


「あ……だ、だいじょうぶ! なんか、帰る道、方向だけ教えてもらえたらぁ平気!」

「そうですか? 方向ならあちらです。ですがー―」


困惑する騎士さん。だよねぇ……言い訳、下手すぎちゃった。

しかーし、ここはなんとか押し通さないとぉ!


「だいじょぉぶ! あっちだね! 行ったらきっとぉわかるから!」

なんか、自信ありそうに言ってみる。


「そうですか? でも、念のため――」

なんと! 親切かつ責任感のあるいい騎士さん!

しかーし、ここはなんとか(以下略)。


「ほんとにだいじょーぶだよ! ありがとねぇぇ! ばいばーい!」


ここはゴリ押しの無理やりだ。なんか雰囲気で押し通そう。


「あ、はい」


「ばいばーい! お仕事、がんばってねぇぇ!」

元気な感じで手を振って、門から離れる。


「はい! ありがとうございますっ!」

ニコッとなった騎士さんが、律儀にお辞儀をして控えめに手を振ってくれる。



はぁ、よかったよかった。


じゃなくて――




「えぇぇぇ、むりなんだけどぉぉぉ!」


全然、脱出できそうにない! ムリ! かなりムリ! 絶望的にムリ!



はぁぁぁぁ。

もうため息しか出ない、足もトボトボ。


今日はもぉいいやぁ。とにかくはやく帰ろ。

それで、お花つんで――


「あ、れ……?」


ピタッと止まる。


「で……ここ、どこ?」


キョロキョロ。


「あれ? こっちの方向だったよね? あれ? まって、ぼく、こんなとこ通ったっけ!?」


えっとこっちの道……じゃなくて、あっち?

いや、もしかして――


「あれ?」


え、これって……


「えぇぇぇぇぇ!? ぼく、迷子ぉぉぉぉ!!」


どうしよぉぉぉぉ!!!

迷子作戦しっぱい! ただの本物迷子!


わぁぁぁん、どぉぉやって帰ろぉぉぉ!



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