第33話 閑話 フォークダンスの芽吹き
神聖歴579年 夏の中月 1日
商業都市サニムは港町だ。サニム湾は水深が深く大型の船もつけられる上に沖合に波を砕く岩礁地帯があり、よほどの大風でもなければ荒れることが少ない良港になる。夏の中月初日に行われる海祭りは、この良港から得られる富を町全体で喜ぼうと議会が計画・運営している祭りで、例年サニムの住民だけではなく近隣の農村などからも見物客が訪れる大きな催しだ。
その催しの今年の目玉に、俄かにサニム全体で盛り上がりを見せている新しい踊り、フォークダンスは選ばれた。
普段は多くの屋台でにぎわう中央市場はこの日の為に片付けられ、数百人、あるいは数千人の見物客が詰めかけている。彼らの目的はただ一つ。この街一番のフォークダンサーズの誕生をこの目で見ることだ。
「それではこれよりぃぃぃ! 第1回サニムフォークダンス大会を開催するぅぅぅぅ!」
サニム最大の劇場、サニム公立劇場の支配人兼歌い手としても著名なウタウマ・スギールの開催の叫びが広場にこだまする中、サニムフォークダンス大会の幕は切って落とされた。
「素晴らしい」
教え子たちの姿に、心からの称賛が口を出る。
最初に広場へと姿を現したのはサニム外街に構える劇場の一つ、外街市民劇場の教え子たちだ。彼らが選択したダンスはジェンガ。列をなし、一糸乱れぬ動きで同じ足を上げて陽気に踊る姿は祭りの最初に相応しいとされ、この順番での登場となった。
劇場の格としては公立劇場から見ると大分落ちる外街市民劇場だが、選曲の妙で先手となったチャンスを逃さず、見物客にアピールするように踊りの合間合間に掛け声を叫ぶ。掛け声に誘われるように前のめりになる見物客たちを見るに、彼らの思惑は成功していると言っていいだろう。
「という次第です」
「ふむ、なるほど」
「選曲によってダンスの戦略性が変わるのか。なんともはや、面白い踊りだ」
そんな教え子たちの考えを紐解き、言葉にするのがレイラさんから託された今日の俺の仕事だ。この場にいる面々はレイラさんやダリルウさんを含めたサニム議会の面々、つまり5大商家のお歴々であり、今回の祭りの運営を担う最高責任者でもある。彼らにフォークダンスを伝える。今後のフォークダンスの発展を考えれば非常に重要な仕事である。
俺の説明を受けながらスカトゴオメ家の当主、ハイラルさんが演奏されるリズムに合わせて両足のつま先をパタパタと上下に動かしている。スカトゴオメ家は建築ギルドの元締めであり、美術品の商いやそれを生み出す芸術家たちを支援する街一番のパトロンでもある。
「なるほど、個の美しさをより集めるのではなく集としてより大きな美を形成する。こういった踊りもあるのか」
彼自身も建築家兼美術家としてサニムでは名が通った人物であり、その彼の目で見ても外街市民劇場が音頭を取るジェンガは感嘆する出来栄えのようだ。
「広場を開けなければいけないと言われた時はどうかと思ったが、このダンスなら確かに場を広く使えなければいけないか。それに元々あった屋台を通路沿いに移設して祭りにあった手軽に食べられる食事を取る、というのは良いアイディアだ。会場の移動の際に食欲をそそる匂いがすれば、財布のひもは緩くなる」
ダンス自体ではなくそのダンスを行うための環境や祭りに出店する出店に言及しているのは、サニムの食料品をほぼ一手に担うグンラル家の当主、パブさん。孤児院への支援物資を中抜きしていたって件でグンラル家はあんまり印象が良くないが、当主の彼は非常に気真面目そうな人だ。
中抜きの件が発覚した後はその経緯から物資の行先、孤児院がいくらの損害を被りどのような補填が必要であるかまで分厚い企画書みたいな書類を出してきたから、多分見た目通りの気質の人なんだろう。この人が頭に居ても中抜きしまくってたのはどういう事なんだと思ったが、書類上の動きだけだと分からないように担当者が上手くやっていたらしい。主にレンツェル神父を騙くらかす方面で。
「祭りが華やかになる事は良いことだ。なにより踊り手と楽団が居れば完結する手軽さが良い。孤児院の坊主、このフォークダンスとやらで予算がかかる部分はどこだ?」
「人数が居なければ見栄えが悪くなるため人にかかるお金と、衣装代。各楽団の演奏に対する謝礼、それに場を整える準備代くらいですかね。これは祭りの宣伝の費用も含むとして」
「素晴らしい。余計な建物や外から物を持ってくる手間もなくサニムだけで完結するのも良い。なによりも予算のかけ方が分かりやすい」
サニムの金融を一手に行うレナリチ家のレオさんは、でぷりと太った腹を揺すりながら特徴的な笑い声をあげてフォークダンスを見ている。口からはお金の話しばかりが出てくるが、音楽に合わせて体を揺すっている辺り彼なりにこのフォークダンスを楽しんでいるのだろう。
彼らに加えてダリルウさんやレイラさん、直接言葉をかけてくることはないが議会に所属する書記と呼ばれる役職の人に、5大商家の護衛も含めた10数人にフォークダンスの良さを伝えている内にオオトリを務めるサニム公立劇場の番となる。最後を飾るのはサニムでも一番と名高い踊り手カーマさんを擁するサニム公立劇場にこそふさわしいという意見が多く、彼らもそれを当然と受け入れた。
そんな彼らが、フォークダンスでも頂点となるという強い意志を固めた彼女たちが踊る演目はサニム節。港町サニムを象徴するような楽曲である。
「ドッコイショードッコイショー! サニム! サニム!」
踊り手たちが張り上げる声に最初の内は戸惑っていたサニムの住民たちも、曲が進むごとに魅了されたように前のめりにドッコイショー! と叫びだすようになる。元になった楽曲の中毒性はこの世界でも有効なようだ。
え、ソー○ン節はフォークダンスじゃないだろうって? いやいや。俺の前世ではちゃんと政府が認めたフォークダンスの一つだよ。そもそもフォークダンスってのは世界各国の民謡舞踏の総称なんだから民謡音楽に合わせて踊るダンスは須らくフォークダンスになるのだ。つまり目の前で大勢の住民を巻き込むように叫び、踊る彼らのサニム節はれっきとしたフォークダンス。完ぺきな理論だ。
サニムの夏祭り、第一回フォークダンス大会は当然のように大盛況のまま幕を閉じた。民衆の反応と、上層部の反応。どちらも非常に好評なこの祭りは恐らく来年以降も続けて行われるだろう。
この街に巻いたフォークダンスの種は、大きく芽吹いたと言える。一フォークダンスを愛するフォークダンサーとして、こんなに嬉しい事はない。ああ、そうだ。大仕事を終えた愛弟子たちに祝福の言葉を送りに行こう。素晴らしい踊りをありがとうと、伝えに行かないと。
――――――――――――――――――――――――――――――
@acidbotさん、@atomoki0426さん、@Nissanさんコメントありがとうございます。
更新の励みになるのでフォロー・☆評価よろしくお願いします!
タロゥ(6歳・普人種男)
生力23 (23.0)UP
信力73 (73.5)UP
知力22 (22.0)ー
腕力24 (24.0)UP
速さ23 (23.0)UP
器用22 (22.0)ー
魅力22 (22.0)ー
幸運12 (12.0)ー
体力23 (23.0)UP
技能
市民 レベル3 (40/100)UP
商人 レベル2 (62/100)UP
狩人 レベル3 (30/100)UP
調理師 レベル3 (43/100)UP
地図士 レベル1 (97/100)UP
薬師 レベル1 (28/100)UP
我流剣士 レベル1 (65/100)UP
木こり レベル1 (90/100)UP
楽士 レベル1 (25/100)UP
教師 レベル0 (91/100)UP
パチン・コ流戦闘術 レベル1 (28/100)UP
スキル
夢想具現 レベル1 (100/100)ー
直感 レベル1 (92/100)UP
格闘術 レベル0 (10/100)NEW!
剣術 レベル2 (25/100)UP
弓術 レベル0 (78/100)UP
小剣術 レベル0 (78/100)UP
暗器術 レベル0 (78/100)UP
フォークダンス レベル5(1/100)UP
フォークマスター レベル0 (1/100)NEW!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます