第34話 無理ってのはね。うそつきの言葉なんだよ

 神聖歴579年 夏の終わり月 30日



 もう夏も終わり、秋の気候に近づいてきた頃。


 ズシンッ! ズシンッ! と重い足音を立てながら、森の中を走る。隣で同じように走るザンムの軽やかな足取りとは異なり、森の土に深い足跡を刻みながら今日の薬草摘みも無事に終了することが出来た。



「ふーッ、ふーッ」


「すごいあせーみずのむー?」


「いや、大丈夫。自前のがあるから」



 共に森をかけたザンムの気遣いに断りを入れ、信力でスポーツドリンクを創り出す。コンビニの夢を見て一番助かったのは、こういう飲料みたいなこまごまとした便利なものを作る事が可能になった点だろう。ラーメン屋の夢はラーメン関連と木刀くらいしか目ぼしいものが思いつかなかったし、キャンプの夢で呼び出せる飲料は酒類ばかりだった。


 この世界、飲み物は水か薬草なんかを用いて作るお茶くらいしかない。大量に汗をかいた時の水分補給には適さないから、人目を気にしないところではこうやってスポドリを出したりして飲んでいる。


 特に道場へ通い始めてからはこのスポドリに何度も助けられている。夏場というのもあるが道場の鍛錬は尋常じゃない位に体力を消耗するから、スポドリで適切な水分補給をしないと本当に死にかねないのだ。

 


「うちもお兄から道場の話は聞くけど、こんなにキツいとは思わなかった。うちももう少し大きくなったら通おうと思ってたけど、怖くなってきた」


「いや。他の弟子はこんな事やってないよ」


「じゃあなんでタロゥはやってるの?」


「……なんでだろうね」



 ネネに今着ている服を指さしてそう言うと、ネネは訳が分からない、といった表情で首を傾げた。この服、重りが仕込まれてて多分俺の体重と同じくらいの重量なんだ。これ着て日常生活を送れって言われた時はあの師範代は頭がおかしいんじゃないかと思ったけど、実際にこれを着て生活してるとどんどんステータスが上がっていってるのが分かるから文句を言う事も出来ないんだよね。



「うぐぐぐぐおごごごごご!」


「うん、体がまだまだ泳いでるね。もう一度一の型をはじめからいってみよう」



 午前中に薬草摘みを終わらせ、昼に妹のためにラーメン定食を用意して一緒にご飯を食べ(今日のラーメンはトマトラーメン。ピリ辛のひき肉を麺の上にトッピングしたスパイシーなお味は絶品!)英気を養った後に道場に顔を出し、まず最初にやる事は師範代が良いと言うまで同じ姿勢を維持する事だ。


 もちろん自分と同じくらいの重量の服を着たまま。



「うぎぎぎぎぎぎ!」


「力み過ぎだよタロゥ。タロゥの力ならそこまで力まなくても姿勢の維持くらいは出来るから力まない力まない」


「むりりりりりり!」


「無理ってのはね。うそつきの言葉なんだよ。やればできるんだからやるんだ」



 どこぞのブラック経営者みたいな事を口にするコーケンさんに純度の高い殺意を抱きながら、良しと言われるまで同じ姿勢を続けていると外が暗くなり始め、他の道場生が帰る頃合いにようやくその日の鍛錬は終了する。



「じゃー明日も同じ時間に来るんだよ」


「はいぃ……」



 もちろん帰りも重り入りの服を着て歩くことになる。ただ、単に歩くだけならもう苦にもならないからこの時間が一番の休憩時間と言えるかもしれない。孤児院に帰るころにはある程度体力も回復してきているため、重り入りの服を脱いで水とコンビニ製品の洗剤で洗い、この服を乾かすためだけに自作した頑丈な物干し竿にかけておく。


 これで一日の仕事は終了。控えめに言って地獄のようにキツい。キツいが、着々と上がっていくステータスの数字を見ているとやる気がむくむくと湧き上がってくるのだ。



生力24 (24.0)

信力75 (75.1)

知力22 (22.0)

腕力25 (25.0)

速さ24 (24.0)

器用22  (22.0)

魅力22 (22.0)

幸運12  (12.0)

体力24 (24.0)



 これが現在の俺のステータスだ。一時期伸び悩んでいた、というよりも上限にぶち当たったという感じだった腕力等が少しずつ伸び始め、現在では25にまで上がった。これは戦闘職などではない一般男性のステータスとほとんど変わらない数字になる。


 ちなみに1年前は、



生力15

信力38 

知力10

腕力11  

速さ14 

器用13 

魅力9  

幸運7 

体力18



 くらいのステータスだった。流石に細かい部分までは覚えていないが、ほぼ2倍近い数字になっているステータスが多くある。実際に、去年はザンムについていくので精一杯だった森走りも現在では重り付きで走れるくらいには身体能力が跳ね上がっている。


 そして20を超えた辺りで一気に成長が鈍化した辺り、その辺が普通は上限値なんだろうな、という感覚はあったのだが、道場通いによってこの上限値の天井を壊したのか最近は結構な速度でまたステータスが伸び始めた。


 つまりコーケンさんは俺の成長に関して正しい事をやっている筈なのだが……ただ構えてるだけなせいで自分が成長しているという感覚がステータス欄しかないため、達成感的なものがほとんどない。ステータスが見れない前世だと、武術をやってる人はどうやってモチベーションを保ってるんだろうな。自分じゃ全く成長が感じられないぞ、これ。



「兄ちゃ。へんなかお。おなかすいたの?」


「いんや。考え事してたの」



 道場に通う事は間違っていないはずなのに正しいと確信できない。そんな微妙な状況に1人で思い悩んでいると、妹が心配そうに声をかけてきた。失態だ。妹に少しでも不安な様子を見せるなんて、兄失格である。


 一瞬で頭の思考回路を切り替え、笑顔を浮かべる。一日の癒しの時間に余計な事を考える場合じゃないだろう、俺。



「兄ちゃ。シスね、みっつまでかぞえられるの」


「そうか! システィは賢いな」


「ひとーつね。ふたーつ。みーっつ! みっつまでかぞえられるの!」


「うんうん。偉いぞシスティ。勉強したのか?」


「べんきょーしたよ! ロゼッタね、姉ぇねがね。ひとーつ、ふたーつってかぞえてくれたの!」



 自分の小さな手を使って数を数える妹の姿に、全ての疲れが洗い流されていくのを感じる。まだ3歳なのに、もう学習意欲を持っている。もしかしてうちの妹は天才なんじゃなかろうか。


 しかし、ロゼッタが数字を教えてくれたのか。ここ最近、俺が居ない間にもロゼッタが孤児院の視察に来ていたというのは聞いているが、まさか妹に数字を教えてくれているとは思わなかった。


 教育、か。そういえば孤児院ではレンツェル神父が簡単な勉強を教えてくれるが、本格的に学ぶという事は出来ていない。教会も併設されると言うし、この機会に学ぶための機会を設ける事とかが出来れば、他の孤児の選択肢を増やすことも出来ると思うんだけどな。それにうちの妹は天才だから学ぶ機会をもっと増やしてあげたい。一度レンツェル神父に相談してみるか。



――――――――――――――――――――――――――――――

更新の励みになるのでフォロー・☆評価よろしくお願いします!


タロゥ(6歳・普人種男) 


生力24 (24.0)UP

信力75 (75.1)UP

知力22 (22.0)

腕力25 (25.0)UP

速さ24 (24.0)UP

器用22  (22.0)

魅力22 (22.0)

幸運12  (12.0)

体力24 (24.0)UP


技能

市民 レベル3 (45/100)UP

商人 レベル2 (68/100)UP

狩人 レベル3 (33/100)UP

調理師 レベル3 (46/100)UP

地図士 レベル1 (99/100)UP

薬師  レベル1 (34/100)UP

我流剣士 レベル1 (78/100)UP

木こり レベル1 (91/100)UP

楽士 レベル1 (29/100)UP

教師 レベル0 (92/100)UP

パチン・コ流戦闘術 レベル1 (46/100)UP


スキル

夢想具現 レベル1 (100/100)ー

直感 レベル1  (95/100)UP

格闘術 レベル0  (25/100)UP

剣術 レベル2  (38/100)UP

弓術 レベル0  (91/100)UP

小剣術 レベル0 (91/100)UP

暗器術 レベル0 (91/100)UP

フォークダンス レベル5(12/100)UP

フォークマスター  レベル0 (12/100)UP

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る