第14話 スープをライスにまぶして掻っ込むと飛ぶぞ
神聖歴578年 秋の中月 8日
夏も完全に終わり、随分と涼しくなってきた頃。森を回る時間も合うし年代も近いからとここ最近はすっかり一緒に森歩きをするようになったネネが、朝の挨拶を交わす間もなく近寄ってきてフンフン、と鼻を揺らし始めた。
あれ、俺、臭いかな? いや今日の朝ラーはとんこつじゃないしニンニクも入れなかったはずだが……とドギマギしていると、ネネは「おさかなの良い匂いがする!」と大きな声で叫んだ。
あ、ああそっちか。今日の朝はにぼしベースの魚介ラーメンだったからな。ネネの食事事情は聴いた事が無かったが、この反応を見るに魚が好きなんだろうな。
彼女のお陰でこの森の薬草にも大分詳しくなったし、布教を兼ねて一杯くらいならご馳走するものやぶさかではない。ついでにザンムにも日頃お世話になってる礼を兼ねて一杯ご馳走するべきかな。
出がけで少し騒いだがその後は特に問題もなく、俺たちは背負いかごを背負って森の中に入った。森に入ってからは俺とザンムは小走りになり、ネネはザンムの背負いかごの中に入って今日採取する薬草の群生地まで移動する。地図を書いて近隣の森の薬草の群生地は把握したから、今はそれぞれの群生地に日にちをズラして採取に訪れるようにしているのだ。
もちろん一度の採取でその土地の薬草を取りつくすことはしない。種類にもよるが大体の薬草はある程度残しておけばすぐに増えてくれるからだ。こうする事によって毎日、継続的に同等量の薬草を採取する事が出来るようになったのだが、このメリットをネネに説明して納得してもらうのは少し骨が折れた。ある分だけ取りつくしてしまうと次に繋がらないという事を理解してもらうまでに、3か所も群生地を潰している。
ただ、一度理解してもらった後はこの仕組みをネネは非常に気に入ってくれたようだ。薬草採取のために森に入っても肝心の薬草を見つけられずに帰る、なんて事もよくあったようだから、こうやって毎日定量持ち帰れるのは非常に助かるらしい。
まぁ、全然需要に供給が追い付いていないそうだから取れるだけ取る、という考えも分かるのだが。いっそのこと薬草畑でも作ってみればどうかと思ったのだが、栽培できる薬草はすでに栽培していて、森の中でしか育たない類のものだけを採取してるらしい。そりゃあそうだろうな。畑で取れるなら高い金で誰も常時依頼なんか出すわけがない。
大体30分ほど森の中を走り、今日の群生地に到着した。最初の頃はこの場所に到着するまでに2時間ちかくかかっていたが、今は30分。当時はひぃひぃ言いながら歩いていた事を考えると、森の移動も大分慣れてきた気がする。
「あんた達、凄いね。うちはこんなに走れない」
「たんれんだからね。つづければネネもできるようになるよ」
「きづいたらーまえよりずっとらくになってたねー」
現在の俺のステータスは
生力16 (16.7)
信力42 (42.7)
知力12 (12.3)
腕力13 (13.3)
速さ17 (17.3)
器用14 (14.8)
魅力10 (10.8)
幸運8 (8.4)
体力20 (0.0)
となっている。一部のステータスは大人並の数字になっており、更に一部は伸びなくなっているものもある。これをレンツェル神父に見せたところ、彼は目を見開いて驚いた後に恐らく年齢によるものだと答えてくれた。
通常ここまで伸びることがないためそうそう起きないが、基本的に人種には体の成長度合いに応じた上限があるらしい。要は現在の体の限界値というわけだな。体力はこの限界値まで伸びたためこれ以上上乗せする事ができなくなったようだ。
この上限は体の成長によって伸びていくそうだから、もっと体が大きくなれば体力の値もまた伸ばすことが出来るようになるらしい。まぁ、この半年ほどで色々成長を実感できたが、俺自体はまだ齢5つのガキだからな。体が小さいからこれ以上伸びないって言われたらそうだよな、と納得するしかない。
むしろ現在の年齢の限界まで鍛えられたのを誇るべきだろう。信力に至ってはノンストップでまだ伸びてるのは、体の大きさや成熟具合に関係がないからだろうな。
本日の分の薬草採取と薪拾いを終えた俺たちは、一度孤児院に戻った。妹に昼ラーメンを出さなければいけないのと、日ごろの感謝を込めてザンムとネネにラーメンをご馳走するためだ。
「うれしいなー。ぎんか20はさすがにはらえないからーあきらめてたー」
「銀貨20!? ちょ、そんなにはらえないわよ……?」
「だいじょうぶ。きょうはおれのおごりだから」
ザンムは毎日俺と妹がラーメンを食べているのを見ていたから、いつか食べてみたいと思っていたらしい。ただ、イールィス家にラーメンを提供する際の値段も知っていたから口には出していなかったようだ。言ってくれれば俺だって……いや。他の孤児たちが見ている手前金は取ったけど、安く提供するくらいはしたんだけどね。
さて、そんなザンムには日ごろの感謝を込めて、豪華に牛骨ラーメンをプレゼントだ。牛骨出汁のスープは豚骨にくらべて脂が少なく、濃厚なのにさっぱりとした味わいになる。その中でもこいつはしっかりと牛骨を煮込みコラーゲンがたっぷりスープに染み渡った特製のもので、お値段信力にして13。ライスセットで15である。このスープをライスにまぶして掻っ込むと飛ぶぞ。
そしてネネには彼女の希望通り魚介系ラーメンを選択。朝彼女が良い匂いだと言っていたにぼしラーメンのライスセットだ。にぼしラーメンは若干ほろ苦さのある旨味を楽しむ通向けのラーメンだ。このにぼしラーメンのスープはもうほぼ煮干し出汁と言っても過言ではなく、ご飯とも相性抜群。全然味わいが違うのにお茶漬けを食べてる気分になる。
「さ、どうぞたべて」
「ありがと-」
「にゃぁ……いいにおーい! でも、ちょっと熱そう……」
「あ、ねこじたか。とりざらおいとくからこれつかってさまして」
猫人種の血のせいか熱いものが苦手らしいネネに取り皿を渡すと、彼女はフォークを使って恐る恐るといった様子で取り皿に麺を装い始めた。事前に銀貨20枚なんて言っちゃったから随分と遠慮しちゃっているようだ。
一方でザンムはフォークを使って多少たどたどしいながらも麺をフォークに巻き付けて、ぱくりと口に持っていく。
「……うまーい! すごい! こんなにおいしいのはじめて!」
「そうだろうそうだろう」
「ふー、ふー……うみゃ! うみゃい!? なにこれ美味しい! こんなの初めて!」
「そうだろうそうだろう」
二人が美味い美味いと叫びながらフォークを進める姿に、俺はある種の満足感を抱きながら頷き続けた。これでまた二人、ラーメン道に目覚めたのだ。なんと喜ばしい情景だろうか。
この調子で少しずつラーメン道に目覚めた人間を増やせば、あるいはこのサニムの地にご当地ラーメンを誕生させることも出来るかもしれない。ご当地ラーメン。私の好きな言葉です。
まぁ、それはそれとして。自分が好きなものを友人たちが美味しいと言って食べてくれるのはやっぱり嬉しいものである。また機会があれば今度は最推しの豚骨ラーメンチャーハンセットを食べて貰おうかな。
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タロゥ(5歳・普人種男)
生力16 (16.7)
信力42 (42.7)
知力12 (12.3)
腕力13 (13.3)
速さ17 (17.3)
器用14 (14.8)
魅力10 (10.8)
幸運8 (8.4)
体力20 (0.0)
技能
市民 レベル2 (1/100)
商人 レベル1 (21/100)
狩人 レベル1 (72/100)
調理師 レベル2(8/100)
地図士 レベル1(11/100)
薬師 レベル0(34/100)
スキル
夢想具現 レベル1 (100/100)
直感 レベル0 (92/100)
剣術 レベル0 (51/100)
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