四章 添い寝る者たち

 レイラの寝室に、恐る恐る入ってくるアズラエラ。


レイラは気絶していた時と違って、心地よさそうに寝息を立てていた。


「ゴクリ……」


ただ起こすだけだというのに、レイラの無防備な様を見て悪いことをしている気分になったアズラエラは、忍び足でレイラに近づく。


「ひ、姫様……あああ朝、ですよ……」


震えながら声をかけるも、反応はない。


呼吸の音だけが部屋に響く。


(こ、声をかけても起きないなら、お、おか、お身体に、触らないと……)


呼吸に合わせて、レイラの胸元が上下する。


数秒の間見惚れた後、我にかえって目を逸らした。


(お、お胸じゃなくて!ほ、他のところを……)


逸らした先に、布団からはみ出したレイラの手を見つける。


手をそっと握って、再びアズラエラは声をかけてみる。


「ひ、姫様……」

「うんん……」


僅かに手に力が入り、レイラが薄目を開けた。


「アズラエラ……?」

「姫様、おはようございます……」

「うん……おはよ……」


いつもの慈しみのある大人びた笑顔ではなく、ぽやぽやとした微笑みを浮かべた。


起きているときよりも幼い印象を受ける寝起きのレイラは、掛け布団の中でモゾモゾと身じろぎした後、力尽きたように二度寝を始める。


「姫様……?」

「ふわぁぁ……もうちょっと、ねかせて……」

「で、でも、もう朝ですよ……?」

「えー……じゃあ……はい……」

「はひ……?」


目はうっすら閉じたまま、身体は布団に寝転がったまま、レイラは両手を広げてアズラエラを見つめる。


「おこして」


アズラエラは意図を理解すると同時に赤面した。


寝転がったままの身体、ハグを求めるように広げられた両手、起こしてというひと言。


抱き起こしてほしい、と甘えられているのである。


普段の優しくも凛としたレイラからは想像も出来ないほどの甘えん坊っぷりだ。


(寝起きの姫様はって、こういうことだったんですね……!?)


任務を託したマリーとポピーの言葉にようやく合点がいく。


「そ、それでは、ひひひ姫様、私めにつかまってください」

「うん、つかまえて」

「ピャッ!」


寝起きのレイラの一挙手一投足がアズラエラの理性を溶かしにかかる。


これは任務だと何度も自分に言い聞かせながら、アズラエラはレイラを優しく抱きかかえた。


「さ、さあ、起こしますよ姫さ――」


 抱き起こそうとしたアズラエラを、突如何かが引っ張る。


それはアズラエラにしがみついていたレイラの腕だった。


突然のことに抵抗する隙もなく、レイラに抱きしめられるように布団の中に引きずり込まれた。


「えへへ……アズラエラ、つかまえたー」

「ヒッッヒヒ、ヒヒメヒメヒメヒヒメヒメ……」


突然のことに動揺したアズラエラは、更にレイラの容赦ないハグでパニックになった。


つい先ほど見惚れたばかりのやわらかな胸部に顔を押し当てられ、いつのまにか右脚はレイラの両脚に絡めとられている。


蓋をするように被せられた掛け布団には、先ほどまで接していたレイラの温度がくっきりと残っていた。


「ぎゅ〜」

「ヒ、ヒヒメヒメメメ……」


混乱によって、もはやそんな鳴き声の生き物と化すアズラエラ。


二度寝への本能だけで動く知性の獣となった寝起きレイラは、すでに手中に落ちた獲物アズラエラを仕留めるべく耳元で囁いた。


「アズラエラ……」

「ヒッッ……」

「いっしょに、寝ましょ……?」

「ヒメェ……」



 アズラエラが寝室に入ってから2分と12秒。

ミイラ取りはミイラとなった。

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