第13話 薬剤師見習い

 神聖歴578年 秋の始め月 2日



 薪拾いの仕事は現状の俺にとって、トレーニングとしての面が大きい。ザンムぐらいの体の大きさならもう少しやりようもあるんだが、流石に今の体格だと運べる量に限界があるからだ。


 その分、地図を書いたり走ったりして森歩きという環境を有効活用していたのだが、冒険者ギルドのライラから紹介された新しい仕事はそんな俺の現状に非常にマッチしているものだった。



「ネネー。これどうー?」


「ん。それは熱さましになる薬。ただ、もうちょっと根っこを綺麗に取った方がいい」


「わかったー」



 ザンムの質問に彼女がハキハキした口調で応える。時折物音がするたびにぴくりと揺れる猫耳は、おそらく周囲の警戒をしているからだろう。彼女は普段、一人で森の中に入って薬草を摘んでいるらしいから、作業をしながら周囲を警戒することに慣れているのだろう。


 彼女の名前はネネ。外街の薬剤師マリーダの弟子で、薬剤師見習いの少女だ。





 冒険者ギルドには常時依頼というものがある。それらはたいてい市民生活に必要な物資の採取だったり往来に邪魔な生物の駆除だったりするのだが、その中の一つに今回俺たちが受けた薬草摘みというものがある。薬草を摘んできた分報酬がもらえる出来高制の仕事だ。買取価格はそれほど高額ではないが、薪拾いよりは値が付くし数も多く運べる。薪一本より薬草一束の方がずっと軽いし背負いかごにも数が入るんだ。


 それに薬草の知識を身に着ける事も出来るため、野外の活動をする冒険者はほぼ経験したことがある依頼らしい。仕事先で腹を下したり熱を出したりしたとき、薬草の知識があるのとないのとじゃ生存率が大きく変わるからね。


 もちろんいきなり森を歩いて薬草を摘んで来いと言っても出来るわけがないから、基本的にこの依頼を受ける時は朝方、薬剤師が森に薬草を摘みに行くときについていく形をとっている。付き合わされる薬剤師が損をするんじゃないかと思ったが、薬剤師側にとっても森に1人で入るより複数人で入った方が安全になるため問題ないのだとか。


 一人だとなにかあった時にそのまま死に直結するし、複数人居れば獣もこっちを警戒するからね。2,3人で動けば劇的に安全性は上がるのだ。もちろんコボルト騒動の時みたいな例外もあるけど。



「薬草の見分け方はこのネネちゃんが現地で教えてくれるから」


「ん」



 そういった訳でライラに紹介された相手がネネだった。緑色のローブを身に纏った猫っぽい顔立ちの俺より少し年上くらいの少女で、ぴくぴくと動く猫耳に視線を向けると、「うち、ハーフ」とだけ答えた。猫耳以外は猫っぽい顔立ちの女の子にしか見えないが、彼女は猫人種と普人種のハーフらしい。


 彼女に話を聞くと、外街から入ってすぐの森で朝から昼過ぎまで薬草を採取してるらしい。俺たちはその辺はもういい薪が落ちてないからあんまり歩かないんだよな。


 彼女に自作した地図を見せて今は森のこの辺を毎日歩いているというと、彼女は目をぱちくりさせた後に地図を上から眺めたり横から眺めたりして「わかんない」と答えた。これに関しては反省だ。地図を見るってのはそこそこ知識が居るし、そもそも俺のつたない地図だとどこが起点か分からなきゃ意味が通らないのだろう。


 実際に森に行って「ここから書き始めてこう広がってるんだよ」と説明したらネネも地図の見方が分かったらしい。一度意味を理解した後は大はしゃぎで地図に薬草の群生地を書き込もうとしたので慌てて止めて、明日までに新しい地図を持ってくるからそれに書いてくれとお願いしておく。今渡した地図に上から書き込まれると、他の目印とかもぐちゃぐちゃに混ざって意味が分からなくなってしまう。それはあんまりよろしくないからね。


 ただ、この地図の件でネネは俺とザンムを「人数合わせの雑用」から「そこそこ森を歩けて地図も描ける奴」くらいには認識してくれたらしく、次の日から始まった薬草集めでは結構しっかりと薬草の特徴や摘み方についてを教えてくれた。



「まずは1種類をしっかり摘めるようになる。それが出来るようになったら次を。その次が出来たらまた次。一個一個前に進めばいい」


「なるほど。けんじつだね」


「ん。薬剤師が横着したら人が死ぬ。一歩一歩を確実にっていつも師匠に言われてる」



 言葉通り、彼女は俺たちへ教えることを厭わず丁寧に薬草の見分け方と摘み方を教えてくれた。商売のタネをそんなに簡単に教えて良いのかとも思ったけど、ネネ曰く「あと100人くらい人手がいても大丈夫」との事でむしろ超需要過多な状況らしい。


 この原因はやっぱりコボルト騒動みたいで、近場の森の安全性が一時的にかなり悪化した件が今も尾を引いて森での採取をしてくれる冒険者が随分と減ってしまったのだとか。そういえば兵舎に薪売りに行ったとき、隊長さんが「お前ら、罠使えるなら猟師の仕事やらねぇか……?」とか聞いてきた事があったな。アレも森に入る人が減ってる影響かもしれない。



「タローはいいね、どんどん上手になってる。ザンムは力が入りすぎ。もっと壊れ物を扱うみたいに優しくして」


「わかった」


「うぇぇ……むずいー」



 物にもよるが上手に採取できた薬草の束は最低でも銅貨4~5枚で買い取ってもらえるらしい。これを原料にした薬はそれこそ風邪薬でも銀貨になるからな。当然と言えば当然だろう。


 背負いかごの占有スペースも薪に比べたら随分と小さいから、上手く採取が出来るようになれば一度の利益で銀貨に手が届く様になるかもしれない。



「ん。熱さまし採取はもう大丈夫そう。次はこっち。こっちは下痢止めになる」


「りょーかい」



 とはいえそのためにもまずは勉強だ。早めに独り立ち出来るように頑張らないとね。



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タロゥ(5歳・普人種男) 


生力15 (15.1)

信力38 (38.7)

知力10  (10.8)

腕力11  (11.3)

速さ14 (14.6)

器用13  (13.8)

魅力9  (9.0)

幸運7  (7.1)

体力18 (18.9)


技能

市民 レベル1 (89/100)

商人 レベル1 (9/100)

狩人 レベル1 (53/100)

調理師 レベル1(75/100) 

地図士 レベル0(88/100)

薬師  レベル0(1/100)


スキル

夢想具現 レベル1 (100/100)

直感 レベル0  (76/100)

剣術 レベル0  (35/100)

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